大学生だった10代の頃、海外へのバックパッカー旅行に強い憧れを持っていました。影響されたのは沢木耕太郎さんの「深夜特急」シリーズ、そして妹尾河童さんの「河童が覗いた」シリーズです。
特に「河童が覗いたインド」をいう本には妹尾さんが旅をしたインドの様子とそれを見て感じた正直な感想がびっしりと記載されており、何回も繰り返し読みました。
それが高じて、自分でもインドにバックパッカーとして3週間ほど卒業旅行に出かけました。そして、旅行中に赤痢にかかり、日本の病院に隔離されたまま卒業式に出られなかったという苦い思い出もあります。
写真の書籍は、今でも自宅に大切に保管してある、大学時代に購入した妹尾河童さんの著作です。「河童が覗いたヨーロッパ」には購入日が1985年6月12日との記載があります。
この本の中で印象に残っているのが、小室等さんがあとがきで紹介している妹尾さんが友人を呼んで作るピェンロー(扁炉)鍋と呼ばれる料理です。
干し椎茸を水で戻して、その戻し汁と椎茸を入れた鍋に5㎝くらいの短冊切りにした白菜を入れる。一緒に鶏肉と豚肉(安い肉で良い)を入れて煮込んでいきます。
白菜は白い固い部分を先に煮込んで柔らかい葉先は最後に入れる。白い白菜がしんなりしたら、春雨も入れる。仕上げにごま油を「の」の字に1周半回しかけして完成です。
後は、自分の器にあら塩と一味唐辛子を入れて、スープと一緒にひたすら食べる。塩と一味唐辛子は拘って良いものを選ぶのがポイントです。
鍋に付きものの鰹や昆布の出汁は一切入れない。そして、ネギや春菊といった鍋の定番野菜も入れない。七味ではなく一味唐辛子を使う。ここを間違えてはいけません。
この料理が、何とあのDancyuの読者支持率ナンバーワンレシピになっているというのです。
作り方はこちらから見られます。
自分の器に入れるあら塩と一味唐辛子の味付けは、個人の自己責任。味を押し付けるのではなく、自分のことは自分で決める。そんなところに妹尾河童さんの自由を大切にする生き方が投影されているように感じます。
この鍋のことを知ってから40年近くの年月を経て、このピェンロー鍋を最近始めて食べる機会がありました。
正直な感想を言うと、今まで食べた様々な鍋よりもシンプルなのに奥深い。そしていつまでも食べ飽きない傑作鍋でした。
しかも、塩、一味唐辛子、ごま油さえ良いものを選べば、後はどこにでもある普通の材料で作れます。料理の素人であっても、誰でも美味しく完成できます。
舞台美術家としても有名な妹尾河童さんですが、「ピェンロー鍋」の普及に貢献したことこそ実は最大の功績ではないか。これは決して大げさではありません。
これからの季節にピッタリの鍋料理。近いうちにまた作ってみる予定です。
編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2023年11月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。