パリ管弦楽団&クラウス・マケラ&ユジャ・ワン@フィルハーモニードパリ

ユジャ・ワン、ブラ〜〜〜〜ヴァ!今夜この演奏聴けてなんて僥倖・・・と、フィルハーモニー・ド・パリを満席にした観客全員が思ったに違いない、極上演奏。

オーケストラ・ド・パリ&クラウス・マケラ。みんながあまりにも、マケラがいい、マケラのおかげでパリ管がよくなったというので、今シーズンは、このペアリングをしっかり聴くことにした。

パリ管は、フィルハーモニー・ド・パリのレジデンスオーケストラ。

フィルハーモニー手前の公園(というか草むら)に住む羊ちゃんたち。時々鳴いてこちらを威嚇する。

20時前、夕日がきれい。

なるほど、マケラ、とてもいい。オケ一人一人の音を、すくい上げるように抱き上げるように、とても気持ちよい感じでドライブしてる。

以前知り合い音楽ライターが、”ちょっとヤンソンス系の魅力があって、きっと好きですよ加納さん”って言っていたけれど、納得。ここが上手とか具体的なポイントよりも、全体的によい意味で煙にまかれる感覚。魔法にかけられるようだったヤンソンスに通じるものがある。ちょっとだらける部分とかあるけど、まあいいか、って気にさせられる。

まだまだ若いので(96年生まれ)もちろん完成形ではなけれど、脂が乗る時期が今からとっても楽しみ。(巨匠と呼ばれる頃には、私はもう生きてないだろうな。)

オスロ、そして天下のコンセルトヘボウと重婚されてるパリ管。マケラに離婚されないよう頑張れー。

そして今夜のヒロイン、ユジャ。いやもう、お見事!

「牧神の午後へのプレリュード」に続き、ラヴェル「コンツェルト・アン・ソル」。シューマンのと並ぶ、二大最愛ピアノコンツェルト♪

去年彼女を聴いた時も思ったけれど、彼女の魅力は、超絶技巧やスピード感だけでなく、なんとも女性的な柔らかな音色。まろやかで優しく、ささやきやため息や吐息のような、慈しみ深いピアノやピアニッシモに聴き惚れる。聴覚だけじゃなく嗅覚でも味わい尽くしたい、とばかりに、思わず深呼吸。

ダイヤの煌めきというよりパールのなめらかさ。かと思えば、スリリングなほどのスピードで正確に指を動かしていく。あまりに速いテンポに、金管の音がたまに潰れがちに。そこにピアノが入った瞬間、音にシュッとしたエッジが加わり一気にクリアなサウンドになる。ユジャの牽引力とエネルギー、すごい。

大好きコンツェルトを、こんな見事なピアノ(オケも頑張った)で聴けて、幸せすぎる。

ドビュッシーのアンコールも、優しくていいなぁ。興奮しきった脳をやさしく撫でてくれる。

後半に向けて調律中。

この一曲だけでも大満足なのに、ユジャすごい、後半も再び登場。同じラヴェルで、今度は「左手のためのコンツェルト」。

アン・ソルは、ユジャにしてはシンプルな真っ白なロングドレス(マケラと並ぶとほとんど結婚式)だったけど、左手は、グレーのドレスにお着替え。確かに、この曲に眩しい白は似合わない。

この曲、第一次世界大終了100年を記念して、18年11月11日に、ヴェルサイユ宮殿でウィーンフィル&ユジャが演奏した。テレビ越しながらも、ユジャの気迫ある演奏に聴き惚れたのを覚えてる。

ようやく生で初めてこの曲を、しかもユジャで聴けてなんと嬉しいこと。慟哭、悲壮、諦念、希望、勇気、、、。そんな感情が入り乱れる、左手の可能性が無限であることを証明する素晴らしい曲と演奏。オケもよかったのだろうけれど、ユジャのピアノの圧倒的な存在感に隠れて特別な感想なし。

それにしても、同じ演奏会の中で、ラヴェルの、陽と陰の傑作2曲を一緒に、しかも世界最高峰のピアニスト&指揮者で聴けるなんて、幸せすぎる。

ラストは、バルトーク「中国の不思議な役人」。マケラの魅力でそれなりによいけれど、ユジャx2曲の後では、ちょっぴり霞む。

今シーズンは、マケラ&パリ管たくさん聴くので、感動演奏に巡り合えるといいな。次回は、11月、アレクサンドル・カントロフをソリストに迎えて。楽しみ。

2時間半近くの長く贅沢な演奏会。4曲中3曲は、バレエファンにはお馴染み。牧神でヤンヤンやエルヴェ、ニコラ、エレを思い出し、アンソルでマリ=アニエス、ミリアム、マチアスを思い出し、中国でカデール(と番外でアレッシオ)を思い出す。いい時代だったなぁ。


編集部より:この記事は加納雪乃さんのブログ「パリのおいしい日々5」2023年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「パリのおいしい日々5」をご覧ください。