危機管理の失敗で「高島屋」は崩れたケーキの代名詞になる(中嶋 よしふみ)

シェアーズカフェ

日本橋高島屋

高島屋が販売したクリスマス用の冷凍ケーキがグチャグチャに崩れていた……。

すでに多数のメディアで報じられているが、高島屋の販売した冷凍ケーキが崩れていたとしてクリスマス当日にSNSで大騒ぎとなった。このケーキは高島屋のオンラインストアで販売され、その多くが崩れた状態で届けられた。結果として大炎上の騒動へとつながった。

高島屋は、このトラブルについて12月27日に記者会見を開き、総販売数は2879個、会見の時点で807個が崩れた状態だったと説明した。

高島屋は販売者として全ての責任があること認めて謝罪し、返金や交換の対応を行うことを約束した。一方で、代表取締役専務の横山和久氏が「原因は特定出来なかった、当時と全く同じ環境を再現することはできない、これ以上の調査は困難」と述べて原因の特定を放棄し、これ以上の調査はしないことも明らかにした。

楽しみにしていた購入者にとってはとんでもない話だが、通販のケーキが崩れていただけで健康被害が発生したわけでもない。一つ5400円で売上げは約1500 万円、高島屋にとってはごく小さな話でニュースとしても取るに足りない話……かというと決してそんなことはない。

問題はむしろ大炎上したその後の対応であり、高島屋の危機管理は酷いの一言につきる。この対応により被害はケーキを買った顧客にとどまらず更に拡大している。そこで危機管理とガバナンス、経営陣の意志決定の観点から今回のトラブルを考えてみたい。

謝罪文のタイトルに監修者の名前を入れる謎。

高島屋のケーキが崩れた状態で届いた、そんな話と共に写真をアップロードする人が相次いだのはクリスマスイブの24日だ。

これがネット上で話題になると、高島屋は25日には謝罪文を掲載し、27日に謝罪会見を開いた。

この会見では製造を担当した菓子メーカーのウィンズ・アークと配送を担当したヤマト運輸の両社から、温度管理に問題はなかったと報告があったことも明らかにされた。

一見すると素早い対応に見えるが、高島屋は当初から問題のある対応を繰り返している。筆者も当初SNSでこの炎上を目にしたが、翌25日に謝罪リリースを出したことを知り、さすが高島屋は対応が早いと感心したが、すぐにそれは早とちりであることが分かった。

高島屋オンラインストアに掲載された謝罪文のタイトルは、筆者が見た時点で「【更新】<レ・サンス>ストロベリーフリルショートケーキのお届けに関するお詫びとお知らせ」とあり、ケーキを監修したレストランであるレ・サンスの名前が全面に出ていた※。高島屋の公式サイトにあるリリースも同じタイトルで、まるでケーキが崩れた責任は監修者であるレ・サンスにあるかのような表記だ。

もちろんレ・サンスも売り手側であり顧客に謝罪をする側ではあるものの、この騒動では明らかにとばっちりを受けた立場だ。

高島屋の謝罪会見では全ての責任は高島屋にあると明言しているが、そうであればリリースのタイトルにレ・サンスの名前を出すことは明らかにおかしい。

この時点で筆者は強い違和感を覚えたが、高島屋はその後の会見で更におかしな対応を続ける。既に書いた通りトラブル発生からわずか3日で原因特定の調査打ち切りを宣言したからだ。

※オンラインストアのみ更新され現在は「弊社にて販売した<レ・サンス>ストロベリーフリルショートケーキの破損について」と変更。

レ・サンスのオーナーが「タブー」を口にした理由。

高島屋は謝罪と返金と交換で責任を全て果たしたと考えているのだろう。しかしこの騒動に巻き込まれた製造工場、ヤマト運輸、そして監修をしたレ・サンスにとっては原因が不明のままでは風評被害が発生し、新たな被害者となってしまう。

特に名前を全面に出されたレ・サンスのオーナーは取材に対して以下のように回答している。

「約800件もケーキが破損している。原因が分からないのはおかしい。こんな幕引きでいいのか。買った人たちは納得できない。関係者が主張する通りであれば、あのような異常なつぶれ方はしない」
「うちみたいな店は言われっぱなしではつぶれてしまう。『続けてほしい』と顧客に言われるけど、このままでは来年できるかも分からない」

