緊急事態において衆議院議員の任期を延長する憲法改正の是非

石破茂です。

11月10日から13日に行われた時事通信社の世論調査では、内閣支持率が前月比5ポイント減の21.3%、自民党支持率が1.9ポイント減の19.1%で、どちらも2012年12月の政権復帰以来最低となったそうです。

政権復帰後に当選した自民党議員が、衆・参共に所属議員の半数を超えている中、このような逆境は彼ら・彼女らにとってみれば初めての体験なのでしょう。永田町は騒然とした雰囲気となっていますが、このような時に周到狼狽、右往左往して突如として政権批判を始めるような振る舞いは必ず有権者に見透かされます。

「菅政権では自分たちの選挙が危ない」などと、党員投票で示された自民党員の意思をも覆すような形で岸田政権を選んだのですから、その責任は当然我々自民党所属国会議員が負わねばなりません。

党の運営方針であれ政策であれ、おかしいと思うものは各種の会議で指摘すべきであり、自民党にはその仕組みが整っています。日本国憲法に定められている通り、国会議員は一人一人が「全国民の代表者」であって、そこに当選回数や年齢による差別的な扱いはありません。

当選期数の少ない頃、大先輩の議員から「キミたちは地元に頻繁に帰れるし、まだ大した役職にも就いていないのだから選挙区の人たちも遠慮なく本当のことを言ってくれる。それを中央で発言することが大事なのだ。自分たちが一番国民に近いということを決して忘れるな」と教わったことがありますが、まさしくその通りだと思います。

自民党HPより

政務三役が不祥事の発覚により辞任するという事態が相次ぎ、所沢市、立川市、青梅市など首都圏の地方選でも自民党系の候補の落選が続いています。

内閣支持率の低下も確かに影響してはいるのでしょうが、このような時こそ、より丁寧に、地道に地元を廻らなくてはなりません。逆風下でも勝てる体制を作っておかなくては、時流に阿った発言や行動をしてしまい、政治を誤ることになりかねません。自分自身を顧み、自重自戒しながら日々を勤めていきたいものだと思っております。

ガザ地区では凄惨な戦闘が続いています。軽々な判断は控えるべきですが、「国際人道法違反」と言うのなら(イスラエルもハマスも互いにそう主張しているようです)、いかなる行為が、どの国際法規の、どの条文に該当するのかを明らかにした上で、議論を精緻に詰めていかねばなりません。

ジュネーブ諸条約は、加盟国に、その国民に対して、平時から条約の内容を教育する義務を定めていますが、我が国においてはほとんど行われていませんし、私も習った覚えが全くありません。「入試に出ないものは勉強しても仕方がない」ということで全く習わないことが多くありますが、少なくともこれは憲法第98条に定められた条約遵守義務と大きく乖離するものだと思います。

今週の憲法審査会では、戦争、テロ、大規模自然災害などの緊急事態において、衆議院議員の任期を延長する改正の是非について議論が交わされました。解散によって衆議院議員は日本から一人もいなくなり、衆参同日選挙が行われた場合、選挙の日程によっては参議院の半分の議員しか国会議員がいないという事態も確かに起こり得るのですが、その場合でも参議院の緊急集会では何故駄目なのか、今一つ釈然としませんし、国民に改正の意義がよく伝わっていないように思われます。

国民民主党の玉木代表は自民党の憲法改正に向けた姿勢を「やるやる詐欺」とまで酷評していましたが、先の国会休会中に自民党で憲法に関する会議が開かれなかったところを見ると、玉木氏の表現の仕方はともかくとして、全くの的外れとも言えなくなりそうです。

どの党も反対しないと思われる「要求のあった日から20日以内の臨時国会の召集」(自民党憲法改正草案第53条)など、できる改正からまずやってみてはどうかとかねてより思っているのですが、なかなか賛同が拡がらないのは不徳の致すところです。

先回「田中角栄100の言葉」新版の紹介をしたところ、いくつかの反応を頂戴致しました。当然のことながら随分と否定的な見解もありましたが、かつて大学生の頃、亡父から「お前は田中に会ったことがあるか。会ったこともない人間を新聞がこう書いている、テレビがこう言っているからと批判することがあってはならない。」と厳しく諭された時のことを思い出しました。

もちろん誰にでもそのような機会があるわけではありませんし、公人たるものは批判されて当然の立場ではありますが、商業的なスタンスからの言動にはよく注意しなければならないと思います。

先週の細田博之前衆院議長に引き続き、今週も保利耕輔元自民党政務調査会長、若林正俊元農水相と、お世話になった方々の訃報が続きました。農政の権威でもあった保利先生は、常に冷静沈着、本当にこの上なく誠実で真面目な方でした。出来ればご尊父・保利茂先生に続く、父子二代の衆議院議長になって頂きたかったと残念でなりません。晩年は憲法改正に心血を注がれた先生のご功績に、謹んで心よりの敬意を表します。

今週末の都心は寒くて風の強い日が続きました。皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。


編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2023年11月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。