天意を全うす

3ヵ月程前、「Yahoo!ニュース エキスパート」に「人生変わる前兆サイン6選」と題された記事がありました。その6点とは、①不安や緊張感、②日常のルーチンが気になる、③人間関係の変化、④よく同じ夢を見る、⑤物事がうまくいかない、⑥自分自身についての深い洞察、とのことです。私の場合は理屈云々というよりも、『ビジネスに活かす「論語」』(拙著)のエピローグ冒頭で、次に述べた通りだと思っています。

――一つの大きな転機が来るたびに、私はそこに天の啓示というものがあるように思います。『論語』の中には、天に対する孔子の強い信頼というものが随所に見受けられますが、私も自分の人生を振り返ってみて、何事も手を抜かずきちんとやっていれば天は必ず見ている、という感じを受けることが多々ありました。『論語』の中に、「自分のことをわかってくれる者がいないなあ」と孔子が嘆き、「我を知る者は其れ天か」(憲問)という場面があることに触れましたが、私にも、人生の転機においてそういう感覚が常にありました。この「天が自分のことを知ってくれている」という気持ちを常に抱きつつ歩んできました。そのために、これまで道を誤ることなく、導きのままに行動できたと思います。

私が自分の進路を考え決めて行った際に、例えば慶應義塾大学の医学部でなく経済学部に或いは三菱銀行でなく野村證券に、道を選んだのは結局天意だと思います。ある意味初めから決まっている天意があると思っていますから、私は常々余りごちゃごちゃ考えず天意に従いあらゆる事柄をやってみて、仮に思うような結果が得られなければ「失敗でなく、こうなった方が寧ろベターなんだ」「将来の成功を目指しその失敗を教訓にしなさい、という天の采配かもしれない」といった具合に考えます。私は育ってきた家庭環境の影響もあって幼い頃から天の存在を自然と信じ、長じて中国古典に親しむようなってからは天の存在を確信するようになりました。私自身そういうふうに思い、全てが天意だとして今日まで来たわけです。

天は適時その方向を与えてくれます。その啓示に気付くべくは、「自分の目の前にある仕事、与えられた仕事に全力投球しているということ」「素直であるということ」「感謝」「心中常に喜神を持つこと」、の4点が極めて大事だと思います。そして天啓は本当に必要な時やって来るものですから、来て感じたら直ぐに動くことが大切です。私は、金融の世界にずっと居らず孫正義さんの所に行くことで、インターネットという考え方が身に付いてき、ネット金融をやり出して現況に至ります。ALA(5-アミノレブリン酸)にしろ半導体にしろ、「今すぐ事業を興しなさい。貴方の進むべき道筋は全部つくったから、それに乗りなさい」といった形で、全てが調(ととの)えられる時が来たものです。これ正に天の啓示というもので、私は天意を全うする生き方を貫いてきたのです。

「わが身に降りかかってくる一切の出来事は、自分にとっては絶対必然であると共に、また実に絶対最善である」(森信三)――私は此の「最善観」を信じており、それは天に任せる・運に任せる、「任天・任運」という東洋思想に繋がります。天は此の世のあらゆる物を創り、人智では計り知れぬ知恵を結集し素晴らしい人間という存在を創りたもうたのです。此の世のあらゆる出来事は皆天の配剤であり、一々の事の結果に過度に拘ってはなりません。己の行いに心底恥ずべき所無しと信ずる時、如何なる結果になろうともその天意を信じ、終局悪いよう行くはずなしと思い切ることです。


編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2023年10月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。