再来年の予約を取る店、来月の予約しか取らない店

奇跡的に予約の取れた築地のお寿司屋さんにランチに行ってきました。お鮨、お酒のクオリティにも圧倒されましたが、それ以上に若き親方のお鮨に向き合う姿勢に感銘を受けました。

8席のカウンターしかないお店で、考え抜かれたメニュー構成。最初のおつまみから最後の卵焼きまで、一切の妥協はありません。

そして、以前修行していたお店の親方を心からリスペクトして、今も感謝の気持ちを忘れない律義で謙虚な方でした。

人気店になって予約が取れなくなると、調子に乗って天狗になったり、値段だけ上がってクオリティが下がっていく残念なお店が多い中、インスタグラムなどのSNSも一切やらず、お店のカウンターに向かっているお客様だけに全力で向き合う。

その潔さに古き良き日本人の姿を見たような気がしました。

そしてお会計もこれだけのレベルとは思えない良心的な金額です。

当然のことながら、次回の予約をしたいと思ったのですが、何とこちらのお店は毎月初にしか予約を取らないとのこと。しかも、電話だけです。

お店に行った人でも、また電話をかけて激烈な競争で予約を取らなければなりません。

その理由について、親方は「来月までしか自分とスタッフが充分な体制で満足できるサービスを提供できることを確認できないから」だと説明していました。

翌月であればともかく、半年後、1年後になれば、何が起こるかわかりません。そんな不確実な内容のままでお客様の予約を取ることは、職人として許せない。自分を厳しく律しているような妥協のない姿勢を感じて、さらに好感を持ちました。

こちらのお店のような人気店であれば、おそらく1年後、2年後の予約まで埋めることができるでしょう。そうすれば、安定した売り上げが計算でき、お店に経営としては安定するかもしれません。

最近では、5年待ちといった人気飲食店もあるようですが、そこまでになると果たしてお店のスタッフも自分も生きているのだろうかと不安になります。

長期の予約を受け付けるお店の中には、予約を1年間違えて来店する人もいるようです。

1年先、2年先の特定の日に今から食べるお店を決めておく。そこまでする価値があるお店が果たしてどのくらいあるのでしょうか?

次回の予約を受けてもらえなかったのは残念でしたが、職人気質の筋の通った姿勢に、また来たいという気持ちが更に高まりました。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2023年11月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。