(ケーキ監修「レ・サンス」シェフ「期待裏切り、眠れない」 高島屋に「幕引きせず原因特定を」産経新聞 2023/12/27)。

レサンスには苦情や問い合わせ、そしてイタズラ電話まで殺到しているという。

通常、ビジネスにおいて取引先の批判はマナー違反であり、ましてやメディアの取材でそれを口にすることはタブーと言ってもいい。それにも関わらずこういった発言をせざるを得ない理由は、コメントにある通り黙っていたらお店が潰れてしまいかねないからだろう。

原因の絞り込みは可能。

ケーキに限らず、食品分野では有名シェフやレストランとのコラボ商品は珍しくない。スーパーに行けばコラボ商品は無数にある。

他分野でも、例えばユニクロと有名デザイナーのコラボレーションは大成功を収めている。

ファブレスと言って自社で工場を持たずに生産をすることも当たり前のように行われている。アップルは工場を持たず、iPhoneがフォックスコンという台湾企業の工場で生産されていることは有名な話だ。こういったやり方はOEM(相手先ブランド製造)と言って製造業ではもはや珍しい話ではない。

コラボやOEMとなれば関わる企業の数も増える。冷凍ケーキもこのような形で作られた事で複数の企業が密接に関係し、配送会社も疑われている。

冷凍ケーキに関わった企業は、高島屋と製造工場、ヤマト運輸、レ・サンスと主に四社だが、一番小さいレ・サンスが一番大きなダメージを受けている。

高島屋による謝罪会見では、原因の特定が困難であるとされたが、ある程度絞り混むことは可能なはずだ。ケーキが顧客に届くまでの工程を大きく分ければ以下の5つになる。

企画、製造、出荷、集荷、配送

この中で真っ先に消えるのは配送だ。各家庭に届ける段階で解けたのなら、冷凍ケーキ以外に他社の商品でも多数の被害報告がなされているはずだが、現状でその様な話はない。高島屋の冷凍ケーキにだけ被害が集中して発生した理由としてまず考えられない。

一つや二つくらいはそういった事例もあったかもしれないが、これだけ多数の被害を説明するには無理がある。あるとすれば配送より前、大量のケーキをヤマト運輸が受け取った「集荷」の段階ならばあり得るかもしれないが、現状では冷凍庫の温度に問題は無いという。

昨年もほぼ同様のケーキが問題なく届いており、なおかつ五年前から販売しているということで企画(監修)に問題があったことも考えられない。レ・サンスのオーナーは味や形に限らず、配送段階で崩れないように実験も厳密に行っていたと言い、取材に対して以下のように答えている。

「配送の問題、崩れないようにできるか全部実験でやっていた。僕が実験で見ている以上では、上から落とさないとああいうふうにはならない」
(崩れたケーキ 監修シェフ“何度も試した” 製造会社「原因不明」 ヤマト運輸は…(日テレNEWS NNN 2023/12/26)

そもそもデコレーションケーキを冷凍して配送するなんて無理があるといった批判も多数あるようだが、それは的はずれということだ。そしてこの話でレ・サンスの企画や監修に問題があって崩れた可能性も消えることになる。

イチゴの入荷遅れが原因? 噂話を蔓延させる高島屋の責任。

各種の報道を見るとイチゴの入荷が遅れてギリギリのタイミングに製造した、結果として冷凍にかける時間が極端に短くなった、これが原因ではないか?とも報じられている。

もちろんこれも推測でしかないが、仮にこれが原因であればイチゴの調達が遅れしまい、配送に耐えられる固さに冷凍することが困難だったにも関わらず事前にキャンセルをしなかった、ということで高島屋の責任になるだろう。

他にもSNSやニュースを見ていると、流通の専門家や工場で働いた経験があるという人から、憶測が多数でており、中にはこれが原因に違いないとバズっている話も複数ある。

例えば「工場で製造した後に、箱詰めして冷凍庫まで運ぶ途中でケーキをひっくり返したしまい、本来なら報告しないといけないのに怒られるのが嫌で報告しなかった人がいたのでは?」といったような話だ。

もっともらしく聞こえるが、800個ものケーキをひっくり返したのか?と考えればこういった個別のミスであることは考えにくい。

年末の冷凍便は大量の荷物で忙しい、どこで解けてもおかしくないと言った指摘も多い。最近では物流がパンク状態であることがたびたび報じられているためそんな風に考えた人も多いだろう。筆者も当初は配送途中で解けたと思い込んでいた。

