チェコ国防相「国連から脱退しよう」

国連総会で27日、イスラエルとイスラム過激テロ組織「ハマス」の戦闘が続くパレスチナ自治区ガザを巡る緊急特別会合が開かれ、ヨルダンが提出した「敵対的な行為の停止につながる人道的休戦」を求める決議案が賛成多数で採決された(賛成120、棄権45、反対14)。

ロイド・オースティン米国防長官と会合したチェコのヤナ・チェルノホワ国防相(2022年4月21日、米国防総省で、ウィキぺディアから)

ヨルダンが提出した同決議案ではイスラエルとパレスチナの民間人に対するあらゆる暴力を非難し、「不法拘束」されている全ての民間人の即時無条件解放を求め、ガザ地区への人道支援への無制限のアクセスを要求している。また、「敵対行為の停止」につながる「即時恒久的かつ持続可能な人道的停戦」を求めている。

ただし、1300人以上のイスラエル人が犠牲となったハマスの奇襲テロに対する非難もなく、イスラエルの自衛権についても何も言及されていないことから、米国、イスラエルなど14カ国が決議案に反対票を投じたことは前日のコラムでも報告した。

イスラエルのギラッド・エルダン国連大使は、「採択された文書ではイスラエルをテロ襲撃したハマスの名前は言及されず、ただ、10月7日以後のイスラエル軍の報復攻撃の激化に対する懸念だけが表明されている」として、「国連にとって今日は暗い日だ。不名誉な日として歴史に記録されるだろう」と述べた。

それだけではない。反対票を投じたチェコのヤナ・チェルノホワ国防相(Jana Černochova)は28日、自身のX(旧ツイッター)の中で、「ハマスの前例のないテロ攻撃に明確かつ明白に反対したのは、わが国を含めてわずか14カ国だけだ。私は国連を恥じる」と述べ、「わが国はテロリストのファンの集まりである国連から立ち去ろう」と呼び掛けたのだ。

イスラエルのエルダン国連大使の批判は紛争当事国として理解できるが、東欧のチェコがパレスチナ紛争での国連機関の無能さに激怒し、国連からの脱退を要求したのだ。

国連の紛争解決能力についてはこれまでも何度も批判する声があがってきた。その意味で、国連批判は珍しいことではない。193カ国から構成される現行の国連は人道支援などではその役割を果たせるが、残念ながら紛争解決では無能だ。

ロシア軍がウクライナに侵攻し、民間施設を砲撃し、ダムを破壊するなど多くの戦争犯罪を行ってきたが、国連安保理事会はその度に招集されても、ロシア非難決議案が採択されたことがない。理由は明らかだ。安保理で拒否権を持つ5カ国の1国に、戦争犯罪を繰り返し、多数のウクライナの民間人を殺害してきた紛争当事国ロシアが入っているからだ。米英仏などの常任理事国がロシア非難決議案を提出しても拒否権を有する常任理事国ポストにロシアとその同盟国の中国が座っている限り、採択される可能性は限りなくゼロだ。

ロシアが今年4月1日、国連機関の最高意思決定機関ともいえる安全保障理事会の議長国に就任した(安全保障理事会の議長国は15カ国メンバーの輪番制で、アルファベット順に毎月交代する)。戦争犯罪を繰り返すロシアが国連の檜舞台で安保理議長国に就任すること自体、現行の国連が置かれている状況を端的に示している(「露の安保理議長国就任は『冗談』か」2023年4月5日参考)。

ウクライナの国連常駐代表、セルギー・キスリツァ氏は、「4月1日は、不条理のレベルを新たなレベルに引き上げた。安保理は現在の形では麻痺しており、安保理の重要な問題、紛争防止と紛争管理に対処することができない」と述べている(ちなみに、ジュネーブに本部を置く国連人権理事会で今年10月10日、理事国の選出の投票が行われたが、ウクライナ侵攻が理由で理事国から追放されていたロシアは理事国復帰を目指したが落選した)。

参考までに、イスラエルを無条件に支援すると表明してきたドイツが国連総会では反対票ではなく、棄権したことに対し、駐ドイツ・イスラエル大使のロン・プロサー氏は、「国連におけるドイツの支援が必要だ。ハマスには残酷な虐殺の責任があると直接言及していないという理由で棄権票を投じるだけでは十分ではない」と述べ、ドイツに対し失望を吐露している。

国連から脱退したとしても、世界の紛争が解決できるわけではない。193カ国の国、機関が所属している国際機関は現在は国連しかない。加盟国が増えれば様々な世界観、価値観、政治体制の国の間で解決策を見出すことは更に難しくなる。新たな国連機関の設置をも含め、世界は知恵を集めて国連の抜本的な改革に乗り出すべきだ。チェコ国防相の国連脱退を呼び掛ける発言は国連の在り方を考えるうえで一石を投じたことは間違いない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年10月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。