ポイ捨ては刑罰にあたるのか?
あなたのまちでは、悪質なポイ捨て・犬のフン放置被害はありませんか?自宅前に放置されると本当に迷惑です。タバコ・空き缶・ペットボトルのポイ捨て、犬のフン放置など、さまざまなポイ捨て系の被害が繰り返されるケースがありますが、これらは法令に違反するとして、警察が取り締まれるものなのでしょうか?
ポイ捨てがどのような法令に関連するかは、浦安市がまとめており、法律では主に以下の2つに該当の可能性がありそうです。
【廃棄物の処理及び清掃に関する法律】
第16条 何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。
【軽犯罪法】
第25号 川、みぞその他の水路の流通を妨げるような行為をした者
第27号 公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者
これらの両法には、「みだりに」という用語が使われています。この用語の意味は、Weblio辞書によると、「軽率に、無思慮に、無思慮に、自分勝手に、でたらめに、むやみやたらに、という意味の表現。」です。
また某法律事務所への相談回答によると、廃棄物法における「みだりに」の考え方は以下の通りです。
同法の趣旨・目的が生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることにあること(同法第1条)に鑑みれば,②「みだりに」の要件を充足するか否かは,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るという法の趣旨に照らし,社会的に許容される態様であるか否かという観点から判断されることになります。
犬のフン放置を例に考えてみましょう。この辺りに該当すると認めるには、一度の放置では不足すると考えられ、大量な投棄、頻繁な放置などの状況が想定されると思われます。
こうした状況証拠が必要とされる一方で、繰り返される犬のフン放置を証明するために、証拠保全としてフンを保管しておくのも困難なので、なかなか刑罰に当たるとして取り締まりはしてもらえません。
防犯カメラに放置の映像が残っていても、その行為単体で刑罰にあたるとまでは断定し難いので、映像を元に即捜査というわけにもいかないとの事です。どういう時点で警察として動き出すのかは個別事情によりますから、一概に基準はわからないにしろ、こまめに記録を残し、被害報告しておく方が良いかと思われます。
罰金条例なら取り締まれるのか?
このように、ポイ捨てや犬のフン放置は、法令に基づく犯罪にも即該当はしにくい反面、まちの美化対策としてのマナー啓発では、なかなか効果が出にくいです。こうした悪質なケースについては、警察と役所の間で悩む羽目になります。
では罰金条例があれば取り締まれるのでしょうか?
行政上の義務違反に対して科される罰(行政罰)には、以下の2つがあります。
- 刑法で定められた刑を科す行政刑罰 (例:懲役、罰金、科料)
- 刑法で定められていない制裁を科す秩序罰 (例:過料)
日本全国さまざまな自治体で、ポイ捨て問題の対策条例を作っており、その中には、罰金を定めた条例もあります。しかし、行政刑罰については、裁判所の裁判をもって刑が科されるため、機動性がありません。行政が告発したとしても、実質的な可罰性が薄いため、警察も積極的には動きません。
過料なら現場での迅速な取り締まりが可能
一方で、条例による秩序罰(過料)については、裁判所を介さず自治体の首長が科すことができます。違反に対し、その場で過料を徴収するポイ捨て監視員を置く、という仕組みを条例で作ることもできます。
和歌山県は、「和歌山県ごみの散乱防止に関する条例」にて、積極的な過料の取り締まりを行える体制を作り、知事もかなり強いメッセージを出しています。
使用制限も反対はしないけれど、世の中の人はすべからくみだりにプラスチックを捨てることを一番慎み、憎み、取り締まるべきだと思う。
県の行政としては、どうしても命令や過料の徴収は、手続きに時間がかかり、機動力に欠けるので、環境監視員を任命して、その人が命令もするし、過料の徴収も出来るということにしました。駐車違反のパトロールの人のようなイメージですね。
こうして、ゴミのポイ捨てを掣肘(せいちゅう)し、海や環境を守るとともに、風光明媚な和歌山の自然環境も守ろうとしているわけであります。
表現が強すぎる気もしますが、和歌山県ではそれだけの被害があるのかもしれません。少なくとも、先に挙げた悪質な犬のフン放置など、警察と行政の間で悩まされるようなポイ捨て被害に困っている住民には、救いの一手になるでしょう。
また、過料については、「現場での過料徴収を積極的に行うことにより、実効性をかなりの程度確保」できる(宇賀克也「行政法概説Ⅰ(第6版)」(有斐閣 2019年)258頁)とも言われています。
まずは抑止のためのパトロールから
タバコなのか、犬の糞なのか、ペットボトルなのか、頻度や程度、地域の周辺環境など、同じポイ捨てでも自治体によって抱える課題は異なりますが、ポイ捨て自体が刑法で取り締まりにくい以上、深刻な被害がある場合は、地域や自治体でサポートしなければ、警察と行政の狭間で泣き寝入りすることになります。
とはいえ、都会では地域コミュニティも薄く、町会・自治会への加入率も5割程度と言われており、更には町会・自治会メンバーが高齢化していることから、集って自主パトロールする事も難しいのが実情です。
こうした背景を元に、都会で悪質なケースに対応するには、行政によるパトロールが必要になると思われます。行政によるパトロールと言っても、目的や手法は様々ありますが、大きく分けると、抑止効果を狙った見回りパトロールと、その場で過料を徴収する摘発パトロールがあります。
抑止効果を狙ったパトロールとして有名なところでは、青パトがあります。青パトとは、「青色回転灯を装備する自動車による自主防犯パトロール」であり、行政機関や地域団体などが警視庁・警察庁に申請し、委嘱を受けた上で活動しているものです。
よく「青パトは何もしてくれない」と言われますが、青パトは犯罪抑止効果を狙った巡回パトロールです。犯罪を取り締まる警官が乗ったパトカーとは違うので、犯罪を目撃した時には、速やかに警察に通報します。東京都による検証結果では、青パトによるパトロール活動が行われている地域では、それ以外の地域よりも犯罪減少率が高い地域が多いという検証結果が示されており、抑止効果があるものとされています。
先の和歌山県のように、積極的に摘発するようなパトロールが適しているのか、抑止を狙った見回りパトロールに徹するべきなのか、地域の住環境や時代による住民構成の変化によって、適切な手法も変わってくるでしょう。悪質なポイ捨て問題への対策は必要な一方で、過度な取り締まりになってしまわないためにも、まずは控えめな手法から始めていくべきかと考えます。
ポイ捨ては単なる美化の問題ではなく、環境問題や衛生問題にもなってきます。住環境が悪くなれば、治安も悪くなり、悪循環になっていきます。めちゃくちゃキレイなのに、治安が悪いまちって無いですよね。逆に、治安が悪いまちは、たいていゴミが散乱していたりします。
自分たちの住むまちですから、「よその家のことだから関係ない」ではなく、クリーンで安全な「我がまち」を作るために、しっかり連携しながら対抗していきたいものです。