アフガニスタンで2021年8月15日、イスラム原理主義組織「タリバン」がアフガン全土を再び占領し、駐アフガンの米軍撤退で同国の政治情勢は激変した。タリバン勢力のカブール入りが伝わると、同国に駐在していた外国人要人や家族の国外退去で大混乱になったことはまだ記憶に新しい。あれから2年以上が経過、タリバン政権は国際社会から孤立化してきている。
ところで、ウィーンに本部を置く国連薬物犯罪事務所(UNODC)が5日公表したアフガンのアヘン栽培に関する調査報告によると、同国のアヘン栽培が推定95%減少したというのだ。アヘン栽培は国内全域で23万3000ヘクタールから23年にはわずか1万800ヘクタールに減少した。この減少により、アヘンの供給量も2022年の6200トンから23年にはわずか333トンへと95%減少したというわけだ。以下、UNODCのプレスリリースの概要を報告する。
不法麻薬の生産に利用されるアヘン栽培の急減は朗報だが、アヘン栽培からの収入に依存してきた多くの農村コミュニティには大きな経済的損失を与えている。2023年に収穫されたアヘンを業者に販売することによる農民の収入は、2022年の推定13億6000万米ドルから、23年には1億1000万米ドルへと92%以上減少したからだ。アヘン栽培に依存してきた農民たちが突然、栽培を自主的に中止したわけではない。タリバン政権が麻薬禁止令を発令したからだ。
UNODCのガーダ・ワーリ―事務局長は、「違法アヘン市場とそれが地域的および世界的に引き起こす被害に対して、長期的な成果を生み出すことが期待できるが、同時に、特にアフガンの人々にとって、最終的に前向きで持続可能な結果をもらすためには、対処する必要が出てくる。具体的には、アヘン栽培を中断して収入源を失った農民たちへの経済支援と共に、アヘン栽培に代わる代替作物栽培の促進が急務となる。アフガンの人々には今日、最も差し迫ったニーズを満たし、収入喪失のショックを和らげ、生活危機を救うために、緊急の人道支援が必要となる」と述べ、「今後数カ月間、アフガンの農民はアヘン収入の代わりとなる持続可能な生計への強力な投資を緊急に必要としている」と説明している。
アフガンでは人口の80%近くが農業に依存している。同国ではすでに深刻な水不足の課題に直面している。国連事務総長アフガニスタン特別代表兼国連アフガニスタン支援ミッション代表のロザ・オトゥンバエワ氏は、「持続可能な代替開発の取り組みは、干ばつに強い農業活動と資源の効果的な保護と利用を指向しなければならない」と述べている。
多くの農民はアヘンに代わり小麦の栽培に目を向け、ファラー州、ヒルマンド州、カンダハル州、ナンガハル州全体で穀物栽培が16万ヘクタール増加した。小麦栽培は食糧不安をある程度緩和する可能性があるが、この作物が生み出す収入はアヘンよりもはるかに少なく、小麦に切り替えることにより、4つの州の農民は2023年に約10億米ドルの潜在的収入を失ったという。
UNODC調査報告書は、「アフガンでアヘン栽培が急減することで、アヘンに含まれるモルヒネを抽出して、科学的合成によって生産されるヘロインの減少をもたらす結果、密売や消費が減少する可能性が考えられる一方、フェンタニルやその他の合成オピオイド(麻薬性鎮痛薬)などの有害な代替品の出現に拍車がかかる可能性がある」と予想している。
不法麻薬の押収に関するデータによると、アヘン取引業者らは2023年の不足を乗り切るために過去の記録的な収穫によるアヘンの在庫を売却する一方、ヘロインの処理は減少。また、他の薬物、すなわちメタンフェタミンの密売が急増している。ちなみに、アフガン国内でもアヘンの消費が大きな社会問題となっている。アヘン栽培の急減に伴う国内のアヘン消費状況にも影響が出てくるだろう。
いずれにしても、アフガンのアヘン栽培急減は世界の麻薬の闇市場に大きな影響を与えることは必至だ。同時に、タリバン政権が資金獲得のためにアヘン栽培禁止の一部を解除する可能性は排除できない。UNODCの技術的支援と監視が重要だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。