日本のマンションの価値は維持できるのか?:デベと国交省の馴れ合いの行く末

久々に不動産の話をしようかと思います。テレビニュースで3年後に完成する約1億5千万円の超高層マンションを購入されようとしているパワーカップルが紹介されていました。ローンを組むシーンだったのですが、ローン金利は今のような1.0-1.5%が続くという前提でお考えになっていたように感じました。

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確かに過去30年近く地を這うような金利でしたのでそれが将来上がるかもしれないと言われても「オオカミ少年だろう」と聞く耳を持たないのはわかります。しかし、ローンをするのはこれから25年とか30年といった先までの話であり、その状態がずっと続くかどうかは銀行の頭取も日銀総裁も分かりません。

ではお前はどう思うのか、と言われれば「上がる、だけど、何処まで上がるかはわからない」としか言いようがありません。経済成長率を考えるとアメリカのような7%といった水準にはならないでしょうが、2-3%にはなりえる可能性はあると思います。

その理由は日本の物価はいつまでも安くない、という前提に立っています。まず、資源だけでなく資材も多くは輸入に頼っています。その輸入資材は値上がりする中、買い負け、つまり諸外国との取引価格がより高くなり、応分の金額を出さないと買えなくなるのです。2つ目に人件費です。建設業界は3Kのはしり業種でした。外仕事できついのです。その為、建築業従事者は減少の一途です。90年代は日本で最大の就業者数を誇った業界でピークの97年には685万人いました。22年時点でそれは479万人で今後、更に減ります。理由は高齢の作業員がリタイアするからです。つまり、建物が作れない、そういう問題が起きるのです。

高橋洋一氏は移民促進ではなく、AI化を進めればよい、と言い切っていましたが、どれだけAI化、ロボット化が進もうが労働力が必要な分野は必ず生まれるのです。そう考えると(輸入)物価が上がる⇒物件価格も上がる⇒金利も上昇バイアス⇒住宅ローンの上昇のシナリオはありうるわけで、変動金利で借りた場合、思わぬ事態が生じることもあるのです。

もう1つは購入したマンションの維持管理問題です。私は「変人」かもしれませんが、自分で開発してきたマンション群のほぼすべての管理組合といまだにやり取りをしています。古いのになると20数年です。理由は管理組合の役員に建物に精通した人がいなく、判断が出来ないのです。図面すら読めません。管理会社なら知っているだろう、と思うのは大間違い。彼らは金の計算は出来るけれど専門的知識は業者の受け売りレベルなのです。なので管理会社の担当からすら私に時折メールで問い合わせが来るのです。この状況は日本でも似ていると思います。

しかし、私が懸念しているのはそれだけではありません。最大のネックは管理費や修繕積立金の支払いが行われているのか、という点です。このブログのお読みの方も分譲マンションにお住まいの方が多いと思います。では管理費や修繕積立金の回収遅延率はどれぐらいか聞いたことがありますか?

新しい建物や高額物件は遅延率は少ないかもしれません。が、築年数が20-30年以上など相当古いものになってくると驚くほど遅延率は上昇します。業界調べでその平均は25%ともあります。平均ですから古い物件は30-40%を超える物件もあるのでしょう。

ここからがポイントです。古い物件で総戸数が少ないマンション、例えば20戸程度しかないマンションだと正直、維持管理はパッチワークしかできなくなります。修繕積立金の総額が知れている上に遅延率が30-40%となれば維持できるわけがないのです。

自治体は管理組合に長期計画を出せ、といいます。計画ぐらいいくらでも作れます。が、その計画に基づく資金が実際に回収できるかは住民次第であり、計画は「絵に描いた餅」にしかならないのです。

では未払いの所有者にどうやったら払わせるのでしょうか?概ね、督促状、催告書、裁判所による支払い督促、訴訟、競売という順番です。では総戸数100戸のマンションで30人が未払いをしているとします。管理組合が30人に対してこのプロセスを取れますか?というのが私のポイントなのです。ほぼ出来ません。しかも所有者は所有権を理由に退去もしないでしょう。半ば泣き寝入りなのです。

どうしてこのようなことが起きるか、といえば日本のマンションが終の棲家でもあることがある意味、災いしています。個人の家計という単位で見ると誰もが健全というわけではありません。事業失敗、失業、家族崩壊、更には年金暮らしで病気などで出費が重なれば管理費や修繕積立金は払えないでしょう。外国人所有者で行方知らずというのもあります。

私が日本のマンションを不動産の価値として勧めない理由はたくさんあるのですが、これらは切実な問題なのです。冒頭、パワーカップルが1億5千万円の物件を低金利を理由に買おうとするのは現在の収入やステータスがずっと続くという前提です。ですが、今の社会、5年後すら予見できないのです。パワーカップルの場合、離婚したらローンの残債をどうするのかという問題もあるのです。超高層マンションを新築で購入しても日本のように転居率が少ない場合は居住者は建物と共にそのまま高齢化します。すると数百戸の住民と管理費や修繕費の運命を共にしなくてはいけないのです。

ではお前はカナダでマンション(コンドミニアム)に住んでいる理由は何故だ、と言われるでしょう。答えは管理費未払いの所有者にはLIEN(先取特権)が簡単につけられること、そしてこちらの分譲住宅は5-10年単位で住民の過半数が入れ替わるのです。つまりどれだけ管理費を未払いにしようとも物件売却の際、その未払いと金利の支払いである先取特権が優先される仕組みなのです。ちなみにこの先取特権は建設業界でも非常に多く活用されます。例えばデベロッパーが下請け業者に工事費の支払いをしないと業者が物件に先取特権をつけます。するとこのデベは実質的に物件購入者に引き渡しができないのです。だからデベロッパーは先取特権をつけられないように業者への不当な未払いはしないように気を遣うのです。

日本のマンション事情をより健全にするにはまず、管理組合の作業負担を減らし、管理費などの回収が担保保全される方法を構築すること、もう1つはデベが提示する新築時の管理費、修繕積立金は販売促進のため安く表示されているのが普通なので第三者の専門業者が知見をもってその予算を作り提示することを義務化することがまずは第一歩でしょうか?そうすると日本でマンション、買えないというムードは出来るかもしれません。いずれにせよ、今の日本の住宅業界はデベと国交省の馴れ合いだろうと思います。その国交省の大臣は公明党ががっちり握っているので改革出来ないのかもしれないとすら思ってしまいます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年11月7日の記事より転載させていただきました。