1. 金融保険業の平均時給
前回は情報通信業の平均時給(労働時間あたり雇用者報酬)について国際比較して見ました。
日本の国内産業では情報通信業の給与水準は非常に高い事がわかりましたが、国際比較してみるとそれでもかなり低いという事がわかります。
むしろ、全産業平均値がOECD19位だったのに対して、情報通信業は25位と大きく順位を落としているようです。
エリート産業程むしろ稼げておらず、産業間の格差が小さいという日本の特徴が見えてきそうです。
今回は情報通信業と並ぶエリート産業である金融保険業の平均時給について国際比較してみたいと思います。
図1は日本の産業別の労働時間あたり雇用者報酬です。
金融保険業(黄)は情報通信業と共にかなり高い給与水準であることがわかります。
2000年ころからやや減少しましたが、2012年ころからまた上昇傾向に転じています。
どちらかと言えば情報通信業よりも水準が高いようで、近年では1時間あたり4,000円に達しています。
2. 金融保険業とは何なのか?
OECDの産業区分では、金融保険業はK Financial and insurance activitiesと表記されます。
ここでは国際標準産業分類における項目との対応をご紹介します。
なお、日本語表記は下記サイトを参照しています。
国際連合 Classification on economic statistics ISIC rev4 Jp
OECD 産業区分 | ISIC REV4 大分類 | ISIC REV4 中分類 |
---|---|---|
K 金融保険業 Financial and insurance activities |
K 金融・保険業 Financial and insurance activities |
64 金融サービス業 (保険・年金基金業を除く) 65 保険・再保険・年金基金業 (強制社会保険を除く) 66 補助的金融サービス業及び保険業 |
ISIC REV4の産業分類については、下記サイトにもまとめていますのでご参照いただければ幸いです。(参考記事: 国際標準産業分類)
3. 金融保険業の平均時給の推移
それでは、主要先進国における金融保険業の労働時間あたり雇用者報酬の推移を見てみましょう。
図2は金融保険業の労働時間あたり雇用者報酬について、為替レートでドル換算した推移です。
日本(青)は1990年代にドイツと共に高い水準に達し、その後横ばい傾向です。
最近の水準ではドイツやイギリスと大きな差がついています。
金融保険業ではアメリカとイギリスの水準が高いのが特徴的ですね。
日本はすでに 大きく平均値を下回ります。
図3はより生活実感に近い購買力平価でドル換算した推移です。
日本は上昇傾向ではありますが、他の主要先進国とは大きく差が開いているのが良くわかりますね。
日本は他の産業よりも高い水準に達していますが、アメリカやドイツはその2倍程の水準です。
他の産業ではやや低いイタリアやイギリスもフランスと同程度というのが印象的です。
4. 金融保険業の平均時給の国際比較
最後に金融保険業の労働時間あたり雇用者報酬について国際比較してみましょう。
図4が金融保険業の労働時間あたり雇用者報酬について、2021年の水準を比較したグラフです。
日本は39.0ドルで、OECD30か国中24位、G7中最下位で、OECD平均値55.0ドルを大幅に下回ります。
全産業平均値が19位だったことと比べると、国際的な順位はかなり低い事になりますね。
労働時間あたり雇用者報酬 金融保険業
購買力平価換算 2021年 単位:ドル 2021年 30か国中
1位 94.9 ルクセンブルク
3位 83.0 アメリカ
7位 75.2 ドイツ
9位 67.8 イギリス
10位 67.4 フランス
11位 66.0 イタリア
24位 39.0 日本
平均 55.0
金融保険業は日本国内では最も水準の高い産業ですが、国際比較すると最も順位が低いという大変印象的な結果となりました。
特にアメリカとは2倍以上の差があるようです。
この産業ではイギリスとイタリアの水準が高いという特徴も見受けられます。
また、すべての国で金融保険業の水準は全産業の平均値を大きく上回っているのも印象的ですね。
各国で生産性、給与水準の高いエリート産業であることがわかります。
5. 金融保険業の平均時給の特徴
今回は、金融保険業について平均時給に相当する労働時間あたり雇用者報酬についてご紹介しました。
金融保険業は国内産業の中では最も水準の高いエリート産業ですね。
ただし、情報通信業同様に労働者数の少ない産業でもあります。
金融保険業の労働者数シェアを比較すると、どの主要先進国でも2~5%程度で、労働者数の少ない産業であることがわかります。
特に日本は2.4%とドイツと並んで主要先進国では少ない割合ですね。
日本では生産性や給与の高い産業である金融保険業や情報通信業の水準が、比較的低めに抑えられているといった傾向が確認できますね。
よく言えば産業間の給与格差が小さいという事になるかもしれません。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2023年12月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。