核のごみの最終処分:対馬の選択から見えて来ること

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高校生がスウェーデンで感じたこと

今年の夏、全国の高校生13人がスウェーデンの〝核のごみ〟の最終処分に関わる地下坑道施設や研究所を視察した。約1週間の行程で私はアドバイザーとして同行した。

この視察の中で、高校生たちは様々な体験を通じていくつかの重要な発見をした。その中でも彼らが異口同音に強調していたことが〝対話(ダイアローグ)〟の重要性だった。

スウェーデンでは、最終処分の事業者(SKB社)の研究者やコミュニケーションの専門家ら、処分地を受け入れた自治体(エストハンマル市)の関係者、地元の高校生らと交流した。

そのなかでも高校生たちが最もインパクトを受けたのがハンナさんという女性であった。ハンナさんは、SKB社のコミュニケーションの専門家で地元住民との対話に30年以上の経験がある。

高校生たちはハンナさんのレクチャーを聴いたが、専門用語を用いた難しい話はしない、そして最初はあまりたくさん話すことをしない——触りを話してまずは相手に興味を持ってもらう、と語っていた。ハンナさんのキーワードはダイアローグ(対話)とオープンネス(開放性)である。

対話のポイントは、自分が伝えたいことを話すのではなく、相手の疑問や不安をじっくりと聞くこと。開放性は、まずは自分の心を無にして、対話相手から出て来る言葉や態度をなんでも受け入れるという心構だという。それはとりわけ反対している人々に対する接し方に現れて来るのだと。

ハンナさんの説明の後に、私は「開放性がうまくいっているとはどういうこと?」と尋ねた。「うーん、そうねぇ。質問がドンドン出て来ることがひとつの目安かなあ」という応えだった。

DialogueとOpennessについて語るハンナさん(撮影筆者)

ハンナさんは、身振りや手真似をうまく使って、身体全体で私たちに語りかけて来る。そもそもレクチャーが一方通行ではなく、対話になっている。

帰国後、高校生たちの報告会があった。

そのなかで発せられた疑問のひとつは、「なぜ日本にはハンナさんのような人がいないのか?—どうすれば日本でもハンナさんのような人が育って来るのか?」ということであった。

高校生たちはハンナさんと交流したのは、わずか半日であったが、その好印象はその後日に日に熟成されていったようである。報告会では高校生たちはハンナさんは自分たちにとってはお母さんのような存在でまるでファミリーのようだと心を和ませていたのである。

対馬市長の判断

9月27日、対馬市の比田勝尚喜市長は、高レベル放射性廃棄物(いわゆる核のごみ)の最終処分に関わる文献調査について、応募しないと決断した。9月12日の市議会では、10対8の賛成多数で、文献調査の受け入れ促進の請願を採択したところであった。

比田勝尚喜・対馬市長

この議会が請願を採択するというやり方は、神恵内村で上手くいった方式である。神恵内では成功した方式なので、国や事業者NUMOはじめ推進側には一定の期待感があった。

約2週間、比田勝市長は熟慮を重ねたようである。

市長はそもそも前回選挙の際に、処分場の誘致は行わないと公言していたし、一連の文献調査受け入れの動きのなかで、住民を二分する形になっていたことに心を痛めていた。市長は、市民との合意形成に至ってないことを強調した。

このようにして、北海道の寿都町、神恵内村の2町村に続く「第3の候補」はあえなく潰えたのである。

拙速、前のめり

この失望感は大きい。なぜなら、神恵内方式は地元住民のコアな層、それは例えば地元商工会などの意向を受けて、議会で請願が採択され、それに基づいて首長が判断するという、一見すれば民主的な手続きにも見える。そのような民意を受けたプロセスも、首長の判断一つで反故にされてしまうのである。

今年4月政府は核のごみの最終処分問題に全面的に国主導で働きかけ、文献調査の受け入れ自治体の数を増やすと閣議決定していた。一方、事業者にとっては、寿都町・神恵内村の文献調査はすでに2年以上過ぎており、第3の候補が喉から手が出るほど欲しかったに違いないからである。

ここで私たちがじっくりと考えなければならないのは、市長の判断の背景には「今回は拙速だった」という思いがあったことである。

国の力強いサポートがあり、しかも事業者NUMOは寿都・神恵内に続く候補がなかなか出てこあいことへの焦りもあった。神恵内方式なら上手くいきそう—それらが重畳して国も事業者も前のめりになっていたのではないかとも思える。

対話から合意形成へ—最高未来責任者(CFO)

急いては事を仕損ずる。拙速であってはならない。

利害関係者(ステークホルダー)が意を通じ合って、何かを一緒にやろうという〝協働〟の機運が醸成されないと何事も始まらない。そのさきにようやく合意形成への道が見えて来るのではないだろうか?

そのためには情報共有(コミュニケーション)と対話(ダイアローグ)が前提となると思う。

特に対話のためには、スエーデンのハンナさんのような人物が推進側の事業者には欠かせないと思う。

事業者NUMOは設立から20年以上経過するが、高校生の指摘を待つまでもなく〝ハンナさん〟のようなパーソナリティーは見当たらないようである。

今からでも遅くはない。そのようなパーソナリティーを育てるほかないのではないか。

ひとつの提案がある。NUMOは高校生から最高未来責任者(Chief Future Ofiicer:CFO)を募って、対話の方法論と実戦への道を拓いていくのはどうだろうか。