三つ巴の台湾総統選 :「永久政権」はあり得ない(丹羽 文生)

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理事・拓殖大学政経学部教授 丹羽 文生

間もなく4年に1度の台湾総統選が行われる。投開票日は1月13日である。総統選には与党の民進党からは副総統の頼清徳、最大野党の国民党からは新北市長の侯友宜、第3政党の台湾民衆党からは前台北市長の柯文哲が出馬している。

1996年3月、李登輝政権下において、直接民選が導入されて以来、8回目の総統選である。これまでの7回の選挙では、民進党候補が4回、国民党候補が3回勝利し、2大政党でトップの座を分け合ってきた。憲法上の任期制限で3選禁止のため、現職総統の蔡英文は立候補できず、総統選後の5月に任期満了を迎える。

総統選の最大のポイントは、中国との距離感である。頼清徳は台湾独立派と見做されてはいるものの、彼は、台湾は「主権国家」であって今さら独立を唱える必要はないというスタンスに立つ。即ち蔡英文と同じく「現状維持」を基本としている。

侯友宜も「現状維持」である。対中融和派の国民党ではあるが、親中色は薄く「民進党不満分子の受け皿」になると言われている。

柯文哲は、もともと「中華民国」から「台湾共和国」に名称変更すべきと主張するほどの台湾独立派だったが、一転、台北市長の在任中に親中路線に舵を切った。彼は自らの立場を「友中・親美・靠日」(ゆうちゅう・しんび・こうにち)と表現する。「中国との友好関係を保ち、アメリカに親近感を持って接し、日本にも寄り添う」という意味である。「国民党は中国に従順で戦いを恐れ、民進党は中国と交流せず戦いを求めている」と批判し「民衆党は戦いを恐れず、戦いを求めない」として差別化を図る。今一つピンと来ないが、要は是々非々で中国と向き合うものである。

現段階では頼清徳が首位を走り、侯友宜と柯文哲が追う展開となっている。しかし、過去の総統選を振り返ってみると大どんでん返しの連発だった。

今から20年前、現職総統の陳水扁2期目の総統選投開票日前日、遊説中の陳水扁が銃で撃たれ負傷するという事件が起こった。それまでは国民党の連戦がリードしていたのが、この銃撃事件で一気に陳水扁に同情票が流れて、僅差の得票で再選を果たした。

前回の総統選でも当初は蔡英文の再選に黄色信号が灯っていた。年金制度改革などの内政の混乱が響き「任期1期限りで政権の座を降りる台湾初の総統になる」と囁かれていた。ところが、香港で起こった反中デモが追い風となり、過去最多得票で2期目の当選を勝ち取った。台湾の選挙は最後の最後で何が起こるか分からない。

ただ言えることは、民進党政権であろうが、国民党政権であろうが、はたまた民衆党政権であろうが、民主社会においては、どこぞの国のような「永久政権」はあり得ないということである。失政を犯せば、有権者の鉄槌を喰らい、必ず政権交代が起こる。誰が勝っても台湾の有権者が選んだリーダーに敬意を払い、「基本的価値を共有する極めて重要なパートナーで大切な友人」として、台湾の行く末を見守っていこうではないか。

丹羽 文生(にわ ふみお)
1979(昭和54)年、石川県生まれ。東海大学大学院政治学研究科博士課程後期単位取得満期退学。博士(安全保障)。拓殖大学海外事情研究所助教、准教授を経て、2020(令和2)年から教授。この間、東北福祉大学、青山学院大学、高崎経済大学等で非常勤講師を務める。現在、拓殖大学政経学部教授、JFSS理事、岐阜女子大学特別客員教授。
著書に『評伝 大野伴睦:自民党を作った大衆政治家』(並木書房)、『「日中問題」という「国内問題」戦後日本外交と中国・台湾』(一藝社)、『日中国交正常化と台湾:焦燥と苦悶の政治決断』(北樹出版)、等多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年12月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。