大金を得ることで失うもの

黒坂岳央です。

大金を得ることはすなわち、資本主義というゲームの中での一つの成功の証といえるのではないだろうか。大金があって困ることはない、多くの人はそう思っているし自分もそう思っていた。あちこちのメディアでは「ものを大事にしなくなる」といった「いやいやそうはならないでしょう」と想像で書いたとしか思えない的を外したような記事も多くイマイチしっくり来ない。

筆者は資産数百億円規模の大富豪などではなく、矮小な立場からこのような話をするのは心理的に憚られる部分があるのだが、おそらくこれは正しいのではないかという真理めいた感覚がある。今回はあくまで独断と偏見で少々の蓄財が進んだ(あくまで過去の自分と比べて)ことで失ったものを取り上げたい。

結論、それは「ハングリー精神」である。

bee32/iStock

鉄火場で頑張るのは当たり前

自分は昔大変ハングリーだったと思う。文字通りお金がない。東京で就活をしていた頃は、玄米と大豆でなんとか食いつなぐ生活をしていた。起業直後はサラリーマン給与があったので経済的に困窮はしていなかったが、とにかく自分の力だけで1円でも多く稼ぐ努力をしていた。そのためにはどれだけ非効率な仕事でもウェルカム、今は実績と経験を積み重ねられる時期だと喜んで受けていた。時には完全無料のボランティアのような仕事でも、目先の実績を得るためだけに頑張った単発の仕事もある。

人間は誰しも、追い詰められると本気になる。ハングリーでお腹が減っている時はどんな小さな仕事でも全力でやる。これは動物的で直情的な行動に思われるが、多少効率が悪くても熱意と行動力で開かれるチャンスの扉は少なくないし、そうしたハングリーな姿勢を高く買ってくれる人もいる。実際、そうした人から得たチャンスに何度か乗ったこともある。

人生、鉄火場になると本気になりどんな仕事でも頑張ってやるものなのだ。

慢心ほど人をダメにするものはない

しかし、ある程度余裕を得て「今すぐ本気で頑張らなくてもいい」という感覚が生まれると人は徐々にダメになっていく。慢心、つまり油断してしまう。

追い詰められている感覚のある環境では、ハングリーさは人に強烈な行動力を与える。お腹が減っている苦痛さは、行動して失敗する苦痛を上回るので多少の困難は何も気にならない。だが、今お腹が満腹ならわざわざ失敗するかもしれない行動をしてまで食事をしにいく理由はなくなってしまう。サバンナにいる肉食動物も、満腹になれば眼の前でシマウマの群れが通ってもわざわざ食べるために追いかけることはしないし、受験勉強時期は合格目指して頑張る高校生でも、大学に入るといきなり勉強をしなくなり入学前より学力が落ちてしまったりする。

つまり、ある程度の蓄財が進んだことによる慢心は極めて動物的な本能なのだ。おまけにライオンにとってのシマウマと違い、人間の蓄えた資産は直ちに腐敗することはない。否、優良な資産は時間の経過でむしろ価値は高まる。この事実が余計に人から必死さを奪い取る。そして時間の経過とともに後発のより優秀でハングリーなビジネスマンに追い抜かれてしまう運命にあるのだ。

大金を得ることで失う最大の資産、それはハングリー精神なのだ。

慢心を防ぐ2つの方法

個人的に慢心を防ぐための方法として、「継続的に危機感をインプットする」ということをやっている。どういうことか?おすすめは先端のテクノロジーに触れたり、海外を見るということがいい。

たとえばChatGPTを始めとしたAIに触れると便利な半面、漠然とした恐怖を感じた人も少なくないはずだ。自分はすぐ課金してChatGPT4を使ってきたが、「これは成果物や付加価値によほど高い属人性を持たせないと、あらゆるビジネスがあっという間にコモディティ化してオワコンになる」と実感した。事務職の単純作業や繰り返し作業はまさしくまもなく消えるだろう。感情労働の筆頭であるコールセンターは「まだまだ先の話」だと思っていたが、特に物流業界においてすでに我が国でも高性能なAIが応答を代替している。心から驚くほど高い精度である。

またビジネスを参考にする上で自分は意識的に海外の洋書、YouTube動画などを見るようにしているが、成果物の質だけでなく合理的な思考や付加価値の考え方などは非常に参考になることが多い。それだけでなく、ビジネスへのコミットメントが異常なほど高い熱量を感じることも多く、「これはうかうかしているとやばい」と危機感を覚える。のんびりと生ぬるい温泉に浸かっている場合ではないと感じる。

特に恐ろしいのが中国人、韓国人ビジネスマンから感じる熱量である。彼らの一部は悪く言えば強欲なのだが、その強欲こそがとてつもない行動力を作り出している。ライバルが激しく、グローバル競争を意識した彼らのビジネス意識の高さに大いに刺激をもらうことが多い。今の時代、必ずしも仕事をする上で肉体を海外に持っていく必要はないが、インターネット空間を通じて意識を激しい競争の現場に晒すことで「これは慢心している場合ではない!」という危機感を常に意識することができるだろう。

たとえばYouTubeの世界を見ても、最近はAI翻訳、AI音声の向上で海外の英語圏でヒットした動画を日本語にして「輸入するチャンネル」も増えている。内容の多くは世界の政治や経済ニュースなどだ。ちょっと前までは不自然でおかしな日本語で、とても長時間の視聴に耐えるものではなかった。しかし、最近はプロのナレーション収録と見まごうほどのクオリティのものも出ており、大変な危機感を覚える。うかうかしていると日本語をまったく知らない、でもAIが得意な外国人に日本市場を奪われてしまうような切迫感を覚えるほどだ。AIの進化でこれまでのように「日本語の壁」はもうないのである。ちょっと蓄財が進んだ程度でのんびりしているとすべてを奪い取られる、くらい大げさに考えて日々努力を意識したい。

 

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