支持率が低迷する先進国の首脳たち、その理由は?

衛藤 幹子

G7広島サミットで岸田総理と各国首脳
首相官邸HPより

岸田内閣の支持率が上がらない。NHKの世論調査(9月11日更新)によると、「支持」36%、「不支持」43%であった(NHK選挙WEB)。もっとも、日々の国際ニュースを見るにつけ、これは日本だけではなく、イギリス、ドイツ、フランス、米国でも同様のような気がする。

そこで、国際比較を試みようと、ネットで検索したところ、図1のような22カ国大統領/首相の支持/不支持率の一覧表を見つけた。

調査は、2023年9月20日〜26日に各国で実施され、それぞれのサンプル数は米国が45,000と飛び抜けて多いが、ほかは500から5,000までバラツキがある。なお、ジェンダー、年齢、地域、また国によっては学歴、人種/民族による加重がされている(Global Leader Approval Rating Tracker)。

図1:G7を含む22カ国の大統領/首相の支持/不支持の割合
出典:Global Leader Approval Rating Tracker

図中棒グラフの色分けは、緑=支持、薄墨色=わからない/意見なし、赤=不支持である。最も支持率の高いのがインドのモディ首相78%で、メキシコ・オブラドール大統領64%、スイス・ベルセ大統領57%が続き、昨年のブラジル大統領選挙を辛くも制したルーラ氏は52%である。

先進国の代表G7は、メローニ伊首相44%、バイデン米大統領40%、トルドー加首相36%。ショルツ独首相29%、スナク英首相28%、マクロン仏大統領と岸田首相が23%である。いずれも、半数に届かず、ショルツ首相以下は30%を割る。岸田首相の支持率は、上述の岸田政権のそれよりも13ポイントも低い。サンプルや解析方法の詳細が不明なので、憶測の範囲であるが、政権は支持しても首相個人は支持しないと考える人が少なくないのであろう。

政治リーダーの人気に大きな影響を及ぼすのが経済動向である。景気が良いと、大統領/首相の支持率は上昇し、景気が低迷すれば支持率も落ちる。米国の大統領選挙では、経済が好調の場合には現職大統領の再選の可能性は著しく高まり、不況下では危うくなると指摘されている。

表1に、G7諸国及び上位4カ国の経済成長率とインフレ率(消費者物価指数から計測)を示した。経済成長率は前の3ヶ月との比較による値(%)である。

表1:G7諸国及びインド、メキシコ、スイス、ブラジルの経済動向
インフレ率は2022年7月から2023年8月までの1年間の上昇率である。
表は、イタリアを除くG7諸国のGDP成長率はOECD Stat、インフレ率のデータはOECD DATA、イタリア・インド・メキシコ・スイス・ブラジルのGDP成長率は、イタリアがEuropean Commision、インド以下はTrading Economy(インドメキシコスイスブラジル)のデータに基づく。

確かに大統領/首相の支持率と経済状況には相関関係がみられる。経済成長が好調な新興国のリーダーは有権者の支持が厚い。なかでも、モディ首相の80%近い支持率にはインド経済の勢いが大きく貢献していよう。

対するG7は、経済成長率はときにマイナスの低い水準で推移する。さらに追い討ちをかけるのが物価高である。先行き不透明な経済に加え、暮らしに欠かせない食料やエネルギー価格の高騰は有権者の不満を著しく高め、リーダーの支持率が下がるのは当然の成り行きである。

ただ、日本に関しては、経済の現況に比して岸田首相の支持率は低すぎるのではないか。表のように、G7のなかで取立てて数値が悪いわけではない。それどころか、今年に入ってからは最も良い数値を出している。

物価についても、食料は9%余りの値上がりの一方、エネルギー価格はそれ以上に下がっている。岸田首相の経済政策は効を奏しているようにみえる。事実、海外の専門家からは日本経済を高く評価する声が上がっている(たとえば、Matthew Winkler「長期停滞を克服した日本、G7諸国の羨望の的に変身-Mウィンクラー」、Bloomberg, 2023年9月25日参照)。

それにもかかわらず、有権者の岸田氏への評価は非常に低い。何故か。

理由として、まずは数値と実態の乖離、すなわち景気が良くなっていると言われても多くの国民はそのことを実感できない、マイナンバーや直近ではインボイス制度など身近な政策に不満を抱く有権者が多いといった点が考えられる。

詳細な分析は専門家に任せるべきだが、素人の発言を許してもらえれば、有権者を強く惹きつける個性、あるいはそうした個性の演出不足のために、せっかくの成果や実績が霞み、逆に粗が目立ってしまっているように思われるのである。

実に嘆かわしいが、先進国でもドナルド・トランプやボリス・ジョンソンのようなポピュリスト的な政治家が人気を博する傾向にある。強烈な個性と過激な発言で熱狂的な支持者を獲得する一方、毛嫌いするアンチも生み出す。派手で憎めないキャラによって中立的な有権者にも食い込む。たとえ失策や逸脱行為があっても、コアの支持者が離れることはないうえ、かれらがたまに真っ当なことを言ったり、行ったりすると、意外性ゆえにアンチの有権者に「案外真面かも」などと思わせることもできる。

私自身は岸田氏の実直さ、人柄の良さ(と見えるだけ?)は嫌いではないし、ポピュリスト的パフォーマンスは御免である。だが、支持率を上げるには、「万人受け」を捨て、敵を増やすのも辞さないような「強い」リーダーを演出するのも手かもしれない。