日本は「戦う覚悟」を持てるのか

潮 匡人

先日、自民党の麻生太郎副総裁が訪問先の台湾で講演し、台湾有事の際には台湾防衛のため防衛力を行使する考えを表明、賛否両論が渦巻いた。

講演で、麻生副総裁は、中国が台湾への軍事的な圧力を強めていることについて、「台湾海峡の平和と安定は、日本はもとより、国際社会の安定にとっても重要だ。その重要性は、世界各国の共通の認識になりつつある」と指摘した上で、「今ほど日本、台湾、アメリカをはじめとした有志の国々に非常に強い抑止力を機能させる覚悟が求められている時代はないのではないか。戦う覚悟だ。いざとなったら、台湾の防衛のために防衛力を使うという明確な意思を相手に伝えることが抑止力になる」と強調した。

講演の最後にも、「台湾の人たちの生活、幸せ、繁栄を維持するため、現状を守り抜く覚悟を蔡英文総統の後に総統になられる方にも持っていただき、同じ価値観を持つわれわれと一緒に戦っていただけることを心から期待する」と連帯を呼びかけた。

NHKより

麻生副総裁が述べたとおり、日本には、台湾や米国などの有志国とともに、〝戦う覚悟〞が求められている。8月10日付「産経新聞」朝刊の「主張」(社説)を借りよう。

戦争を防ぐには、戦う態勢と覚悟を伴う抑止力を相手に示さなければならないという逆説の実行が大切である―が安全保障の世界の常識といえる。/麻生氏は副総理兼財務相当時の令和3年7月にも「日米で台湾を防衛しなければならない」と語っている。「力の信奉者」である中国を自制させるには、日米台などが連携して抑止力を向上させ、同時に外交努力を尽くす必要がある。

翌9日付の台湾大手紙「自由時報」は一面に「台湾海峡の安全を守る決意を示す」との見出しを掲げて、講演を紹介。加えて二面と三面にも関連記事を掲載した。麻生副総裁が、台湾でも人気の漫画「ワンピース」を取り上げ、「主人公のルフィは友達を裏切らない」と発言したことを、「日本は台湾を裏切らない意味だ」とも論評した。

果たして、そのとき、日本は〝ルフィ〞になれるのだろうか。しっかり、台湾の期待に応えられるのだろうか。

不安材料には事欠かない。事実、在日本中国大使館は、「身の程知らずで、でたらめを言っている」とする報道官談話を発表。談話で「台湾は中国の台湾であり、台湾問題の解決は完全に中国の内政問題だ」と指摘。「もし日本の一部の人々が中国の内政問題と日本の安全保障を結びつけるならば、それは再び日本を誤った道に導くことになるだろう」と非難した。

中国当局の反発に加え、台湾メディアでも、中国寄りの「中国時報」は「戦争をあおっている」、「台湾への善意が感じられない」などと麻生講演を批判した。

日本国内でも、案の定、野党幹部らが記者会見で以下のとおり批判した。

立憲民主党の岡田幹事長「外交的に台湾有事にならないようにどうするかが、まず求められる。台湾有事になったとしても、アメリカは、はっきりと軍事介入するとは言っておらず、含みを持たせている。最終的に国民の命と暮らしを預かっているのは政治家なので、軽々に言う話ではない」

共産党の小池書記局長「『戦う覚悟』という発言は、極めて挑発的だ。麻生氏は、明確な意思を伝えることが抑止力になると言ったが、恐怖によって相手を思いとどまらせることは、軍事対軍事の悪循環を引き起こすものだ。日本に必要なのは、戦う覚悟ではなく、憲法9条に基づいて絶対に戦争を起こさせない覚悟だ」

野党だけではない。連立与党の公明党からも、同八月末、山口代表の中国訪問を控えていたこともあり、「中国を明らかに刺激している。本来なら避けて欲しかった発言だ」との党幹部発言が報じられた。

台湾有事は極東有事であり、日本有事ではない。私は昨年上梓した拙著『ウクライナの教訓 反戦平和主義(パシフィズム)が日本を滅ぼす』(扶桑社発売、育鵬社発行)で、そう述べた。「保守」陣営からの反発も招いたが、その一方、同書は「咢堂ブックオブザイヤー2022大賞」(外交・安全保障部門、尾崎行雄記念財団)に選ばれた。

きちんと同書を読んでいただければ、避けられた誤解だったが、「台湾有事は極東有事であり、日本有事ではない」が、同時に、けっして台湾有事は他人事ではない。むしろ日本は当事国となる。その趣旨で「台湾有事は日本有事」と言っても許されるかもしれないが、それでは、日米間の「事前協議」問題や、中国による核恫喝のリスクを含めた重要な論点が雲散霧消してしまう(拙著参照)。私を批判するだけの「保守」陣営には、そのリスクが見えていない。

麻生副総裁が述べたとおり、「戦う覚悟」は必要である。だが、すでに現職総理でもなく、閣僚ですらない自民党副総裁が、そう講演しただけで内外から反発や批判が噴出するのだ。そのとき、本当に「戦う覚悟」を持てるのか。小谷哲男教授(明海大学)のX(旧ツイッター)投稿を借りよう。

 

そのとおり。拙著『台湾有事の衝撃』(仮題・秀和システム)は、日本国民に、その覚悟を問うている。なお、同書は主に、この「アゴラ」への寄稿を再構成したものがベースとなっている。再録をご快諾くださったアゴラ関係者の皆さまに、この場を借りて感謝申し上げたい。

(次回に続く)