ユダヤ人のイスラエル移住の動向

イスラエルのオフィル・ソファー移民相(アリーヤ・社会統合相)によると、パレスチナ自治区のガザを実効支配するイスラム過激テロ組織ハマスが10月7日、イスラエル領土内に侵入し、1200人余りのユダヤ人を虐殺して以来、報復攻撃を開始したイスラエル軍とハマスとの間で戦闘が展開しているが、ガザ戦闘の中、10月7日以来、2662人のユダヤ人がイスラエルに移住したという。イスラエルのメディアが26日、報じた。

イスラエルのオフィル・ソファー・移民相(イスラエル移民・社会統合省公式サイトから)

移住者の大半はロシアからのユダヤ人でその数は1635人、そのほか、米国218人、ウクライナ128人、フランス116人だった。ソファー移民相は、「今後、イスラエルへの移住を希望するユダヤ人が劇的に増加することが予想されるため、受け入れの準備を進めている」という。ユダヤ人のイスラエル移住の主な理由は、世界的な反ユダヤ主義の高まりと、イスラエルへの連帯感の現れと解釈されている。

ただし、前年と比較すると、移民数は減少している。2022年の移民数は1万6400人だった。大半はウクライナに住んでいたユダヤ人だ。メディア報道によると、減少の原因は飛行機の乗り継ぎ便が欠航になったことと、イスラエル国内の政治紛争だという。ガザ戦闘が勃発する前から、ネタニヤフ政権が推進する司法改革案に抗議する大規模な国民抗議デモが何カ月も続き、イスラエル国内は分裂していた。しかし、移民団体によると、「戦争が終われば移民者の数は再び増加するだろう。欧米各地で広がる反ユダヤ主義への懸念は大きいからだ」と予想している。

ディアスポラと呼ばれるユダヤ人は世界各地を転々と彷徨ってきた。イスラエルが1948年、国家を建設すると世界からユダヤ人がイスラエルに移住していった歴史はまだ新しい。イスラエルが建国した結果、そこに住んでいた約70万人のパレスチナ人が難民として中東各地に移り住んでいった。同時期、イスラエルの建国に反対する中東のアラブ諸国ではユダヤ人への迫害が高まり、中東各地で住んでいたユダヤ人約80万人が難民となった。彼らは最終的には新しく建国されたイスラエルに移住していった。

具体的には、モロッコには1948年まで約26万5000人のユダヤ人が住んでいたが、2018年の段階で2150人に激減した。イラクでは13万5000人から10人以下に。エジプトでは7万5000人が2018年には100人になっている。イエメンでも6万3000人から50人以下に。リビアでも3万8000人が現在ほぼゼロだ。チュニジア、シリア、レバノンでも同様だ。パレスチナ難民の動向がメディアで大きく報道されたが、同じ時期、ユダヤ難民が生まれていたわけだ。

住んでいた国で政治異変や戦争が起きる度に、ユダヤ人はスケープゴートで迫害されてきた。ロシアとウクライナ戦争をみてもそうだ。ロシアに住むユダヤ人は差し迫る反ユダヤ主義の高まりを恐れ、早々とイスラエルに移住していった。同時に、ウクライナに住んでいたユダヤ人もロシア軍の侵攻を受け、イスラエルに移住していく人が増えているわけだ。

英日刊紙ガーディアン(2022年12月20日オンライン版)とのインタビューで、ロシアを追放されたユダヤ教指導者ピンチャス・ゴールドシュミット元首席ラビ(Pinchas Goldschmidt)はユダヤ人にロシアを去るように忠告している(「ロシアのユダヤ人は脱出すべきだ」2023年1月4日参考)。

ロシアのユダヤ人は、過去100年間で数万人が移住した。移住先は最初はヨーロッパとアメリカ、最近ではイスラエルという。1926年の国勢調査によると、267万2000人のユダヤ人が当時のソビエト連邦に居住し、そのうち59%がウクライナに住んでいた。今日、総人口1億4500万人のうち、ロシアに住むユダヤ人は約16万5000人に過ぎない。

ゴールドシュミット師は、「ロシアのユダヤ人は不確かな未来に直面している。一方、長い間、ユダヤ人の聖域と受け取られてきた米国でも反ユダヤ主義が台頭している」と指摘し、反ユダヤ主義の台頭は世界的な現象だと警告を発している。アラブ・イスラム国家で反ユダヤ主義的言動が発生、ベルリンではシナゴークが放火され、ウィーンではイスラエル文化協会に掲げられていたイスラエル国旗が引き落とされるなどの事件が起きている。

一方、ウクライナでは過去、1800年代後半のポグロム(破壊)から第2次世界大戦中のナチスによる虐殺まで、反ユダヤ主義の長い歴史がある。これらの中で最も悪名高いのは、1941年にキエフのバービーヤルでの3万3000人のユダヤ人虐殺だ。ウクライナの歴史を考えると、ユダヤ人であることを秘密にしなかったゼレンスキー氏が70%以上の支持を得てウクライナ大統領になったことは注目に値するという。

イスラエル軍のガザ攻撃が続き、パレスチナ住民の犠牲が更に増えていけば、世界各地でイスラエル批判の声がより高まるだろう。その結果、反ユダヤ主義を恐れたユダヤ人がイスラエルに移住するケースが増えることは必至だ。

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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年12月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。