ジャニー喜多川氏(2019年死去)の性加害事件について、当方はこれまで関心を払ってこなかったが、日本のメディアから流れるニュースに、「ジャニー喜多川性加害事件」関連記事が余りにも多いこともあって、一度事件の全容を理解したいと思っていた。
その矢先、ジャニーズ事務所関係者による記者会見が7日開かれたので、一度聞いてみた。ただ、同記者会見が4時間12分以上の長時間ということもあって、残念ながら最後までは付き合うことができなかったことを予め断っておく。
以下は、ジャニー喜多川性加害事件について、当方なりの感想を書きたい。ジャニーズ事務所での事件がなぜこれまで明らかにされず、隠蔽されてきたか、関係者やメディアの責任などを考えていく中で、「事件とその後の経緯はローマ・カトリック教会の聖職者による未成年者への性的虐待事件に酷似している」と気が付いた。
記者会見には藤島ジュリー景子代表取締役、東山紀之新社長らが登壇し、事務所の事件に対する立場を改めて表明した後、記者たちの質問に答えた。記者会見に先立ち、先月29日、外部有識者によるジャニー喜多川性加害事件の独立調査報告書が発表された。その報告書では、事件の責任、経緯、今後の対応への提案などが記されているという。
記者会見では藤島ジュリー景子さんが引責で社長ポストから降り、東山氏が就任した経緯が説明された。大手芸能プロダクション、ジャニーズ事務所として責任を明確にし、東山新社長のもと再スタートをするという予定だ。社名の変更問題や、100%の株を有する藤島ジュリー景子さんが東山新社長体制のもとでどのような役割を果たすことになるかは今後の課題だろう。
当方にとって関心を引いた点は、週刊誌などでジャニー喜多川の性加害問題は久しく囁かれていたにもかかわらず、被害者が告白するまでこれまで法的にも不問にされてきたことだ。被害者数は数百人に及ぶという。そして事件が公に報道された後、外部の有識者による独立調査委員会が設置され、調査に乗り出し、報告書を作成。それを受けて、関係者は謝罪を表明し、被害者への補償問題、精神的ケア問題がテーマとなってきたわけだ。
この事件発覚前後のプロセスは、カトリック教会の聖職者による未成年者への性的虐待事件のそれと非常に酷似している。
スーパースター的存在だったヨハネ・パウロ2世時代に聖職者の性犯罪は発生していたが、それを取り上げた聖職者や教会関係者は誰も出てこなかった。それがベネディクト16世に入ると途端、世界各地の教会で聖職者の未成年者への性犯罪が暴露され、犠牲者が公の場で訴え始め出した。ただし、カトリック教会の聖職者の性犯罪件数は数件ではなく、数万件に及ぶ。教会の組織的犯罪というべきかもしれない。
聖職者が未成年者に性犯罪を繰り返していた時、バチカンを含む教会指導者は事件の発覚を恐れて性犯罪を犯した聖職者を人事異動して信者たちの目に触れないようにしたり、事件を隠蔽してきた。
ジャニー喜多川性加害事件と教会聖職者の性犯罪の酷似点をまとめる。①事件の舞台が大手芸能プロダクション事務所やカトリック教会関連施設といった閉鎖的な社会空間で発生したこと、②被害者は未成年者の男の子たちに集中③上司(バチカン、教会指導者、ジャニー喜多川)からパワハラ・セクハラを受けてきた。そのため、被害者は事件を外部に告白できない状況下にあった一方、関係者は事件の発覚を抑えるために隠蔽に走ったことなどだ。
被害者が事件を告白すると、一挙に沈黙の壁が崩れ、事件は次から次と暴露されてきた。事件を薄々知りながら、沈黙してきた関係者、メディア関係者も事件を報道しだした。そして、有識者による独立調査委員会が設置され、報告書が作成され、被害者への補償問題が出てきたわけだ。
ちなみに、アメリカでは教会での虐待に関する多くの訴訟が起こっている。性的暴力の被害者が教区に対して損害賠償を求めて訴えている。例えば、サンフランシスコ大司教区では訴訟件数は500件以上のため、損害賠償額は巨額となり、教会は破産の危機に直面している。ジャニー喜多川性加害の犠牲者数が最終的に何人か不明だが、被害者の精神的ケアと共に、損害賠償問題は今後の大きなテーマとなるだろう。
ジャニー喜多川とカトリック教会聖職者が犯した犯罪は性犯罪だ。それも児童を対象とした性的虐待事件だ。加害者の異常な性向を事前にキャッチすることは容易ではない。ましてや、被害者が未成年者となれば猶更だ。加害者が既に死去し、事件そのものが時効となっている場合、事件発覚後の対応は一層困難となることが予想される。
いずれにしても、性犯罪を犯す人間はジャニー喜多川やカトリック教会聖職者だけではない。両事件は特殊な閉鎖的な団体、組織で起きたものだが、性犯罪は社会のどこにでも起きている。その意味で、両者の事件からも教訓をくみ取ることができる。他人事ではなく、私たちが直面している問題として考えることができれば、今後の危機管理に役立つだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年9月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。