「もう倒産しかない」と社長の心が折れるきっかけとは?(横須賀 輝尚)

シェアーズカフェ

tuaindeed/iStock

社長たるもの、メンタルは基本的に強い人が多いといえます。ですから、会社が少し傾いたくらいでは、なかなか挫けません。金策に走り、営業に走り、最後まで会社の継続のため尽力しますが、どこかで糸が切れます。

「倒産の心理的トリガー」とでも言うべきもので、いったい社長はどんなときに心が折れそうになるのでしょうか。

「個人資産を売却したりと、倒産が見えていても意外と社長はしぶとく耐える。しかし、倒産の心理的トリガーが引かれると、途端に会社をたたむ方向に舵を切り出す」と言うのは経営コンサルタントの横須賀輝尚氏。今回は、横須賀氏の著書「プロが教える潰れる会社のシグナル」より、再構成してお届けします。

個人資産の名義が変わる

社長自身の所有する不動産、高級車の名義変更の話が出たり、実際に名義変更が行われていた場合は要注意です。

社長は会社の借り入れの連帯保証人になることがほとんどですから、破産となれば資産は基本的にすべて持っていかれます。そのため、会社が傾き始めたときに、不動産や自動車の名義を自分ではなく配偶者の名義にして、資産隠しをしようとするわけです。

ですから、こうした動きが出てくるような場合は注意。不動産の名義を変える手続きをするのは司法書士。自動車は行政書士。突然、こういう専門家が会社を訪れるのも、ひとつのシグナルかもしれません。

まあ、実際のところでいうと、会社が傾き始めた頃に行われた名義変更、資産隠しは合理的な理由がなければ、破産手続きの過程で破産管財人に否認されてしまいます。言い方は悪いですが、無駄な足掻きなわけです。

じゃあ、離婚してしまえばどうなんだ? と思われると思いますが、それも本当に適切な離婚に伴う財産分与と評価されれば別ですが、まあよほどのことがない限り、否認されてしまうのです。

新規事業に手を出す、資格を取り始める

既存事業が上手くいかなくなったら、なにか一発逆転を狙って新しいことに手を出そうと考えます。この段階では、まだ諦めたわけではありません。新規事業を始めるために、何かの代理店に加盟したり、何か資格の認定を受けたりして、新しいことでなんとか会社を立て直したい。可能性を追っているわけです。

しかし、私のコンサルタントとしての経験上、窮地に新しいことをやって上手くいく例はあまり多くありません。

そもそも会社とは、社長の得意分野から始めていることがほとんどなわけです。そういう意味では、新規事業はやったことのない分野であることがほとんど。場合によっては不得意な分野になることもあるわけで、勝てる戦には到底見えません。

稀に一発逆転できることもないわけではないですが、まず厳しいと考えるべきです。それよりは、既存の得意分野でほかに打てる手はないかと考えたほうが現実的な可能性があります。

とはいえ、まだ諦めたわけじゃないということはわかります。このあたりが分岐点になるわけですが、追い詰められた社長がどういう心理なのか、考えてみましょう。

「潰れそうな会社の社長」の心理を考える

業績が悪くなれば、当然自分の会社ですから、社長はなんとかしようとします。それこそ金策に走る、事業の立て直しをする、できる限りのことをしようとします。そもそも社長をやるくらいですから、メンタルは決して弱くない。いや、むしろ強い。だからこそ、ギリギリまで頑張ります。

しかしながら、社長も人間です。毎月の支払い督促に耐え、取引先に頭を下げ……耐え忍んで会社を立て直そうと踏ん張ります。

でも、業績が改善しなければ、どこかで心折れる瞬間がやってきます。これは社長によりますが、お金がなくなったとき、信頼していた社員が会社を見限って辞めたとき、主要な取り引きを打ち切られたとき。様々な出来事がトリガーになるのです。

そして、そのトリガーが引かれてしまえば、社長は段階的に変わっていきます。

まずは混乱期を迎えます。

普段は取り扱わないような事業に手を付けたり、付き合わない人たちとの交流が始まったりします。通常の社長なら信じないような儲け話も信じ込んでしまいます。このあたりは「いや、さすがにそんな話信じないでしょ……」と思われるかもしれません。

しかし、ある種この時期は「洗脳状態」とも言えます。正常な判断が徐々にできなくなるのです。そして最後。張り詰めた糸が切れるかのごとく、「被害を最小限にして終わらせよう」という心理になっていきます。

そうすると、最後に少しでもお金を残すために自社の売却を考えたりとか、社長の個人資産を守るために奔走したりとか、自分のことしか考えられなくなるのです。そういう意味では、社長の言動がどの方向に向かっているかをきちんと認識するのも、危険なシグナルを察知するひとつの方法でしょう。

あくまで会社の立て直しに向かっているのか、それとももう終わりに向かっているのか。こういう社長の心理は、知っておくべきです。

横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/

【関連記事】

海外視察が好きな社長は会社を潰す? 社長の危ない「虚栄心」と「自己承認欲求」(横須賀輝尚 経営コンサルタント)
ドロ沼不倫でも成功する経営者、一度の火遊びで失墜する経営者(横須賀輝尚 経営コンサルタント)
「会社を潰してしまう社長は、アートが好き」は本当か?(横須賀輝尚 経営コンサルタント)
ChatGPT(GPT-4)は、弁護士や税理士など士業・専門家の相談業務を奪うのか?(横須賀輝尚 経営者)
「潰れる会社」に共通する社長の税金感覚と会計スキル(横須賀輝尚 経営コンサルタント)


編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年9月26日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。