欧州最大の在外北大使館は大丈夫か

ウィーン14区にある北朝鮮大使館が閉鎖されるのではないか、という疑念があった。オーストリア外務省の外国大使館欄を見る限り、北大使館の住所、電話番号は変わらないから、現時点では「閉鎖されない」と考えていいが、北朝鮮がここにきて在外公館の見直しを実施中で、欧州ではスペイン大使館も閉鎖されたというニュースが流れてきたばかりだ。

在オーストリアの崔康一北朝鮮大使(2020年6月3日、オーストリア連邦大統領府公式サイトから)

駐オーストリアの北朝鮮大使館(2016年2月9日、撮影)

ウィーンの場合、スイスのジュネーブと同様、北朝鮮が関係する国連工業開発機関(UNIDO)や国際原子力機関(IAEA)など国連の専門機関の本部があるから、北側は閉鎖しないだろうと考えてきたが、2016年、ウィーンの北大使館も閉鎖かという情報が流れたことがあった。

当方は当時、オーストリア連邦法務省管轄の土地台帳まで調査し、大使館の所有者に変化がないことを確認するまで落ち着かなかった。幸い、当時の北の金光燮大使(大使夫人の金敬淑女史は故金日成主席と金聖愛夫人との間の長女)と話す機会があった。同大使に「大使館は売りに出されるという情報が流れているが、事実か」と単刀直入に聞いた時、金大使は少々驚いた表情を見せながら、「初耳だ。いっておくが、われわれは今後も100年以上、オーストリアに留まるよ」と強調したことを思い出す。

欧州最大の北大使館は1981年5月26日に土地とともに購入している。その広さは建物758平方メートル、庭園3578平方メートル、計4336平方メートルだ。建物は1949年4月2日、「Denkmalschutz(記念物保護)に基づき、公共利益の記念物保護対象」となっている(オーストリア連邦法務省作成の「土地台帳」Grundbuchから)。ウィーンの北大使館の建物は歴史的建物としてさまざまな制限があるだけに、新しい買い手を見つけ出すのは難しいという事情がある(「北大使『大使館は売らない』と言明」2016年10月2日参考)。

ウィーンの北大使館は現在、崔康一大使(外務省前北米局副局長=Choekangil)だ。同大使は2020年6月30日、ウィーンのホーフブルクの大統領府でファン・デア・ベレン大統領に信任状を手渡した。崔ガンイル氏は27年間大使を務めた金光燮大使の後任だ。ちなみに、ウィーンの北大使館はスロベニアとハンガリーをカバーしている。

欧州連合(EU)の対北制裁もあって、北への圧力が強まっている。ウィーンには昔、2桁の外交官が登録されていたが、現在6人と外交官数は縮小。北は2004年6月末、米国の圧力から欧州唯一の北の銀行「金星銀行」の閉鎖を強いられたことはまだ記憶に新しい(「『ゴールデン・スター・バンク』の話」2019年10月9日参考)。

北朝鮮は10月、アフリカのウガンダとアンゴラ、欧州のスペインにある大使館を閉鎖し、在香港総領事館も閉鎖を決めた。その後バングラデシュとコンゴ民主共和国の大使館も閉じられたことが分かった。今後、閉鎖される在外北公館が増えるかもしれない。

北朝鮮外務省はこれについて「外交的力量の効率的な再配置」と主張しているが、韓国側は、「国際社会による制裁の強化で外貨稼ぎが困難になり、公館の維持が難しくなっているため」との見方をしている。

なお、今回は閉鎖される北朝鮮大使館でスペイン大使館といえば、2019年2月22日、首都マドリードにある北朝鮮大使館に何者かが侵入し、大使館関係者を拘束し、パソコンや携帯電話などを奪って逃げ去るという事件が発生したことがある。同事件は、CIAエージェントと海外の北朝鮮反体制派グループ「自由朝鮮」の仕業と推測された。

同事件は平壌指導部を驚かしたことは間違いない。同事件の4年半後、北側はスペイン大使館の閉鎖に踏み切ったわけだ。スペインでの職務はイタリア大使館が兼務することになっている(「『朝鮮半島のハムレット』の幕開け?」2019年3月20日参考)。

韓国・聯合ニュース(日本語版)によると、北朝鮮が国交を結んでいるのは159カ国・地域を超えるが、経済難に見舞われた1990年代の「苦難の行軍」以降、在外公館は徐々に縮小され、2023年11月29日の時点で北の在外公館は46カ所。平壌に在北朝鮮公館を持つ国も撤退閉鎖が進み、2021年3月時点で残存しているのは13カ国のみだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年12月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。