コロナワクチン後遺症:自己免疫疾患は増加したか?

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厚労省の見解では、ワクチンが原因で遷延する症状(いわゆる後遺症)が起きるという知見はないとされている。しかし、ワクチン後遺症患者の会の調査では、血小板減少性紫斑病、急性散在性脳脊髄膜炎、ギラン・バレー症候群など、以前からワクチン接種との関連が知られている自己免疫疾患の発生が散見される。

コロナワクチン後遺症の実態:厚労省研究班と後遺症患者会報告の比較

コロナワクチン後遺症の実態:厚労省研究班と後遺症患者会報告の比較
コロナウイルス感染罹患後の後遺症とともに、コロナワクチン接種後に遷延する症状(ワクチン後遺症)が問題となっている。両者の症状は共通するものが多い。表1は、筆者に紹介されたワクチン後遺症患者の一覧である。 中・高校生もい...

コロナワクチンの作用は、スパイクタンパクに対する抗体を産生して感染防御することであるが、産生された抗体が、脳や筋肉などヒトの組織抗原と交差反応することが、すでに日本でワクチン接種が開始される以前に報告されていた。

Reaction of Human Monoclonal Antibodies to SARS-CoV-2 Proteins With Tissue Antigens: Implications for Autoimmune Diseases

2022年の3月にファイザー社は、敗訴によりコロナワクチンに関する副反応の解析結果を開示した。この文書には、48種類の自己抗体の出現と38種類の自己免疫疾患の発症する可能性が記載されている。自己免疫疾患は、血液、消化器、脳神経、呼吸器、循環器、腎臓、内分泌、皮膚、筋肉、耳鼻科領域、眼科領域と多種類の臓器に及んでいる。

https://phmpt.org/wp-content/uploads/2021/11/5.3.6-postmarketing-experience.pdf

現時点において、日本では、コロナワクチン接種後の自己免疫疾患は増えているのだろうか。10月27日に公表されたワクチン接種後の副反応リストには、神経、血液、消化器、皮膚などの多臓器にわたる自己免疫疾患が記載されている(表1)。

表1 コロナワクチンの接種後に発症した自己免疫疾患
2023年10月27日開催、第98回厚生科学審議会資料

この発生頻度を、インフルエンザワクチンと比較してみた(表2)。コロナワクチンの総接種回数は、すでに3億8千万回に達しているので、接種回数をそろえるためにインフルエンザワクチンは、過去7年間の報告数とした。

表2 コロナワクチンとインフルエンザワクチン接種後に見られた自己免疫疾患
厚生科学審議会資料

製造販売業者からの報告数で比較してみると、コロナワクチン接種後はインフルエンザワクチン接種後と比較して、ギラン・バレー症候群で、18倍、急性散在性脊髄炎で、8倍、血小板減少性紫斑病では60倍の発生頻度であった。

これまでに、コロナワクチン接種後に2,200人以上の死亡例の報告があるが、血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、血栓性血小板減少症、後天性凝固因子欠乏症などの自己免疫性血液疾患で15人が亡くなっている(表3) 。

表3 ワクチン接種後の死亡報告に見られた自己免疫疾患:血液疾患
2023年10月27日開催、第98回厚生科学審議会資料

死亡とワクチン接種との因果関係はすべて評価できないとされ、γ判定となっている。血栓性血小板減少症では、血小板第4因子抗体が陽性ならコロナワクチンに起因するとされているが、2人の血栓性血小板減少症による死亡事例は血小板第4因子抗体が陽性であるにもかかわらず、γ判定とされている。

表4には、ギラン・バレー症候群や急性散在性脳脊髄炎で死亡した7人を示すが、ワクチン接種との関連は評価できないとされ、すべてγ判定である。

表4 ワクチン接種後の死亡報告に見られた自己免疫疾患:神経疾患
2023年10月27日開催、第98回厚生科学審議会資料

皮膚・血管系の自己免疫疾患でも12人が死亡している(表5)。全例に、何らかの自己抗体が検出されており、なかでも抗MDA抗体や抗ARS抗体が検出された皮膚筋炎や抗好中球細胞質抗体が検出された血管炎が目につく。ワクチン接種との因果関係については、全例がγ判定である。

表5 ワクチン接種後の死亡報告に見られた自己免疫疾患:皮膚・血管系疾患
2023年10月27日開催、第98回厚生科学審議会資料

コロナワクチン接種後に死亡した事例について、接種から死亡までの日数を表6に示す。血液疾患ではワクチン接種後1ヶ月以内に死亡する事例が多く、神経や皮膚疾患では1ヶ月以降に死亡する事例が多くみられるが、それぞれの病気の特性を反映していると考えられる。

表6 コロナワクチン接種後に死亡した自己免疫疾患;接種から死亡までの日数
2023年10月27日開催、第98回厚生科学審議会資料

筆者は血液病の専門医であるが、他に原因が見当たらず、ワクチン接種後6週間以内に発症した血小板減少性紫斑病はワクチンに起因すると診断している。ワクチンに起因する血小板減少性紫斑病と他の原因による血小板減少性紫斑病を区別する検査はないので、ワクチン接種後の経過時間でワクチン起因性血小板減少性紫斑病と診断しているのが実情である。

今回まとめてみて気づいたことは、自己免疫疾患による死亡事例の多くが、2021年にワクチンを接種されており、とりわけ、5月から7月に接種した事例が多いことである(表7)。

表7 コロナワクチン接種後に死亡した自己免疫疾患患者のワクチン接種時期
2023年10月27日開催、第98回厚生科学審議会資料

コロナワクチン のロットによって死亡事例の発生頻度が異なることが知られているが、2021年の4月から5月に納入されたロットの発生頻度が高い。

ファイザーワクチンに見られる副反応のロット差

ファイザーワクチンに見られる副反応のロット差
先の論考で、コロナワクチン接種後死亡数の頻度を検討したところ、2022年は2021年に比較して著減したことが判明した。 ワクチンの総接種回数は2021年が1億7千万回、2022年が1億6千万回と変わらないことから、20...

自己免疫疾患による死亡が2021年の5月から7月に多いことに、この時期に危険なロットが納品されていることが関係していると思われる(表8)。

表8 コロナワクチンの納入時期による死亡発生頻度の違い
2023年10月27日開催、第98回厚生科学審議会資料

自己免疫疾患の診断には自己抗体の検出が大変重要である。現在知られている自己抗体を網羅的に検査すれば自己免疫疾患の早期診断ができる可能性がある。

そこで、10人のワクチン接種後に遷延する症状を訴えた患者を対象に、245種類の自己抗体の検出を試みた。1人は、血小板減少性紫斑病を発症していたが、残りの9人は自己免疫疾患とは診断されていない。10人のうち7人から複数の自己抗体が検出されたが、5人の健常人からは、自己抗体は検出されなかった(表9)。

表9 ワクチン後遺症患者における自己抗体の出現
筆者作成

今回の結果の意味づけについては、自己抗体が検出された患者が今後自己免疫疾患を発症するのか、あるいは検出された自己抗体が一時的なものでいずれ消失するのか見極めることが必要と考えている。

厚労省の見解では、ワクチン後遺症が存在するという知見はなく、死亡事例についてもコロナワクチン接種との因果関係は評価できないとされている。

後遺症のなかでも自己免疫疾患に関して、

  1. インフルエンザワクチンと比較して、10倍を超える発生頻度が見られること
  2. ワクチン接種時期と発症までの期間に集積性が見られること
  3. 発生時期が2021年の5~7月に集中していること
  4. 遷延する症状が見られる患者から高頻度に自己抗体が検出されること

をどう説明するのだろうか。