インフレが長期化する一方で、日本人の実質賃金の低下が続いています。
【参考リンク】8月の実質賃金 去年同月比2.5%減少 17か月連続のマイナスに
インフレになれば物価にくわえ消費税や所得税も上がるわけで、個人の負担感は半端なく上がっているはず。
岸田総理がまだ増税したわけじゃないのに“増税メガネ”みたいな変なニックネーム付けられる背景には、そういう構図があるんでしょう。
庶民から見ればインフレも増税も同じというわけですね。
なぜ日本人の賃金は下がり続けるのでしょうか。そしてどこまで下がり続けるんでしょうか。いい機会なのでまとめておきましょう。
インフレで泣く人笑う人
最近めっきりみかけなくなりましたが、10年くらい前にはこんなこと真顔で言ってる人達がいっぱいいましたね。
「悪いのはデフレ。インフレになれば賃金も上がる」
今でこそ「そんなわけないだろ!」と怒る人も多そうですが、実はこれ自体は正しいです。
というのも「賃上げしてしまうと後でなかなか下げられない」という特殊事情の強い日本では、賃上げに対して経営側は常に保守的、石橋を叩いて渡るスタンスです。
「ホントはもっと賃上げしてやりたいけど、不況になったら払いきれる自信がないから」という理由で、賃上げをためらう企業がほとんどだと思います。
でも、インフレなら話は変わります。多少上げすぎたところで数年経てばあるべき水準におちつくわけですから。
「石橋をたたいて渡る」から「少々やりすぎくらいがちょうどいい」にマインドが変わるわけです。これは大きいですね。
ただし。これには条件があって、すべての人がそういう扱いに変わるわけではありません。具体的には以下のような人材だけが対象となります。
・会社から見て非常に優秀で、ほっておくと流出しかねない人材
「本当はもっと払ってやりたいけど先のことを考えると中々賃上げできない、でもいつ転職されるかとても心配だ」と会社から心配されているようなタイプですね。
そういう人にとっては確かにインフレは賃上げの追い風になるでしょう。
一方で、それとはまったく状況の異なる人たちもいます。それはこんな人たちです。
・会社から見てそもそも給料に見合ってない人、いなくなっても全然困らない人
インフレだからって、既に給料分の仕事してない人を賃上げする意味なんてありません。いなくなっても困らない人の帰属意識を賃上げで高めようなんて誰も思いません。
むしろ普通の会社なら、インフレはいらない従業員の賃金を据え置いて実質賃金を下げられる絶好の機会だと考えるでしょう。
ひょっとすると「自分は優秀ではないがお荷物でもない普通の人間だから関係ない」と思っている人も多いかもしれません。
ただ、そういう人も自分で気付いていないだけで、環境の変化によりいつのまにか「給料に見合ってない人」になってしまっている可能性があります。
というのも企業に70歳までの雇用努力を義務付けた高年齢者雇用安定法の改正や伸び続ける社会保険料により、従業員を雇用するコストは年々伸び続けているためです。
実際には会社が賃上げしたいと考える優秀者は少数派で、大多数の労働者は(本人の能力不足、雇用コストの増大などの理由は違えど)実質賃金切り下げのターゲットとなるだろう、というのが、筆者がこれまで何度か指摘してきたことです。
17か月連続で実質賃金が低下中という事実は、現実が大筋で筆者の予測通りに動いている結果のように見えます。
余談ですが、前回は「自分以外の誰かが主役の物語はインチキだ」という話をしました。
「日銀が大活躍するという物語」に期待した人は少なからずいたようですが、ぶっちゃけそういう人って上でいうところの2番目の人でしょう。
というのも、筆者はこの数年で収入の増えたビジネスパーソンをリアルで何人も知っていますが、日銀がどうたら言ってる人は一人も知りませんから。
人生の主役は自分自身なので、自身が大活躍して成功する物語を描きましょう。結局は、それが人生を豊かにする唯一の道なんですね。
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以降、
みんなが気づいていない日銀・植田総裁の恐怖のロジック
弱者ほど転職する社会に
Q:「技術系管理職の役割とは?」
→A:「大卒修士以上で技術面まで含めたマネジメントは難しいのでは」
Q:「第3号被保険者は見直すべきでは?」
→A:「大した話じゃないのでとっとと廃止すべきでしょう」
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2023年11月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。