ロシアと北朝鮮の相思相愛:ウクライナ問題が東アジアの地政学的リスクに

金正恩氏がプーチン氏とボストーチヌイ宇宙基地で会談をし、金正恩氏はその後もロシア東部の視察、ショイグ国防相との会談と精力的にスケジュールをこなし、6日間のロシア訪問を終えました。

会談の写真を見る限り、プーチン氏が非常にリラックスしたように見え、いつもの厳しい顔つきから一転し、笑顔があふれています。ただ、プーチン氏の顔がやつれて老けたようにみえたのはウクライナ戦争の雲行きが怪しいからでしょうか?

会談する金正恩総書記とプーチン大統領 北朝鮮HPより

前回の2019年4月のウラジオストックでのプーチンー金会談は金氏がトランプ氏とのベトナムでの決裂会談を受けて、プーチン氏に救いを求めたという背景がありました。今回はプーチン氏が金氏に声をかけたものとされ、プーチン氏はホスト役で金氏をウェルカムする役割。プーチン氏が丁重にホストする二国間会談は久々ではないかと思います。

ではなぜプーチン氏が金氏に声をかけたか、ここは表層的な戦略物資の供給ということだけではないと考えています。

私がみているのが金氏と習近平氏の関係です。朝鮮半島の歴史は中国が支援する、という関係は少なくとも4世紀の朝鮮三国時代から長く続いており、イデオロギー的には現在の北朝鮮と韓国に於いては北朝鮮が兄、韓国が不出来の弟とされます。その弟分がアメリカとくっつき、兄貴分が中国の志願軍とソ連の支援をベースに朝鮮戦争となったのは中朝関係のごく最近の一事象でしかありません。

ただ、この朝鮮戦争をきっかけに中国が北朝鮮に対して冊封体制(封建関係)の歴史もあるのか、上から目線で今日に至ったのも事実。そして金家3代は「そんな中国に不用意に近づくととんでもないことになる」ことを家訓にしています。

金正恩氏が習近平氏に最後に会ったのは19年6月ですが、当時はトランプ政権という共通の敵があり、また習氏の北朝鮮への正式訪問の際でした。基本的には両国の外交は割と淡泊で北朝鮮の各種記念日の式典に対し参加する中国の高官のレベルが会を重ねるごとに下がってきているような状況にあります。

そのような中で、金正恩氏としては年齢的にも歴史に残る自らの功績をそろそろ考えている可能性があり、健康問題の噂があるプーチン氏と今の時点で関係を強化すれば仮に将来、ロシアに新政権が出来た時もロシアとは様々な分野での関係強化のルートは出来ると考えている公算は高いと思います。

ではプーチン氏は武器の問題以外に何を考えているのか、ですが、私はズバリ、極東の防衛力ではないかとみています。ロシアは歴史的に国土の大きさとモスクワの位置関係からロシア西部の防衛比重が大きく、シベリアについては政策的に中国と良好な関係を維持し、国境問題の懸念を払しょくするというのが外交方針だと理解しています。

ところが中国がこのところ外政内政共に苦戦しており、贔屓目に見ても積極外交をできる状況にはありません。中国のNO2の李強首相はG20でもその存在感を発揮することはなく、外交分析筋からすれば「手腕は知れている」と見た公算はあります。とすれば政策的に維持しているロシアと中国の関係も「弱い者同士」になるために北朝鮮に敢えてスポットライトを当てた、というのが私の解釈です。

ロシアの歴史を振り返っても第二次世界大戦での最大の危機はドイツのモスクワへの進撃でした。歴史にレバタラは禁物ですが、あの時日本が満州から南ではなくシベリアを攻めていれば世界地図が変わったかもしれないのです。東西広大な土地に於いて兵力を右や左にそう簡単に振り回せない、それはロシアの最大の弱点として周知の事実ですが、当時の日本の軍部と外交筋は読み間違え、欧米の常識を理解できなかったのです。

今後ですが、北朝鮮は一息つくでしょう。それはロシアからの物資の供給ルートが確保できるためで今までの中国一辺倒から余力ができるとみています。また、ロシアへの武器輸出が始まれば経済的にも潤うはずで今回の会談、そして時期を見てプーチン氏が訪朝するという関係強化はアメリカと韓国にとっては緊張が増し、中国は半ば袖にされたという屈辱に映るのではないでしょうか?

それでも中国は北朝鮮に対してニュートラルな関係を維持するしか現状では出来ないのも事実です。最大の問題は金正恩氏がやんちゃをしてミサイルを再び飛ばすことに精力を注ぐ点で日本政府としては北朝鮮の技術の進化については細心の注意を払う必要があります。ウクライナ問題が場合によっては東アジアの緊張感に転じる地政学的リスクは頭に描いておいた方がよいかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年9月1日の記事より転載させていただきました。