金利が下がるバイアス、上がるバイアス

アメリカの連邦公開市場委員会(FOMC)で「3会合連続利上げを見送り」と多くのメディアが報じています。「利上げを見送り」という表現は「利上げしたいけど、そこまで踏み込めない」という意味でバイアスという観点からは利上げバイアスを前提としています。

その根拠はパウエル議長がFOMC後の記者会見で市場に対して釘を刺し続けているからで実際、今回の記者会見でも「利上げの可能性はまだ残る」と明言しています。ただ、毎度議長の記者会見を聞いていると言葉尻に性格が表れ、パウエル氏の釘は何なのだろう、と考えてしまうのです。個人的には真意はその言葉にあらず、市場に対して「踊るなよ」という忠告だろうと過去3回の記者会見から見て取っています。

分かりやすく言い換えると「飲みに行くのはいいけれど飲み過ぎるなよ」ということです。

パウエル議長をはじめとするFOMCのメンバーは金利上昇が急激すぎていずれその反動が来るだろうことは予想していたはずです。そして急激な利上げはほぼ確実に急激な利下げが反動として起きてきたことも事実です。過去数十年の事例で急激な利上げ後、その高水準の金利を一定期間維持したのはリーマンショック後の1年弱が最長でそれも例外的なケースだったとこのブログで以前申し上げました。

なぜ、欧米の金利は急騰急落を繰り返すのか、ですが、私が長年感じるユニークな意見を言わせて頂くと欧米人のスタンスはいつも「弱気なマインドが潜在的にある」という点です。北米に31年も住んでいるとある気づきがあります。それは「北米の白人の弱点」です。彼らの体躯は日本人の5割増しぐらいあり、時として高圧的で威圧感すらありますが、それは物事がポジティブに進んでいる時により強く表れます。ところが一旦、負のサイクルに入ると極めてナーバスになり、「まずいぞ」と頭を抱えます。一言でいうと精神的な弱気面であり、セロトニンが豊富な欧米人とは思えないほどドツボにはまります。故にクスリ漬けになってしまうアメリカ人が多いのはその一面なのだろうと考えています。

今回のインフレ局面でも日本の金融政策は比較的忍耐強く匍匐前進程度でしたが、欧米が「やばい、ヤバい」の連続だったのは「利上げして火消しをしないと大変なことになる」というメンタル面での極端なブレが生じてしまった背景を見て取っています。

パウエル議長の比較的安堵した今回の記者会見からはいわゆる弱気面が消えて巡航高度に戻すスタンスを明白に表しています。つまり、2024年は利下げが視野に入っているということです。

これを聞いて一番ほっとしているのは誰か、といえばECBのラガルド総裁でしょう。欧州はアメリカよりも経済全般にへたりがあるのは明白ですが、なかなか利下げムードに転じるきっかけを作れず、パウエル議長と同じように見せかけの利上げバイアスを少なくとも言い続けてきました。よって本日開催されるECBの理事会では利上げ打ち止め感を何らかの形で表現するとみています。

となると最後、注目は来週に金融政策決定会合を控える日銀です。専門家の下馬評は「何ら政策変更はない」となっています。私はYCCの撤廃を見込んでいます。日銀としては金融政策を正常化させることが使命なのです。そして黒田氏の置き土産はテクニック論に走りすぎ、こびりついたような特異な状況にあるものを元に戻さざるを得ないという大局観があるはずです。特に今般の自民党の騒ぎの中で、元気が出たのは東京地検特捜部とされますが、もう1つは日銀だという点が今後見えてくるだろうとみています。

黒田東彦前総裁と植田和男現総裁 NHKより

その点では日本は正常化までは「上がるバイアス」になると思います。一部の方からは「今は適温、なぜ、金利を上げなくてはいけないのだ」という意見があると思います。金利がある世界は当たり前なのにそれをすっかり忘れてしまったのが日本です。もしもこの先、リーマンショック級のトラブルが起きた時、日銀の金融政策が正常化していなければよりテクニカルでより複雑な対処にならざるを得ません。一方、黒田氏を除き、金融政策はシンプルでわかりやすいことが重要というのが世界スタンダードなのです。黒田マジックはややもすれば趣味の世界だったと思っています。

アメリカの利下げが視野に入るのでドルは相対的に弱くなり、円は正常水準である120-130円程度まで動くのでしょう。日本の株価への影響を気にする人も多いと思いますが、下駄を履かせてもらって「株高バンザイ」もないでしょう。そんなハンディを頂くのではなく、正々堂々と真っ向勝負するのが正論ではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年12月14日の記事より転載させていただきました。