この国で何が起きているのか?:池田良子『実子誘拐ビジネスの闇』

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「ある日、自宅に帰ったら、妻と娘がいなくなっていたんです…。その後は、指定の弁護士を通して連絡するよう妻から一方的に連絡があり…」

神奈川県議会議員に就任してから2か月半が経過したころ、私のもとに来た相談者の訴えに言葉を失った。そんなことが本当に起きているのかと半信半疑でいると、数日後に出席した勉強会で全く同じ構図の事件について匿名の男性から証言を聞く機会があった。

いったい、この国でいま何が起きているのか。詳しく勉強しようと資料を探している時に、ジャーナリストの大高未貴氏から勧められたのが本書であった。

読者の皆さんは「実子誘拐ビジネス」、または「シェルタービジネス」という言葉をご存知だろうか。

著者は卒田(仮名)という男性の事例を元に、娘が奪われ、娘を連れて失踪した妻や義母との交渉、裁判、そして妻側に立って執拗に攻撃してくる多くの弁護士や活動家との戦いを、相手の実名を挙げて反撃。自らの身の上に起こったことを、義憤とともに詳細に綴っている。

「DV」という曖昧で、かつ一切の反論を許さない用語を使って「家族に暴力をふるう酷い夫」像が作られる。父は子供と強制的に引き離され、母と子供はいわゆるシェルターと呼ばれる公的施設に避難。配偶者の「DV」から逃れる人を保護するシェルターに投入される公金や、夫婦を離婚にもっていくことで得られる弁護料などが利権となって、実子誘拐の周辺に群がる人々が甘い汁を吸う。

そして、このビジネスモデルを壊しかねない共同親権制導入を、利権に絡む法曹界の一部も一緒になって潰しにかかる。

国内においては盤石とも見える、弁護士、裁判官、イデオロギーに支配された活動家によるトライアングルの連携だが、海外からは明確に誘拐であると認識されている。

有名な元女性卓球選手が台湾人男性との間にもうけた子供を一方的に日本に連れ帰ったことは、国際基準では誘拐である。同じように日本人と外国人との結婚生活が破綻した際に、子どもを奪われた側が必死に訴える事例として、本書ではアメリカABCのニュース番組を紹介している。

Abducted to Japan: Hundreds of American Children Taken

北朝鮮による拉致問題を国際社会で訴え続ける我が国は、一方では現在進行形で発生し続けている日本人配偶者による子供の一方的な日本への「連れ去り」について、国際社会から拉致国家として批判されている。

外務省のホームページには、以下の記述がある。

ハーグ条約では、国境を越えて子が不法に連れ去られた場合には、原則として、元の居住国に子を迅速に返還することになっています(場合によっては、子を返還しなくてもよいと裁判所が判断することもあります)。

ハーグ条約では子供の連れ去りを明確に禁じられているものの、後半()の箇所にある通り、それを独自の基準で曲解してハーグ条約を骨抜きにしているのが我が国の実態である。

夫婦関係は外の人間には容易に判断の出来ず、DV含めやり取りの詳細は個別判断せざるを得ない。深刻なDVに悩まされている事例が存在することは、否定できない。しかしはっきりと言えるのは、「先進国で(共同親権制へ)移行していないのは日本だけ」であり、「東アジアで単独親権制を堅守している国は北朝鮮と日本のみ」という不名誉な事実である。

実子誘拐ビジネスについて無知であった私は、元々県議会を目指すに当たってこの問題に特別意識を向けてはいなかった。そんな私が関心を持ったのは、妻と共に自分自身が3歳の娘を子育てしていることが大きい。そしてこの問題を放置することは、家族という社会を構成する最小単位が破壊されることを意味する。それはいずれ、国家全体を蝕むことに繋がりかねない。

家族を守れない者は地域を守れない。地域を守れない者が国家を守れるわけがない。

私の師匠である参議院議員の佐藤正久がよく口にしていたこの言葉を、いま私は噛み締めている。