中東問題と日本への影響

stellalevi/iStock

10月7日午後、ショッキングなニュースが世界中を駆け巡った。

このニュースに対して日本のマスコミの反応が、私の予想に反して弱かったことがどうしても気になる。

これはウクライナ問題や中央アジアの不安定要素と比べて、日本への影響がより大きいと考えられるのだが、中東問題を注視する人たちの中でも静観の姿勢が見られる。今回の問題を過大評価するつもりは無いが、現実的に考えて世界の不安定化と日本への影響が軽視できないと考えるので、現時点での見解をまとめてみた。

パレスチナのハマス(Hamas:ムスリム同胞団、パレスチナ解放機構、インティファーダを糾合したハマース運動)が、2,000発とも5,000発とも言われるロケット弾とミサイルを撃ち込み、ガザ地区からイスラエルに侵入して国境線沿いの市街地で無差別にイスラエル人を攻撃した。

イスラエル国防軍は、攻撃を受けた地域を公開している。

ロケット弾とミサイルはイスラエルのアイアンドームが撃ち落とすことが出来るのだが、今回の攻撃は飽和攻撃が行われたため、アイアンドームでも全てを撃ち落とすことは出来ず、これまでとは比較にならない被害が出ている。

また、ハマスはガザ地区に入植していたイスラエル人を相次いで拉致し拘束している。

加えて、国境沿いを警備していたイスラエル軍兵士の多くが捕えられ、ある者は拷問され、ある者は拘束されガザ地区に連れ去られているようだ。

ハマスから攻撃を受けた僅か2時間強で、イスラエルのネタニヤフ首相は戦争状態に突入したと宣言し、イスラエル政府もSNSを通じて同様のステートメントを出した。

10月7日午後10時現在、分かっている情報を整理し、今後の展望について私なりの見方を書いておきたい。

既に、イスラエルの報復としてイスラエル空軍はガザ地区のハマスの拠点やハマスと思われる車両に対して爆撃を行っている。また、イスラエル海軍は海からガザ地区へのミサイル攻撃を行っている模様だ。

イスラエルという国は、いつでも戦争状態に突入出来るよう準備を整えているが、今回の攻撃はイスラエルがその兆候を察知することが出来ず、被害が拡大した。

大枠はこれらの動きで現在は、イスラエルが緊急事態宣言と戦争状態に突入したことを宣言したことで、イスラエルは戦時体制に突入したことになる。

平時から隣接国家との戦争を想定している為、イスラエルは国民も含め戦時体制への移行は早く、またそれに対しての十分なシミュレーションが出来ている。

また、イスラエルは中東の中でイスラム国家に囲まれており、常に、攻撃の危険に晒されている関係で必要にして十分な兵器、兵士の練度を備えていると言われている。それに比して、ハマスは複数のテロリスト集団が集まり名前を変えてパレスチナ政府を組織しており、いわばテロリスト政権を維持する集合体のようなもので、所有する兵器等はテロリストのそれの延長でしかない。

ハマスが今後行うのは、地上でのゲリラ戦だ。所謂、インティファーダ(戦争蜂起)で、彼らは聖戦と位置付けている。だから、イスラム教聖地である嘆きの壁の直ぐ近くにあるAl-Aqsa mosque(アル・アクサ寺院)から名前を取って”Operation Al-Aqsa Flood(アル・アクサ洪水作戦)と命名した。これは聖地メッカから遠く離れたアル・アクサ寺院を洪水のように目指せ、と言う意味がある。

それほどに大規模な攻撃を仕掛けた意図について、パレスチナ政府のアッバス議長は、「自分たちを迫害するテロリストからパレスチナ人を解放するためだ」と、お決まりのセリフを声明として吐いた。

ただ、中東情勢の専門家の多くが、何故、この時期にこのような大規模な攻撃を仕掛けたか、理由は分からないとしている。

イスラエル・ハマス停戦合意は一時的か。“火に油を注ぐ”イランの「ロケット弾支援」

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イスラエルとハマスの停戦合意が発表された。しかし、軍事専門家はこの合意は長続きしないとみる。ハマスを含む武装勢力がかつてない規模でロケット弾戦力の増強を実現しているからだ。そして、その危険な変化の「黒幕」は……

2021年の時の紛争では、5月に停戦合意する迄の期間に、イランから支援されたと言われる約4,000発以上のロケット弾の攻撃を受け、その時は、首都エルサレム近郊にまで撃ち込まれたことで、イスラエル軍が報復以上の手段に出るのではないかと言われた。

ところがその時と今回が違うのは、部分的な攻撃ではなく、いきなり波状攻撃を仕掛け、陸海空からイスラエル側にハマスの戦闘員が侵攻した点だ。また、ガザ地区にいるイスラエル人入植者の多くが拉致されている。

そして、より戦争状態としての緊張感が増している理由は、ウクライナにおけるロシアの軍事侵攻にある。

ウクライナを支援するNATO諸国とアメリカで、2年近くにわたる戦争に支援疲れが見えてきていると言う憶測が流れ始め、アメリカ国内では来年の大統領選を前に、これ以上、アメリカがウクライナを支援する必要があるのか?と言う世論が、少しづつではあるが出始めている。

では、アメリカにとってウクライナ支援の本質はどこにあるのか?と問われれば、実はロシアの背後にいる中国への牽制と、NATO加盟国としての使命を果たす以上の意味以外に見える点はない。

確かに、ロシアのエネルギーと穀物の安定供給を目指していくこともあるが、現実的にアメリカがウクライナを支援する理由は感じられないとする意見も根強いのだ。だから、アメリカの共和党内部から支援の継続への疑問が出されているのだ。

共和党の大統領候補のトランプ氏が、大統領選前にウクライナ支援を停止すると宣言したことの背景にはアメリカの国内世論に配慮しているからだ。それより、不法移民問題、経済対策問題、金融緩和問題などの方がより深刻だと考えるのは当然と言えば当然だ。

ところがイスラエル問題になると話が大きく変わってくる。

今回のような戦争状態に突入した場合、中東でのコンセンサスを見据えると、イスラエル問題に関与しないわけにはいかない。

世界一の産油国であるアメリカが中東問題に関わることは、第4次中東戦争までで終わりではないか?と言う見方も確かにある。そしてアフガニスタン撤退で、既にアメリカは世界の警察ではなくなったと言う認識から中国の覇権主義の台頭を許した苦い経験もある。現実的にお金がかかる中東諸国への介入は、国内からのより強い反発を招きかねない。しかしイスラエル問題に関しては話は別なのだ。

以後、

続きはnoteにて(倉沢良弦の「ニュースの裏側」)。