ヒマと多忙はどちらの害が大きいか?

黒坂岳央です。

「忙しさの害」については筆者があれこれ言うまでもなく、デメリットを多くの人が認識している。そして忙しい現代社会において「ヒマであれ」という理想を提唱する人は多い。

だが本当にヒマになってみれば分かる。ヒマにも質があり、悪いヒマは間違いなく害は大きい、と。なんなら多忙に負けないくらいの害になり得る。仕事を引退した老人のような究極的なヒマ生活もやった経験がある筆者の視点で取り上げたい。

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ヒマは2種類ある

「ヒマ」という表現だけでは人によって肯定、否定に二分されてしまう。そのため本稿では2種類に分類をしたい。すなわち、本当にやることがないヒマとやりたいことがたくさんあるヒマである。

誰もが想像するのが前者、つまりやることがなくヒマを持て余すイメージだ。夏の長期休暇とか、年末年始に多くの人が直面するヒマがこれだ。誰しも最初の1日、2日目は楽しめる。だが連休もいよいよ佳境に入るとだんだん苦しくなってくる。ヒマだ。めったにないまとまった時間なのに何かやるべきだが、そのやるべきタスクがない。これは大変苦しい。

仕事を引退するとまっさきにテレビの番人になって脳の老化が進行する老人は少なくないが、やることがないのに時間を得ると苦しむことになる。ヒマなので誰かを捕まえて話をしたいが、ヒマ故に長話になるから多忙な相手から疎まれるということになりがちだ。居場所がなく、社会のつながりがないのは辛い。

その一方でやりたいことをたくさん抱えるヒマである。筆者自身もこの立場だ。傍目によく働いているように見られることもあるのだが、一部のタスクを除けばやらないと生きていけないわけではない。でもやりたいことをたくさん抱えて、全部こなそうとすると時間が足りないので優先順位をつけてタスク管理をしながら毎日精力的に処理していくという感じである。自分でかってに忙しい状態になっている、みたいなイメージだ。

良いヒマと悪いヒマ

そしてこの2種類のヒマはそのまま良いヒマと悪いヒマに当てはめることができると思っている。

良いヒマはやりたいタスクを余裕を持って自分のペースでこなせる類のものである。朝早めに目が覚めてしまっても「まあ日中眠くなれば昼寝すればいいか」とコーヒー飲みながら自分のペースで鼻歌交じりで仕事をする。疲れたら適度に息抜きを入れながらまた働く。これはとてもいいだろう。自分はアイデアが煮詰まったらゲームや映画、漫画を見たり散歩をするがその時にいきなり画期的なアイデアが降臨することは多い。必要な手続きが厳格に決められていないクリエイティブ系の仕事は、本質的にはヒマであることが仕事上有利に働く。

一方で悪いヒマはやりたいこともなく、漫然と時間がすぎる苦痛をじっくり味わうようなヒマである。やることがないから楽しくない。楽しくないからネガティブになる。ネガティブに考えるから被害妄想や他人を嫉妬して苦しむ。いわゆる「大人をヒマにするとろくなことを考えない」という状態だ。

自分は会社員時代、大変ひまな職場に当たってしまったことがあってその時は大変苦しかった。監視の目もなく、同僚も放置されていたのでみんなYahooニュースを読んだりして何もすることなく一日を過ごしていた。エネルギーを持て余した自分にとっては、終電帰宅が当たり前のハードワークな時より遥かに苦しいと感じた。

多忙の価値

多忙は悪、みたいな見方が多いが自分はうまく付き合えばいいと思っている。前述の通り、暇になると人間はろくなことを考えない。老化やその先にある死をもんもんと考えたり、生きる意味とか日本を襲う潜在的災害の恐怖など本当に良くない思考に染め抜かれてしまうこともある。

だが質のいい多忙ならハイになれる。質のいいとはどういうことは?仕事の裁量が任されており、頑張ればなんとかなるギリギリのライン内で忙しいということだ。ダラダラしていたら終わらないので、優先順位をつけてバンバンスピーディーにタスクをこなしていく。夕方には疲労困憊するほど高出力エネルギーだが、なぜか心は晴れ渡るように明るい。頑張ってギリギリ時間内に終えたら「いい仕事ができた」という満足感がある。誰しも忙しい間は他人への嫉妬や将来不安なんて何もないはずだ。

自分が提唱したい理想とは、本質的にはひまな立場で期限のない仕事をするも、主体的にやりたことを数多く抱えて自ら勝手に忙しくなっている状態である。これは楽しい。毎日眠る時には「さあ明日も朝早くから起きてあれとこれをやるぞ!」とワクワクして目を閉じる。常にご機嫌でいられる。

多忙はダメ、ヒマは理想、みたいに言われるが人類の歴史とはすなわちヒマを克服する歴史であることを考えるとヒマはとにかく素晴らしい!などと言えない。個人的には意識的に上手に忙しくして余計なことを考えず、楽しいことだけにうまく付き合っていく生き方をしたいと思う。そのためには多忙とヒマをテクニカルに乗りこなす力が求められるのではないだろうか。

 

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