少子化が続く日本ですが、就業者数は増え続け統計局の23年9月の発表によると6787万人で14カ月連続増となっています。これは長い目で見ても増加傾向にあります。2001年には6412万人でした。
いわゆる生産年齢人口と称する15-64歳の人口は減ってきていますが、その外側にある65歳以上の労働力が増え、2012年で600万人程度だったものが現在は900万人ほどになっています。また、女性の労働参加も増え、2012年から現在までに200万人以上増えています。ちなみに2023年の生産年齢人口は7480万人で前年比16万人減です。外国人労働者の増加も合わせ、少子化の日本で労働力が捻出されているといってもよい状況です。
しかし、出生者数が77万人レベルまで下がっていることを踏まえると生産年齢人口はいずれ4000万人以下になることが確定しており出生者数次第では更に下押しすることになります。今は女性と65歳以上の高齢者の労働力で補充をしていますが、いずれ潜在的余力は無くなるはずで、現在の就業者数はほぼピークではないかとみています。
一方、技術の進化でITやAIとロボット、自動化が進んでいるわけですが、自動化がたやすくない業種も多く存在します。労働力が時代の変遷に合わせ、リスキリングでよりフレキシビリティが進むにしてもたやすいことではないとみています。特に労働集約的な業種である建設業、介護、医療、社会サービス、役所、飲食業、理容/美容などは人材不足が顕著になると考えています。
人がどのような職業につくのかは時代の背景があり、労働需要が高い業種に必ずしも労働供給がマッチしないことはこの5-6年、労働力のミスマッチとしてしばしば話題に上がってきています。特に若い人はコンピューター系の仕事に愛着がある一方、外仕事をしたくない傾向は顕著です。
そんな中、日経は地方の人口過疎地で水道の供給が給水車に代わっていると報じています。自然災害で給水のインフラが壊れてもそれを直す予算がないだけでなく、水道事業の従事者が1980年から36%減ったことも原因の一つと報じています。
以前、少子化問題について議論した際、「日本はまだ人口が多い」「江戸や明治時代にはもっと人は少なかったから問題ない」という声がありましたが、残念ながらその時代と今ではインフラも社会の進化と複雑さも比較にならないのです。更に人口が減れば税収も減るし、修理ができる作業員もいない、そういう時代が来るのです。
岸田首相が増税メガネと言われているのは財務省の意向もあるかもしれませんが、長期的に見て現状の日本の維持が徐々に困難になることが予見される中、人口が増えないなら予算的措置を増やすしかないという見方があるのだろうと考えています。(一部の識者が日本には潤沢な資産があるとの指摘がありますが、今は年次収支(PL)と貸借対照表(BS)は混ぜ合わせないでPLだけで見る前提で考えています。)よって冷静に考えるなら日本は長期に渡って税金は上がることはあっても下がることはない、と考えるべきなのでしょう。
では一般物価です。労働力を削減できる業種は業態に劇的変化を伴いながら価格を維持する一方、削減できない業種では極めて大きなコスト増が見込まれるとみています。
例えば激変対応ができる業種として飲食店があります。サラリーマンのランチは定食屋や蕎麦屋で座って食べる時代からテイクアウトオンリーになり、店でサービスする業態は高級店化して二極化するとみています。例えば吉野家がテイクアウト専門店を25年2月までに今の5倍の160店舗にすると発表しています。理由はテイクアウト店は人材が少なく、場所も狭くて済むため利益率が圧倒的に高いからです。
一方、建設業は輸入資材のコストの高騰の上に建設労働者が減っていることから戸建て住宅でこの数年で1-2割値上がりしています。個人的にはこの価格上昇は今後、加速度的になり不動産価格全般が更に上昇してくるとみています。当然、市場から振り落とされる潜在購入者は賃貸市場に廻るわけですが、その賃貸価格は都心部でこの半年だけで10%上昇しています。理由はコロナによる脱東京から、人材不足で好条件の仕事が多い都心への回帰が明白となっているからです。
1-2年前までは日本の物価は世界と比べ、相当安いとされてきました。もちろん為替水準が円安過ぎることもあります。が、そもそも日本企業は企業努力で価格上昇を抑えてきた歴史が大きかったと思います。それがいよいよ物理的に不可能になってきたということかと思います。では円高になるのか、といえば短期的動きはともかく数十年単位の超長期で見ると円安になる公算はあります。理由は国力の問題です。財政が維持できなければ国際的な評価は下がるのです。そうなると利上げをしても通貨安は止まらず、物価は上がり続けるという悪循環、いわゆるアルゼンチン化が起きることもあり得るのです。
もちろん極端な例えではありますが、少子化と物価高は切り離して考えられなくなってきたともいえそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年11月20日の記事より転載させていただきました。