理想の人間関係は「ビジネスライク」

黒坂岳央です。

人間関係はヤマアラシのジレンマといわれる。近づこうとするとお互いのトゲが刺さって相手を傷つけてしまうので、ある程度の距離を保つことがお互いにとって最も心地よいという話だ。

自分はこの話はすべての人間関係について採用されるべきだと思っている。つまり、お互いに踏み込みすぎず、かといって離れすぎない適切な距離を持つということだ。だがネット上には距離感の取り方に困ってしまうような人もいる。そうした人に届けば嬉しい。

個人的には「ビジネスライク」な関係が最大公約数的な人間関係の結論だと思っている。ビジネスライクと聞くと「冷たい」「効率重視」という無機質なイメージがあるが、実はそうではない。不快感を生み出さないことを第一義的に考慮した距離なのだ。具体的にどんな距離感かを考察したい。

key05/iStock

感情論よりWin-Win or No deal

少し話をして仲良くなるといきなり図々しい要求を出して来る人がいる。よくあるのが「友達だろ?無料で仕事してよ」みたいな話で、理容師に無料でカットしてもらったりカラー染めをお願いするとか、英語が得意な人に海外の航空券の予約を代行したりといったものである。

自分はウェットな人間関係こそが軋轢を生み出すと思っている。だからどれだけ仲良くなっても、お互いの関係性はWin-Win もしくは No dealがベストだと思っている。

Win-WInとは言わずもがなお互いにメリットがある関係性だ。友達同士でも仕事をお願いするならきっちりお金を払うか、別のことで埋め合わせをする、たとえば理容師の友達にカットして貰う代わりに、自分の経営する飲食店で代わりにごちそうするみたいなイメージだ。片方だけ得をし続ける関係性は長続きしない。もしもWIn-WInの関係構築が難しいと感じたらその時点で取引はやめる、つまりNo dealを選択するのである。

もっと身近な例で言えば会話である。相手の話もちゃんと聞くし、自分もちゃんと話を聞いてもらう。仮に話が一方的な状況が続いたらWin-Winへと相互傾聴レベルを再構築するか、No dealで終わりにしてしまうのだ。

パーソナルスペースに踏み込まない

すごく気があってお互いに楽しんでいれば問題ないが、初対面などでお互いのパーソナルスペースにはやたらと足を踏み入れない方が賢明である。

職場の人間関係において上司と部下の関係性で「休日どこへ誰と出かけて、趣味は何で~」みたいに知りすぎることは必ずしもポジティブではないと思っている。自分自身、会社員の時期に上司に有給申請を出したら「君は4月の有給の時も遊びにいっていたでしょう。今度はどこへいくの?業務の勉強もした方がいいのでは?」みたいになってしまい、まるで監視されているような感覚を覚えた。

だから自分からあまり相手のことを深く聞きすぎない、相手から聞かれても答えすぎないがいい。深い話が出てしまうと、相手の人となりとか人生観まで伝わりすぎてしまい、「その生き方、時間の使い方は良くないんじゃないか」みたいにどうしてもパーソナルスペース侵害が起こり得る。踏み込み過ぎは不快感を生み出す。

情報は必要以上に知りすぎない方がお互いに良いだろう。

提案をしても否定はしない

ビジネスの場において、どんな文脈でも相手を否定することはご法度である。それが社内の同僚でも上司でも、取引先でも顧客でも同じである。もちろん、プライベートな関係でも全く同じだ。人間は極めて感情に支配された動物であり、否定=付加価値の創造にはならず、待っている結果は常に対立である。表立って対立構造にならずとも、深層心理下で静かにエスカレーションするだろう。

この意見に対しては「では相手が間違っていても放置しろというのか?」と反論がありそうだが、否定をせず提案をすることが解だろう。Aというプランを提示されたら、「なるほどAで考えているのですね。ちなみに自分はBで考えています。自分がAではなくBと考える根拠は次のとおりです。…以上のアイデアを踏まえてAとBどちらが良さそうでしょうか」という具合だ。

相手はそれでもAである必然性を別方向から提示してくるかもしれないし、こちらが提示したBに変えるかもしれない。はたまた、No dealかもしれない。とにかく注意すべきは相手が持つ選択肢を強引に奪い取るべきではないということだ。他人と社会は変えることができない本質がある。否定ではなく、あくまで提案に留める品性を持つ必要がある。

自分は育児をしている立場上、子供からわがままを言われることがあるが頭ごなしに否定はしない。先日、実際に行った交渉は次のとおりである。「学校へ行く日は着替えではなくご飯から先に食べたいんだね。なるほど、よくわかった。ちなみにパパは着替えが先が良いと思うな。なぜかって先に制服を着た後に、ゆっくりご飯を食べた方が時間に焦らなくていいよね。じっくりご飯を味わう方がおいしいとおもうけどどう?」という具合に提案すると「たしかに」といって素直に受け入れてくれた。

結婚をして子供が生まれるとリアルの人間関係は大きく拡大する。お互いの実家、親戚、学校の保護者などだ。そんな時、人間関係の距離を間違えると余計な面倒を招き入れてしまう。自分は徹頭徹尾、ビジネスライクに振る舞ってきたが今のところ大きな問題もないし、相手に冷たいという印象を持たれてはないと信じている。

 

■最新刊絶賛発売中!

■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

YouTube動画で英語学習ノウハウを配信中!

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。