本物と偽物を見極めることができるか?

本物と偽物、別にフランスのデザイナーズブランドの話をしようというのではありません。

もしも皆さんがお勤めの会社の社長が「社員の皆様、突然のご報告で申し訳けございませんが、当社は本日、会社更生法を提出しました」と社内メールなり、社内で使う動画なりで発表があったとしたらどうでしょうか?それも週末とか連休の最中だったらどうでしょうか?慌てふためくでしょう。なぜなら普通、信じてしまうからです。

ひと月ほど前、岸田首相の生成AI動画がご丁寧にも日テレのロゴ入りで流され、ちょっとした騒ぎになりました。犯人は愉快犯だろうと察しますが、その程度であればまだ気にならないでしょうが、着実にフェイク度のクオリティは上がっていくはずで一般の方がちょっと見ただけでは判別がつかない事象がどんどん出てくるでしょう。

ディープフェイク画像の素材となった岸田首相の画像

ドイツでは11月下旬、ショルツ首相のフェイク動画を野党が追い落としのために作成したと話題になっています。他にも「フェイクニュース」の言葉で検索をかけるといろいろ出てきます。今のところ政治家などがその主役ですが、本気で騙そうと思えば上記のように会社組織などごく狭い人たちを対象にすることもいずれ可能になってくるでしょう。なぜ、今、政治家が対象になっているかと言えば過半数の一般庶民はニュースの信ぴょう性を判断することなく、鵜のみするからで、騙しやすいからです。これが自分の会社の社長となれば「なんかおかしいぞ」と気づくチャンスは大きくなるわけでより高度なテクニックを要するわけです。

半年ぐらい前にZoom会議をしていた際、司会の方がある方に「マスクを取ってください。あなたが誰だか確認できません」と言っていたのはオンライン会議でマスクをされるとその会議参加者が本当に参加予定されていた人物か判断できないのです。Zoom会議の招待リンクを盗んでなりすましで参加し、場合によってはとんでもない発言をすることだって可能なのです。

私はリモートワークについては使い分けをすることが重要と以前申し上げたと思います。コロナの頃ある日本でお勤めの方が「これで俺はもう2度と会社に出社することがない」と豪語していたのをみて「そんなわけない」と心の中でつぶやいていましたが、実際それから2年もしてほぼ元の木阿弥になっています。

カナダでは今でも担当者がリモートワークだけで業務をこなしているケースがしばしばあるのですが、先日、余りの非効率さとコミュニケーションの不具合からクレームしてようやくリアルの会議にこぎつけました。しかし、会議に出てきたのは同僚と上司と更にその上司で本人は出てこずじまい。その会社に「なぜ本人は出てこない?」と正しても「今日は都合が悪い」と。実質的にその時点で担当替えとなり、リアルで面識がある人が現在は窓口で動いています。

本物と偽物の話となるともはやスパイのテクニックのような話になってしまいます。今後、急速に生成AIでの動画が簡単に作成されるとなると動画を信じてよいのか、判断に苦しむことになり、下手をすれば大手メディアすら騙される公算が高くなります。つまり、溢れんばかりの情報から「特ダネ頂き!」が実はとんでもないガセネタで、犯人からすればそれを名のあるメディアが報じてくれればその情報があたかも信頼性あるものになるわけです。メディアを対象にしたフェイクニュースを作るのがターゲットになりやすいでしょう。

我々一般人もどこにどんなウソが潜んでいるかわからない、そしてそれに怯える時が来るのかもしれません。お前ならどうするか、と言われた時、たぶん、身の回りや会社の仕事については極力、リアルの接点を増やすことで騙されにくくするしかないと考えています。つまり、時代と全く逆行です。世の中、便利、効率化が一本調子で進むわけもないと考えれば少なくとも私ぐらいの年齢層の方にすれば面倒だとは思わないでしょう。むしろ、20代30代の方々には試練になるかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年12月15日の記事より転載させていただきました。