コロナ禍後半から始まった世界的なインフレ。物流から始まり、燃料、人材不足、食糧、航空券…と繋がっており、最近はホテル代の高騰がまだ話題かと思います。
物価高は需要と供給が導き出す、というのが教科書的な話ですが、必ずしもそれだけではないと思っています。それは人々の心理を巧みに突いた価格設定です。例えば航空券やホテルの宿泊代設定ではごく当たり前となったダイナミック プライシング システム。予約状況、ペース、イベント情報、天候など各種エレメントを加味して、コンピューターやAIが需要を予測し、供給側、つまり航空会社やホテル側に最大利益をもたらす仕組みです。
例えばある地方都市で大型のコンサートがあるとします。地方都市のホテルのキャパシティは割と知れている中でコンサートに来る地元ではない人たちのホテル需要が重なると極端な価格形成をし、普段の2倍、3倍の価格となります。昭和の方は覚えていると思いますが、残りあと僅かになると店主が「安くするから持っていけ」だったのに今では「最後の一つは争奪戦で価格は天井知らず」になるわけです。
これは本来の物価ではないのですが、やむを得ず受け入れるし、例えばその地方都市に業務出張する人にはえらく迷惑なわけです。なぜ地方都市かと言えば大都市圏は需要の吸収余力があることことと東京になければ横浜でも大宮でも代替先があるのですが、地方だとそれがほとんどないのです。
原油高というのもありました。世界の原油の産出量と平常の経済時における需要からするとバレル当たり70-90ドルレンジに収まるというのが大まかな尺度です。ではなぜそれを超えて大きく跳ね上がったか、と言えばスペキュレーション(投機)だったわけです。コロナの時、一度は原油価格がマイナスにまで落ち込んだのも投機と人間の心理の結果といえましょう。
原油市場はある意味、恣意的であると思います。原油取引マーケットが小さい上にOPEC+が政治的な判断を毎月のように行います。その上最近は盟主サウジアラビアが自主的な生産抑制を行い、価格を一定水準に保とうとします。
戦争による食糧危機というのも個人的には膨らませた話だったのでは、と思っています。確かにウクライナは穀倉地帯で同国で生産される小麦は欧州や中東などで消費されていましたので影響はありました(今は回復しています)。
しかし、小麦は世界中で生産しており、仮にウクライナ産の影響があったとしても本来はスーパーマーケットからパスタが消えるという状況にまではならないはずです。小麦を含め多くの商品は国際商品相場の上で成り立っています。そして「商品相場には手を出すな」と言われるほど値動きが荒い思惑と思惑のぶつかり合いであり、価格は大きくブレるのです。
日本が原発処理水を海洋放出する直前、中国や韓国ではパニック的な動きがありました。特に塩に関しては笑いすら出てきてしまうほど買い漁る主婦たちは集団心理下に置かれるわけです。
コロナは歴史に残る事態でした。その極端な事態に人々は先々の予想すらできず、回復期にはその反動が津波のように押し寄せた、という点において特異な状態であり、社会のシステムがExtraordinaryな事態になった時によりダイナミックプライシングのような強く増幅反応するような仕組みが存在していたことが物価を錯乱状態に陥らせたと考えています。株価でもオプション取引などは増幅の一例でしょう。
もう1つは労働に対する考え方です。長くなるので一言だけ申し上げると政府の補助金で家にいてもお金がもらえるという癖が3年も続きます。勤め人の方も「会社に来るな。仕事はリモートで」になります。そこで人々の仕事に対するパーセプションが変わるのです。が、コロナが開けても「さぁ、正常化」にはなりません。なぜなら人々のマインドはコンピューターのようにスイッチの切り替えができないのです。故に1年経ってもまだ戻り過程というのが私の見方です。
その観点からすればインフレはいずれ鎮静化しないとおかしいのです。基本的に先進国は成熟国であり、物質的に恵まれているのでモノに対する需要が突然増えることはなく、経済成長率も徐々にフラット化しやすくなります。物価も当然ながら下がり、金利も2%前後になるのがナチュラルだと考えています。
日本の場合は特殊で、企業が我慢した分が今、周回遅れで物価高に反映されているのでもうしばし物価水準の訂正はあるだろうとみています。人件費が上がり、より国際水準に近づくまで物価は上昇バイアスとなりますが、日銀が金融政策の正常化を徐々に進める中で円安が修正されるのが目先の動きになるのではないかとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年12月6日の記事より転載させていただきました。