ニッポンはだめだめか、ケセラセラか?:ドイツに抜かれる日本のGDP

2023年に日本のGDPがドイツに抜かれる公算があるとIMFが予想を発表しています。年初から数字が肉薄している中でドイツはGDPが上昇のベクトル、日本は下降のベクトルだったので逆転は避けがたかったのですが、ドイツの経済成長がボロボロの中で抜かれるというのは癪ですが、テクニカルな理由も確かにあります。

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それはドイツの物価高とドルベースでの円安という二つの組み合わせのいたずらです。ただ、それはこの1年程度の話であり、過去20-30年というスパンで見ても着実に日本の経済の実力は低下しています。となれば、日本はダメダメなのか、ケセラセラ(なるようになるさ)なのか、であります。

日経の記事によると一人当たりのGDPで見ると世界190の国、地域のランクで23年は34位になる見込みで35位の韓国とほぼ並ぶことになります。2000年は日本は2位だったのです。ではこの23年、日本の生活水準が落ちたのか、といえば目に見えて落ちたという気はしないでしょう。しかし、私が日本とカナダを往復している中で思うのは日本はいつまでたっても変わらないという事実です。

前回、親戚に会うために地方列車に乗っていた時、車窓から見える景色が私が小学校の時に見た景色と同じでした。つまり50年間不変であります。もちろん、カナダでも同じところは同じなのですが、改めて成長とは何か、思うと悩んでしまいました。日本でも大きな駅の廻りの街の景色は変わっています。京都は久々に行ったのですが、圧倒されました。つまり、人が集まるところはそれなりに改築、改善されるけれど、そうではない99.9%の地域は変わらないのです。

もちろん、これは私が不動産事業者なので色眼鏡で見ていることはあるかもしれません。昔はこのブログでもニッポンだめだめ論を述べていたと思いますが、なるべく封印したのはそれが先入観になることを避けようと思ったからです。

そんな中で考えるのは明治維新から今日に至る国際社会における日本の位置づけは特殊だったのではないか、という仮説を考えています。

日本人は器用で改善が上手で粘り強く、真面目です。一方、苦手なのが競争です。江戸末期に開国したのち、日本は世界とのギャップを埋めようと努力しましたが、世界も日本の特性を見出しました。それは戦後の経済成長を担った産業の進化に繋がります。日本はアジアの中では競争がない状態で独走し続けました。これが日本が踊った理由なのです。「バブルの宴」とはまさに見事な表現であり、国が「酔いしれた」状態だったのです。独走、つまりブルーオーシャンをひた走ったのが日本の繁栄だったと考えています。

その後、韓国や中国をはじめ世界で「中進国」が次々生まれる中、競争を好まない日本は「独自の技術はそう簡単には抜かれない」と妄想し続けました。ほぼすべての業種において日本はその妄想故に今の状態になっているのですが、「真綿で首を絞められている」ので気がつきにくいし、いわゆるブーマー族ら過去の栄光を胸に輝かせている人たちが上から目線で圧力をかけるのです。

その若者たちは委縮し、ワークライフバランスに走るのはいいけれど草食系になり過ぎました。

失われた30年をどう見るか、なのですが、デフレとか日銀や政府が悪い、という悪玉論は数多くありますが、私は「競争を好まない日本の当然の帰着点」ではないかと想定しています。もしもこの仮説が正しいなら失われた〇十年は50年でも100年でも続くことになります。世界経済が躍進すればするほど日本の能力は埋もれるのです。

とすれば「だめだめ」ではなく「ケセラセラ」型とも言えます。日本人に悲壮な表情の人は少なく、毎日をしっかり生きています。お金のあるなしに関係ないのです。一人当たりGDPなんて無縁の話。それより明日のコメと味噌があればよいわけです。それは海外にいる私からみて実に「質素な歓び」なのです。素朴で派手さがなく、肩に力が入っていない日本人が社会で共生していることをしみじみ感じさせる心の豊さです。

GDPがなんだ、という声があるのも知っています。物事をどの視点からみるかの問題です。その点ではGDPは指数の一つでしかなく、それが真の豊かさを表現するものでもありません。が、なぜ、日本のGDPは世界に追い抜かれていくのか、という点を見ないふりをしてはいけないのでしょう。そしてこまごました理由を上げるのではなく、日本人の本質がそこに隠されているのではないかという大所高所からの検証が必要だと考えます。

50年後、日本は世界で最も地味でまじめでおとなしい国としての地位を維持、確立しているでしょう。しかし、常に日本が世界から何らかの形で着目される、そんな国でもあると思います。それは幸福と生きる歓びで満たされている世界でも稀な国だからではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年11月6日の記事より転載させていただきました。