ジャニーズ問題私見:採用再開のハードルを非常に低くしているメディア

昨日ジャニーズに関して2度目の記者会見が行われました。今回は私は一切見ませんでした。それは私が興味ある会見の内容が事前に概ね分かっていたことと記者の質問のレベルが低いので見ても時間の無駄だろうと思ったからです。事実、2時間枠の記者会見で質問をさせてもらえない記者からクレームが相次ぎ、混乱の様相も呈したと報じられております。正直、芸能系の記者は数が多すぎる上にそれが記事になっても他紙との差がほとんどありません。

2度目の記者会見のようす NHKより

昔から芸能界は一般人がわからない別世界とされてきた中で記者は別世界と我々の普通の世界をつなぐ架け橋だったのですが、芸能界の特殊性が徐々に薄れ、その実態のディスクロージャーも進んでいく中で記者の品格の低下が目立ち、引き出す情報のレベルもさほど驚く内容ではなく、記者の傍若無人ぶりの印象がむしろ強まったかなという気もします。そのあたりは東京新聞の望月衣塑子氏が菅官房長官(当時)とのやり取りで風穴を開け、事実、昨日も強引な質問ぶりだったようです。これが当たり前という雰囲気を作ったならいよいよ「マスゴミ」感が強まるのかもしれません。

さて、今回の顛末はほぼ予想通りになりました。前回の記者会見直後に私のブログにこう考えを呈していました。

「資産額の半分、500億円を基金として被害者救済にあて、かつ、将来的に健全なタレント育成のための社会貢献ができる財団を作り、ジュリーさんはその理事長に収まる、それでよいかと思います。そうすれば社会は納得し、被害者も理解を示すでしょう。一方、ジャニーズは清算事業とし、新会社を作り、そこにタレントを動かすという方式を取ったらよいでしょう」と。

なかば想定通りになりました。いわゆる経済やビジネスの専門家からも同様の意見がその後、続出し、高橋洋一氏も同じような発想でした。別に予想が当たったと自慢しているわけではなく、一般的な発想としてはこれがベストなのです。但し、今回、藤島氏が継続する旧ジャニーズ事務所、新社名「SMILE-UP.」が補償問題解決後、廃業を意図している点で完全清算型をとるということなのですが、これはもう少し、展開を見た方がよいでしょう。

というのは325人が補償を求める中で昨日の時点でまだ数人としか面談が進んでいないとのことでした。この325人そして今後、補償内容をみてもう少し増えるかもしれない被害者につき、誰にどういう基準でどのような補償をするのか、困難を極めると思います。前回の記者会見で東山氏が「法律の枠組みを超えたもの」と気持ちを表現していましたが、法律というより判例をベースにした判断になるはずです。その判例に対して比較すべき被害の実態は証拠がなく、極端な話、ごく軽微な被害も大げさに言ってしまえば取れるものが取れるという形になります。

一方被害者として手を挙げている325人は同じ会社にいたこともあり、双方の連絡が取りやすい状態にあり、「交渉はどんな感じ?」「お前いくらもらった?」というやり取りは可能で情報が筒抜けになるとみています。もちろんSMILE-UP.側は交渉と内容の守秘義務を契約に入れるはずですが、契約書にサインする前はその縛りがない訳で情報が駄々洩れ状態、しかもそれをマスコミが嗅ぎつけ、補償内容は世間一般への周知の事実となるのでしょう。

こうは言いたくないですが、被害者に手を挙げている人の中にはジャニーズ時代に大成できなかったり、会社に何らかの恨みを持つ人もいる可能性は否定できません。ごね得もあるでしょう。私が「基金」と申し上げたその背景は補償は全員均一額を例えば10年間など長期間に行うスキームとし、速やかな支払い開始をするのが最善策の一つだと考えます。

仮定の話をすると500億円x4%のリターン=20億円を325人で割れば一人ざっと年間600万円になるのです。これを10年やれば罪の償いにはなるのではないでしょうか?

基金は廃業ではなく、ほぼ永続性があります。運用原資の配当を補償に充てることで一回限りの支払いではなく、長期に渡り支払いを行うのです。その上、藤島ジュリー景子氏がおじさんの不名誉を勇気ある行動と判断で逆転に結びつけることも将来的に可能なのです。

では東山氏がひと月以内に立ち上げる新会社についてです。私がウーンと思ってしまったのは新社名をファンクラブから募るとしていることと株主が不明瞭なことです。東山氏は新会社は新たなタレントエージェントという位置づけなのですが、この出だしの発想からして経営にタガをはめてしまったのです。

ファンクラブ会費は年4000円、会員1100万人でここからの売り上げは500億円とされます。いわゆる会員制のビジネスとしてはスーパーのコストコが著名で会員になれば店へのアクセスと比較的良質なものがバルク買いすることで安く購入できるという仕組みがあります。では新ジャニーズが会員制ビジネスを基盤とすべきなのか、といえば私が社長ならそれは最悪の選択になります。なぜなら海外などビジネスの展開がやりにくくなるのです。韓国系のアイドル、いわゆるK-POPに負けているのは日本のアイドル系があまりにも閉鎖的環境で「私だけの」「俺だけの」的な雰囲気を作り過ぎているように思えるのです。そこには悪い表現をすれば「根暗」すら感じるのです。

東山氏が経営の素人だと思うのはたかが500億円程度の規模故に改革出来ない、その程度だということです。「仲良しこよしクラブ」ならば作れるでしょう。ですが、そのうち、海外進出を図りたいグループやアイドルも続出する中で少子化が進む日本のファンクラブビジネスではもったいないの一言です。

最後にテレビとCMなどの起用自粛ですが、今年の紅白まではまだ喪が明けないと思いますが、来年あたりから新会社が落ち着けば少しずつ解禁になると思います。起用自粛をした会社やメディアは被害者救済が行われていることが確実に実行されることを採用再開の前提としています。

その代表的コメントがNHKの「すでに契約が決まっているタレントはそのまま出演しますが、新規の起用に関しては、被害者への補償や再発防止への取り組みが着実におこなわれている、と確認されるまでは行わないというスタンスです」であります。東山氏の新会社がそのような方針を明白に打ち出し、SMILE-UP.が納得できる補償方針を発表すればよいだけで、メディアはいつでも採用再開できるようハードルを非常に低くしているのが手に取るようにわかります。

マスコミ界と芸能界の悪い癖なのですが、時がたてば「あれは一応、解決したからもういいんだよ」とあっさり風化させることでしょう。今は連日、この報道ばかりでうんざりしていますが、そのうち、「そんなこともあったかねぇ」になるような気がします。日本のご都合主義的な点でしょうか?私は芸能界は大進化と大転換の過程にあると思っているのでアイドルグループに熱を上げる時代ではないと感じています。純粋にビジネス的観点からの意見です。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年10月3日の記事より転載させていただきました。