オーストリアの極右政党「自由党」(FPO)の招きを受け、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のアリス・ワイデル共同党首が19日、ウィーン入りし、FPOのヘルベルト・キックル党首と会合すると、「2大極右党の接近か」といった憶測が流れるなど、欧州のメディアでは大きな話題を呼んだ。
AfDとFPO両党は現在、ドイツとオーストリアの政界を震撼させている。FPOは最新の世論調査では支持率30%を超え、与党の保守派政党「国民党」を抜いて第1位を独走している。
一方、AfDはドイツ民間ニュース専門局ntvの最新世論調査によると、「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」の27%に次いで約22%で第2位に躍進し、ショルツ首相の社会民主党(SPD)の17%を大きく引き離している。すなわち、FPOもAfDも世論調査を見る限り、躍進中の政党だ。その両政党の代表がウィーンで会合したわけだから、メディアが騒ぎ出すわけだ(「極右『自由党』が支持率で独走」2023年9月3日参考)。
AfDとFPOは極右政党と呼ばれる。両党は外国人排斥、難民移民の受け入れ反対、欧州連合(EU)に批判的であり、反米的といった政治信条は酷似しているが、相違点もある。
AfDはドイツ連邦憲法擁護庁から2021年3月に「危険団体」として監視対象に指定されている。旧東独地域では30%を超える支持率を誇るが、連邦レベルでは政権に参画したことがない。
一方、FPOはこれまで政権入り(例シュッセル政権、クルツ政権)を体験、現在は3州(ニーダーエステライヒ州、オーバーエステライヒ州、ザルツブルク州)で連立政権に入っている。ドイツとオーストリアの国民の人口比では10対1だが、政治キャリアではFPOは2013年2月に創立されたAfDのそれを上回っているわけだ。
参考までに、ドイツで起きた事はある一定の期間の後、隣国オーストリアでも起きる、といわれてきた。モードや文化的な流行だけではなく、社会的な出来事でもそうだ。ドイツとオーストリアは言語が同じということで、両国は兄弟国と受け取られている。
ただ、歴史的にみると、政治的な動向は弟のオーストリアが先行し、その潮流がドイツに流れていくケースが多い。例えば、オーストリアで画家の道を塞がれたアドルフ・ヒトラーはドイツに入って国民社会主義ドイツ労働者党(ナチス)を掲げて政権を掌握したように、現代ではオーストリアのFPOの政治運動が先行し、ドイツの極右政党AfDに影響を与えている、ということができるわけだ。
AfDは旧東ドイツのテューリンゲン州のゾンネベルク郡で6月25日に行われた選挙で、AfDの候補がCDUの候補との決選投票を制し、首長に選出された。そしてザクセン=アンハルト州では市長に選出された。連邦レベルでは政権入りした経験がないが、党創設10年という短期間での実績としてはAfDの躍進は目を見張るものがあるといわざるを得ない。
AfDとFPOの現在の悩みは、他の政党が悉く両党との連立を拒否していることだ。キックル党首は19日の記者会見で、「わが党もAfDも他の政党から非民主的政党との烙印を押され、国民から支持を得ながらも政権担当の道が閉ざされている」と指摘、「両党とも犠牲者だ」と述べている(「極右政党の“政権パートナー探し”」2023年6月14日参考)。
独週刊誌シュピーゲルのAfD問題の専門記者アン・カトリ―ン・ミュラー氏は19日、オーストリア国営放送(ORF)とのインタビューに応じ、「AfDは外国人・少数民族への排斥などその政治信条は極右的だ。同党を支持する国民の票は単に現政権への抗議票ではない」と指摘し、警戒している。
南ドイツ新聞が「AfDを解体すべきだ」と提言していることに対して、ミュラー氏は、「民主的なプロセスで選出されている限り、その政治的活動を禁止することは難しい。国が政党助成金という形で支援することを先ず中止すべきだ」と述べ、「禁止」の前に「政党助成金のストップ」を提示していた。
ちなみに。ドイツの評論家ミハエル・フリードマン氏はORFの別のニュース番組で、「少数派をスケープゴートにして有権者の支持を集めるAfD、FPOは人権を無視している。民主的プロセスで躍進してきたとしても、両党を民主的政党とはいえない」と指摘している。
なお、AfDのワイデル党首は19日夜、FPOの党アカデミーで講演し、ショルツ3党連立政権の無策を厳しく批判し、観衆からスタンディング・オベーションを受けていた。
最後に、そのワイデル党首について少し紹介したい話がある。彼女は同性愛者で知られている。パートナーはドイツ人ではなく、スリランカ出身の外国人女性だ。AfDはこれまで同性婚には反対し、外国人排斥だ。ワイデル党首の生き方は、AfDの政治プログラムからみれば180度異なっている。その彼女が昨年6月以後、AfDの共同党首を務めているのだ。この矛盾をAfDはどのように止揚しているのだろうか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年9月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。