クズネッツの「世界の4つの国」:日本がアルゼンチン化しないためには?

少し前の日経のコラム「大機小機」に長らく忘却の彼方にあった懐かしい言葉があり、ふと気になりました。それはノーベル賞経済学者のサイモン・クズネッツ氏が1960年代にジョーク交じりに述べた「世界には4つの国がある、先進国と途上国、そして日本とアルゼンチンだ」です。

サイモン・クズネッツ氏 Wikipediaより

1960年代の日本と言えば高度成長期の真っただ中、その後、日本の奇跡ともいわれ、戦後の荒廃から瞬く間に世界をリードする経済力とリーダーシップを取り戻しました。世界の目はなぜ日本がこれほどまでに急速な成長をしたのか興味津々で様々な研究文献や書籍が出たのはご承知の通りです。

一方のアルゼンチン。南米のパリと言われたブエノスアイレスは芸術的な街であり、人々の表情は屈託がなく、経済破綻を9回もした国だとは思えません。私は先週、東京でブエノスアイレスの人と会いましたし、別のアルゼンチンの方が私のアパートに入居していることもあり、よくメールでもやり取りするのですが、お国の混乱ぶりなどおくびにも出しません。私がブエノスアイレスに行ったのはずいぶん前ですが、高級住宅街に品の良い奥様方が犬を散歩させて歩いている姿を見て「ここは本当に南米なのだろうか?」と目を疑ったぐらいです。お隣のブラジルの高級住宅街はセキュリティ重視でいかつい感じがして、欧州のパリやブラッセルの住宅街とも見間違うようなブエノスアイレスの落ち着いた光景はあまり無かったと記憶しています。

バブル崩壊後、日本ではネガティブトーンの記事が増え、当然ながらこのままでは日本もアルゼンチンのようになる、と危惧する声が聞こえてきていたのは言うまでもなく、私も時々それに触れたりしてきました。

クズネッツ氏がいう「4つの国」を1960年代という時点で仕切って論じれば基本は先進国と途上国しかなかったと私は思っています。では日本とアルゼンチンは何なのか、といえば日本は上に、アルゼンチンは下に向かった例外的な振れ幅だった、ということかと思います。そして、先進国と途上国をチームAとBに分けた場合、入れ替え戦ぐらいの感じではなかったのか、と考えています。言い換えれば国家は通常、そこまで急変しないということなのです。

そうはいっても国家も企業も人間もそれなりに栄枯盛衰があるものです。その振れ幅や循環のサイクルは様々でしょうし、国家のサイクルと一人の人間のサイクルの基準も違うでしょう。占いの中には大体13年程度を一つのサイクルにしているものもあると聞いていますが、これは人間のケースで国家や企業に当てはまるかどうかは伺ってみたいところです。

さて、その「大機小機」がそのコラムをどうまとめたかと言えば「地球の裏側アルゼンチンを反面教師とすべきだろう。『世界には3つの国がある。先進国と途上国。そしてアルゼンチンと日本』と言われないためにも。」とあります。ほう! コラムの中身はアルゼンチンのミレイ新大統領の手腕は未知数ながらも選挙公約はハチャメチャ。一方の日本も「かつて世界第2位を誇った経済規模は米ゴールドマン・サックスの長期予測によれば、2075年に第12位になる」という引用を伴い、日本のアルゼンチン化を危惧し、100年間浮上できないアルゼンチン、急降下する日本という皮肉であります。

アルゼンチン大統領に就任したミレイ氏 同氏インスタグラムより

1、2か月前のブログに書いたと思いますが、日本の高度成長はアジアの萌芽を先取りしたことが大きかったと考えています。欧米が不得手な改善、改革、低価格、高品質のポテンシャルはアジア全般に持ち合わせている強みですが、たまたま日本がその先行者であり、先行者利益を得られたことは大きかったのです。故に韓国や中国が追い付いてくると日本の強さは色あせ、更に東南アジア勢が今後、加速度的に迫ってくるのです。これは避けられないでしょう。

その点では欧州のギリシャやイタリア化すると言った方がよいのかもしれません。特にイタリアと日本は似ているところが沢山あります。観光、美食、ファッション、センス、プライド。もっと言うなら首相がよく変わる点もそうでしょう。

「街は西に進む理論」を当てはめても歴史的に欧州ではギリシャ、イタリアからポルトガル、スペイン、英国と常に西に動いて行きました。アジアでも日本から韓国、中国、インドと西に動いています。

では日本がアルゼンチン化しないためにはどうしたらよいのか、ですが、私はステージをアジアから世界基準に変えるしかないのだろうと思います。つまりRe-Born(生まれ変わる)に近い改革が必要ではないかと思います。それは企業の商品開発力とか経営力ということよりも国家レベルでの変化を推進させるしかないのでしょう。

しかしそのハードルは高いし、それが必ずしも国民を幸せにするかどうかも定かではありません。先ほども触れたようにアルゼンチンは100年も下向きなのに人々は明るいのです。とすればクズネッツが今、生きていたらこんなジョークを飛ばすかもしれませんね。

「世界には2つの国がある。幸福を得たか、幸福をまだつかんでいないか」と。日本もアルゼンチンも幸福なんだろうと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年12月18日の記事より転載させていただきました。