医師独占分野の抜本的縮小でいろんな問題が解決する

日本は「医師しかできない仕事」が多すぎる…医療不足と若手医師の過労死をもたらす根本問題 ワクチン接種は薬局に任せて、医者は治療に専念すべきだった』という記事を、プレジデント・オンラインに掲載したので、その要約と解説をしたい。

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医学部を増やすべきという意見もあるが、医師は高収入で失業リスクの少ない「美味しい職業」と評価されているために、国内の優秀な人材が医学部に偏在し、経済の足かせになっているという問題がある。さらに、「人口減少やAI技術の進展で、将来は医師過剰になる」という見通しもあるし、医師の増加は健康保険でカバーする医療の範囲を増やせという圧力につながるだけだから、私は消極的だ。

日本で「医師独占領域(=医師しかできないこと)」がやたら広いことは、新型コロナのワクチン接種で如実に明らかになった。海外輸入によりワクチンが確保できてからも、当初は接種する担い手が足らないということでなかなか進まなかった。その理由は、医師にだけワクチン接種を認めていたからだ(医師の指示があれば看護師なども可能)。

欧米では以前から、予防注射などを薬局でやっており、これまで認めていなかった国でも新型コロナ対策で広く認めるようになった。英国などは失業者を集めて訓練して接種業務をやらせていたくらいだ。ところが日本では、歯科医師に例外的に認めたくらいで、海外のような工夫はほとんど検討されなかった。

医師にこだわったために接種が大幅に遅れ、ついには、本来の業務がほかにある自衛隊のお医者さんを超法規的に動員してやっと軌道に乗った。

接種業務に従事した医師たちは、自分の診療所でもそうだが、大型の集団接種会場では、1日に10万円といった高額の報酬を受け取った。

さらなる問題は、医師がワクチン接種を担当することで、本来の診療が手薄になったことだ。とくに在宅の患者に関して、医師が不可欠という状態になったときに、ワクチン接種による人手不足で投入できなかったのは痛かった。

あの当時は、医師も診療を通じてコロナ感染するリスクが高く、より安全なワクチン接種に従事することで、「新型コロナへの対応に協力しています」という顔をしていた医師も一定数いたと推察する。

なぜ、ワクチン接種業務において「医師独占」にこだわったか? その裏事情や、医師独占業務が広くて何が困るのか、改善点はどこかなどは、冒頭の記事をご覧頂きたい。

こうした医療行為者の拡大に対して、医師の数を増やすほうが合理的だという人もいるだろうと思うが、私は賛成できない。医師を増やしても、結局、病気を増やすのが関の山だからだ。

なにしろ、日本の医療費は健康保険のおかげで自己負担が少ない。だから、国民からの抵抗をさほど受けずとも、医者の都合で病気ではないものを病気にする、あるいは、高額の治療を保険の対象にするということができてしまうのだ。