雨量減少で通過できる船を制限
パナマ運河は、全長82キロメートルで6つの閘門室がある。各室に順番に淡水を満たして通過する船を移動させる。大西洋側のがガツン湖と太平洋側のアラフェラ湖から淡水を流して各室を満たしている。ところが、ニーニョ(Niño)現象の影響で2019年頃から雨量の減少が目立ち利用できる淡水が減少している。
今年は2月から4月の間でも例年に比べ50%雨量が少なく、7月末から1日に通行できる船を32隻まで制限し、状況によっては最大38隻までとした。また5月24日からは、大型コンテナー船NeoPanamaxの場合は喫水を13.56メートルまでとしている。即ち、通常の積載量から40%余り積み荷を減らして通行せねばならなくなっている。
その上、場合によっては通行するのに10日待ちを覚悟せねばならない。その影響で輸送のコストアップにつながるようになっている。場合によっては、スエズ運河を通行するように航路を変更している船もある。
今後100年もつセメントも使用
それまで年間で通常1万2000隻以上が通行していた。最大利用国は米国と中国だ。パナマ運河庁の2019年の実績はこれまでで最高の33億6500万ドルを記録している。それによって同運河庁の歳入は17億8600万ドル。この20年余りで同庁にもたらされた歳入総額は168億ドル以上とされている。(2019年12月31日付「BBCムンド」から引用)。
パナマ運河の事業は採算性の高いビジネスである。そのこともあって、同庁ではこれから100年先までの発展計画として2016年に拡張工事を実施。スペインの大手ゼネコンのサシール社(Sacyr)がベルギー、イタリアそしてパナマからそれぞれ1社を参加させて工事を行った。その条件のひとつは今後100年耐えるコンクリートを使用することであった。工事は予定より2年遅れて完成した。
というのも、当初運河庁が知らせた地質と実際のそれとが異なっていたということでサシールでは使用するセメントの質を変更せねばならなくなったこと。そして工員のストライキも影響して工事日数が余計にかかったということだ。その時点では雨量の減少は懸念はされていたが、その対策を検討するほどではなかった。
雨量が減少し温暖化で淡水の蒸発も早まっている
実際、同運河庁では2019年の時点で雨量が例年に比べ20%減少していることには気づいていたという。1隻の船を通行させるにはおよそ5000万ガロン(18500リットル)の淡水が必要とされている。その内の60%は再利用できるシステムを導入してはいるが、残り40%は1隻の船を通行させる為に失うことになる。しかもこの地域の気温が0.5ºCから1.5ºC上昇しているということで、それが二つの湖の淡水が通常よりも10%の蒸発を招くようになっているというのだ。
これからも雨量が減少する可能性はあっても、増える可能性はない。運河事業でこれまで富をもたらして来たが、経済的な恩恵が貧困層にまでもたらされていないという不平等を生んでいる。今後この事業の進展に自然現象の影響で限界がみられるようになると、それはパナマの社会の不平等をより加速化させる可能性もある。