「上位3社が消失」脱毛サロン業界の異常

関谷 信之

「脱毛」に興味が無い方でも、以下のうち1つくらい覚えがあるのでは。

  • 渡辺直美、板野友美がCMに出演した「KIREIMO(キレイモ)」
    (株式会社ヴィエリス)
  • 筧美和子がイメージキャラクターの「シースリー」
    (株式会社ビューティースリー)
  • 川栄李奈、加藤諒、山本 舞香、小関 裕太がCM出演した「銀座カラー」
    (株式会社エム・シーネットワークスジャパン)

2021~22年の「顧客満足度の高い脱毛サロン」上位3社である(※)。
※21~22年オリコン調査

オリコン株式会社 プレスリリースより

だが、現在3社とも脱毛サロンを営んでいない。

ヴィエリス(KIREIMO)は、従業員給与未払いや返金トラブルなど経営不振が相次ぎ、22年10月に事業譲渡。ビューティースリー(シースリー)は23年9月に破産。そして、エム・シーネットワークスジャパン(銀座カラー)は、今月(23年12月)15日に破産手続きを開始している。同社の負債額は58億円、債権者(利用者)はおよそ10万人、脱毛サロンでは過去最大規模だ。

知名度の高い脱毛サロンが立て続けに倒産、あるいは経営不振に陥ったため、顧客は最後までサービスを受けられず、解約返金も「遅延」する事態が頻発している。

競争が激化した。コロナにより休業せざるを得なかった。そのような外部要因もある。だが、最も大きな要因は「経営者の甘さ」だ。そして、経営者を甘やかしているのが「前払い制度」――企業からすると「前受金」――である。

支払の原資は「前受金」

「全身脱毛 通い放題プラン」の顧客を1人獲得すれば、「とりあえず」40万円手に入る。この金を「何」に使うか。この顧客にサービスを提供するため? それとも、他の顧客を獲得するため? 「銀座カラー」は後者と考えたようだ。

東京商工リサーチの調査によると、銀座カラーは、21年4月に「債務超過」に陥っている。また、借入(銀行借入等の有利子負債)はほとんどなく、22年4月期末はゼロだったという。つまり

「自己資本もなく、銀行借入もない」。

では、「何」で費用を支払ってきたのか。前受金である。

22年度4月末時点の銀座カラーの「前受金」は約70億円とされる。これは、負債額91億円の8割弱に相当する。この「豊富」な前受金で、運転資金はもちろん、高額な広告宣伝費や出店費用を賄っていたのではないか、と推測できる。

株式会社エム・シーネットワークスジャパン
プレスリリースより

銀座カラーのCMの出演者は著名タレントばかり。19年には「川栄李奈」「加藤諒」、20年には「山本舞香」「小関裕太」を起用している。役員報酬も高額だ。帝国データバンクによると、22年4月期には3億8820万円、23年4月期には2億6940万円が支払われたという。

言うまでもないことだが、「前受金」(顧客からすると前払い金)は負債である。顧客に、役務を提供してはじめて「収益」(売上)となる。家賃や光熱費、施術者の人件費など。これから発生するコストを支払うためのお金。本来「プール」しておくべき原資だ。

前受金が無くなると、既存顧客へのサービスの提供コストは、新規顧客から受け取った「前受金」で捻出することになる。新規顧客を獲得し続けなければ、経営が立ち行かない。売上が増加から減少に転じたときが、経営悪化の始まりだ。銀座カラーは20年4月期に125.6億円を売り上げたが、翌年100億円にダウンして以降、赤字に陥っている。

手元に「現金」があることが、経営者を油断させる。これは、美容業界に限らない。塾や社会人向け学校なども同様に油断が生じやすい。

旧NOVAの失策

たとえば、英会話学校の(旧)NOVAだ(運営 株式会社ノヴァ。現在のNOVAとは運営母体が異なる。以下「旧NOVA」とする)。最長で3年のレッスン料を前受けし、抱えた債務は430億円。損害を与えた顧客は30万人に上る。その社是は、

「利益はすべて投資にまわし、常に前進していくべし」

というものだった。

前払いされたレッスン料を、新規出店や派手なテレビCMなどに流用する。結果、テキスト作成や講師料などの原資が不足し、現金を増やすため、強引に集客し……最終的には、07年に旧NOVAは破産、12年に経営者(当時)猿橋望氏の横領罪実刑判決が確定している。

新NOVAの対策

現在、英会話教室NOVA(以下 新NOVA)は、NOVAホールディングス株式会社が引き継いでいる。

新NOVA経営者の稲吉正樹氏は、料金体系を大きく変えた。前払い制度をやめ、月謝制に切り替えたのだ。「いつでも退会できる」という安心感を重視したという。

月謝制をカモフラージュする

ところが、脱毛サロンでは、その安心感を「利用」するかのような広告が目立つ。

「月々〇,〇〇〇円」

サブスクリプション(月謝)のように見えるが、実体は高額プランの分割払い額だ。解約しようとしても解約料金が十数万円かかる、施術が終わっても月々の支払が数年続く、などのケースもあるという。

NOVAのように、企業による「自浄作用」はあまり期待できそうにない。

法制面の対策が必要

脱毛サロンのトラブルは増加傾向にある。

20年まで3,000件程度で横ばいだった相談件数は、翌年は4,117件、22年には19,114件と、わずか3年で「6倍」以上に。年間(22年4月~23年3月)の倒産件数は約7件。これも2000年度以降過去最多となっている。業界任せではなく、法制面で対策する必要があるだろう。

具体的には、倒産後の救済策として、旅行業界のような「供託」制度を導入すること。倒産前の予防策として「決算公告」制度を徹底すること、の二つが考えられる。

「供託」(営業保証供託)は、事前に「営業保証金」を供託所に預け入れる制度だ。企業が破産などで債務不履行に陥った場合、営業保証金から顧客に返金がなされる。

「決算公告」は、非上場企業に義務付けられている決算値の公開制度だ。義務付けられているにもかかわらず、ほとんどの企業が実施していない。罰則(100万円以下の過料)が、適用されたことがないからだ。そのため、企業の経営状況が不透明となっている。

透明性が高ければ、アラートを外部から発することもできるし、経営者の甘えを防ぐことにもつながる。

一般消費者向け事業(BtoC)を営む企業の破産の被害は甚大となる。「供託」制度の構築と、「決算公告」の罰則徹底は、ぜひ行っていただきたい。

キャッチコピーの皮肉

銀座カラーのCMキャッチコピーに以下のようなものがある。

「サロン選びにご用心」
「ミスチョイスより質チョイス!」

銀座カラー自体が「ミスチョイス」。なんとも皮肉な倒産劇となった。

株式会社エム・シーネットワークスジャパン プレスリリースより
(CMキャラクター:サロン・ド・ミスチョイス)

頻繁に流れるテレビCM。過剰なサービスを謳う広告文。わかりにくい料金体系。当面、消費者自身が、危険な兆候に目を凝らし「サロン選びに用心」するしかないのかもしれない。

【参考】