「コロナの感染対策」で高齢者の命は救われたのか?

森田 洋之

malerapaso/iStock

「コロナ対策」で高齢者の命は救われたのか?

ここは非常に重要な論点なのですが、とても難しい問題です。この難しい問題を考えるのに重要な視点が2つあると思います。

一つが、統計学的に高齢者の命(死亡者数)はどう推移したのか?

という視点、いわゆる事実確認です。

もう一つが、高齢者にとっての医療と生活の関係性、また感染症と免疫の関係性

という医療社会学的な視点です。

一般的な医療の専門家でもこれらの視点を逸脱してしまっていることが多いので、今回、あらためて解説しておきます。

まず、統計学的事実確認から。

日本人の死亡数の推移

2020年はコロナ元年でした。

ご存知かもしれませんが…緊急事態宣言や休校措置などで日本中が大パニックになったこの年。世界中でコロナの死亡者数も全体の総死亡者数も急増したこの年…なんと皮肉にも日本人の総死亡数は減少しました。

高齢化がどんどん進行している日本。高齢者数の増加に伴って、死亡者数も必然的に増加し続けていた中、突然の死亡者数が減少したのです。

そう考えると、2020年は高齢者の命が守られていた、つまり「感染対策」の良い意味での結果が表れた、と考えていいかもしれません。

しかし、良いことばかりは続きません。その翌年の2021年はその減った分を補うように死亡数が増加しました。

そして2022年…日本人の死亡数は激増してしまいました。

高齢化の進展に伴う死亡数増加のはるか上を行く増加です。

日本では毎年約2万人程度の死亡数増加が見られていましたが、2022年は通常想定される死亡数より約15万人も多い死亡数になってしまったのです。

これは、あの東日本大震災のときの死亡増を遥かに凌ぐ、あまりにも異常な事態です。

そして今年、2023年はどうかというかと言うと…

今のところ6月までの半年分までしか統計が出ていないのですが、2022年の6月までとほぼほぼ同じ死亡数(ちょっと多めか…)で推移しています。つまり、2022年の異常な死亡数増加が、今年も依然として継続している、ということです。

日本の死亡者の殆どは高齢者です。

2020年は総死亡者数が減って「高齢者の命を守れた」と考えるなら、2021年〜2023年の3年間は、逆に「高齢者の命を守れなかった」と考えるのが妥当です。総数で考えれば、減った数より圧倒的に増えた数のほうが多いので、その意味では、2020年から始まった新型コロナ対策は、結果論ですが、総じて「高齢者の命を守れなかった」と考えて良いのではないかと思います。

以上が統計的な事実確認。

以下、その要因について考えます。

感染対策と高齢者の生活

「感染対策で高齢者の命を守る」

たしかに「近視眼的」にはそうかもしれません。統計で見た通り、2020年の死亡者数は減っています。でもそれを続けてきたら、2022年は死亡数が激増した…。

では、感染対策の「長期的」な影響はあるのでしょうか?

確実にあるでしょう。

このあたりは医学的・統計的なデータがでにくいのですが、現場の医療従事者として、確実に「影響はある」と断言できます。

なぜなら人間の健康とは、身体的な健康だけでなく、精神的にも、社会的にも健康であることが必須だからです。

これはWHOの「健康の定義」でも述べられています。

つまり、新型コロナが怖いと言って壁の中に閉じこもることで、コロナ感染からは逃れられるかもしれませんが、精神的・社会的な健康が甚大に損なわれてしまうのです。本来の「健康」から考えると圧倒的に全体のバランスが悪いわけです。

一般の方の目にはあまり触れないと思いますが、いまだに病院・高齢者施設では面会制限や外出禁止が当たり前に行われています。

この3年間、ずっとこれが継続されているわけです。

病院はまだいい方です、「退院」が出来ますから。でも高齢者施設に「退院」はありません。つまり、施設の方針として面会制限解除・外出制限解除が決定されない限り、下手すると死ぬまで家族との面会も、外出して自宅で家族と過ごすことも出来ないわけです。子供たちにも孫たちにも会えないのです。僕は、実際にそのまま亡くなられた方々を何人も知っています。

こんなことで高齢者の精神的・社会的健康が保たれるわけがありません。

人間という字は「人の間」と書きます。人間という生き物は、人と人の間で、社会的に良好な人間関係の中でないと健康を保てないのです。

身体的な健康ばかりに目を向けて、近視眼的な感染対策を続けた結果、高齢者は3年間家族との面会も外出もできなくなってしまい、長期的な意味での精神的・社会的な健康が失われた…と考えるのは医療従事者として当然ではないでしょうか。

(注:今回は、コロナ感染対策がテーマですので、ワクチンの影響については割愛します)

感染症と免疫

実は高齢者の肺炎死の最大の原因は『肺炎球菌』と言われています。

そんな恐ろしい肺炎球菌なのですが…なんと実は子供の約半数は鼻腔に肺炎球菌を保菌しています。

そんな恐ろしいものを子供が持っている!?

では、高齢者は子供との接触を普段から控えるべきなのでしょうか?

子供は全員肺炎球菌の検査をしないとおじいちゃん・おばあちゃんに会えないのでしょうか?

そんなことはありません。それこそ、そんなことをしていたら精神的・社会的な健康は保てません。

では、「肺炎球菌を保菌している子供たち」と接しても大丈夫なのでしょうか?

ここはあえてはっきりいいましょう。

「大丈夫です。」

肺炎球菌は通常の平均的な免疫機能が維持されている人であれば、感染は成立しないし、仮に感染してもすぐに免疫が排除してくれます。もしくは排除するにも至らず常在菌としてスルーされます。

肺炎球菌で亡くなるのは、高齢や病気などの理由で免疫が低下してきた方々なのです。

つまり、

「実は多くの感染症で感染が成立するためには、菌やウイルスという外部要因にもまして、個人の免疫機能という内部要因の影響の方が圧倒的に大きい」

ということなのです。

ここは新型コロナパンデミックで感染症ワールドに引き込まれすぎてしまった専門家の方々も含めて多くの方々が認識を新たにしていただきたいところです。

コロナとは多くの人にとって死亡に至る恐怖の病ではなく、自分の免疫で対処できる範囲のものだったのに、「とにかく菌やウイルスを遠ざけろ」となってしまったこと、そしてそれが漫然と継続されてしまっていることに日本の悲劇があるのです。

世界はそれに気づいたかのか、早々にマスク・感染対策から脱却し、通常の人間社会を取り戻しています。アメリカでもイギリスでも、台湾でもスウェーデンでも、既に病院は通常営業。マスクすらしていない。高齢者施設での面会制限・外出制限などは人権問題ですから当然行われていません。当たり前ですが、この方が精神的にも社会的にもとても健全だと思います。

まとめ

まとめますと、「コロナの感染対策で高齢者の命は救われたのか?」の答えとしては、

  1. 統計学的に死亡が激増しているので、答えはNOである

その要因として、

  1. 感染対策自体が高齢者の精神的・社会的健康を損ねた
  2. そもそも多くの感染症は菌やウイルスという外部要因にもまして、自分の免疫機能という内部要因の影響の方が圧倒的に大きいということを忘れてしまっている

と言うところです。

以上、「コロナの感染対策で高齢者の命は救われたのか?」でした。