しかし、これも前述の通り800個も解けて崩れていたのなら他の商品も同様に解けて崩れているはずで、配送段階で解けたことは考えられない。もっと前の段階で大量に解ていて、それが個々の配送段階で崩れた可能性はあるかもしれないが、そうであれば配達したドライバーの責任とは言えない。

このような的はずれな憶測が蔓延する理由は高島屋がこれ以上の調査をしないと断言しているからだ。アレコレと推測をすることはいくらでも可能だが、憶測で犯人扱いされた企業はたまったものではない。

結局は調査をして原因を突き止める必要があり、最低でもどの段階で崩れたのか、あるいは解けたのか、絞り込みをしないかぎり風評被害はやまないということになる。

高島屋は「スカスカおせち」の教訓に学べ

代表権のある専務が早期に謝罪会見をしたということで、高島屋も重大なトラブルであることはある程度認識をしていたのだろう。しかしそれでもまだ甘いと言わざるをえない。

冷凍ケーキ騒動は「スカスカおせち」を彷彿とさせる、そんな指摘も多数目にした。

これは2011年1月に、当時大流行していた共同購入型クーポンを提供する「グルーポン」が起こしたトラブルだ。1万円でおせち料理を販売したところ、実際に届いた商品が見本の写真とあまりにもかけ離れており、量も少なくまるで残飯のような酷い見た目だったことから大炎上した。

このトラブルは共同購入型クーポンのブームを一気に冷え込ませるほどの影響があり、しばらくは毎年正月になるたびにスカスカおせちの話題がぶり返された。

スカスカおせちが多くの人の記憶に強く残った理由は、当然のことながらおせちの写真に強烈なインパクトがあったからだ。そしてもう一つの理由が、正月という毎年行われる季節の大きなイベントに関わるトラブルであり、なおかつそのイベントを最も強く象徴するモノ(おせち料理)だった事で、スカスカおせちは長く語り継がれることになった。

クリスマス当日に崩れたケーキで大炎上、という今回のトラブルはスカスカおせちと全く同じ条件を満たしている。来年以降のクリスマスシーズンには冷凍ケーキの話がぶり返されることは間違いない。

クリスマスではなくても今後は崩れたケーキが、あるいは崩れた食品が「高島屋状態w」などとネットで揶揄される可能性も非常に高い。当然、そのたびに高島屋のブランド価値は毀損される。

高島屋の誤算と勘違い。

高島屋はトラブルの話が長引く事を嫌って謝罪会見を素早く行い、返金・返品の対応、そして原因不明で調査打ち切りと宣言することで幕引きをはかりたかったのかもしれない。

しかし、数日で原因不明とか調査打ち切りなんておかしいと購入者の声が報じられ、監修のレ・サンスまで原因特定をすべきと声をあげるなど、幕引きどころか炎上に燃料を追加した状況だ。

高島屋の経営陣はトラブルの影響がスカスカおせちのように広く長く及ぶことを想像できているのか?と考えると、危機管理の対応として最悪と言わざるを得ない。

今回のケースでは原因を明らかにすることも顧客への謝罪の一環であり、それはとばっちりとも言えるレ・サンスの風評被害をとめることにもつながる。

今後も原因不明のままトラブルを放置するのなら、高島屋に出店しているケーキやスイーツのお店にも影響は出かねない。おそらく多くの企業がこの騒動をイライラしながら見ているだろう。現在は冷凍の宅食弁当が急激に増えているが、今回の騒動はそういった通信販売で冷凍食品を扱う企業にも影響が出かねないほどの大炎上だ。

冷蔵庫と別にストック用の冷凍庫も家にある筆者は、ここ数ヵ月でケーキも含めた多数の冷凍食品をネット通販で購入したが、崩れていた商品は一つもなかった。やはり今回の冷凍ケーキ騒動はあまりに異常と言わざるをえない。このような異常事態を原因不明のままで乗り切れると高島屋の経営陣が考えているのであれば、株主から会社経営を任された立場として無責任の極みだ。

高島屋の「上場企業」としての責任は大きい。

ケーキが崩れた程度でこれだけ騒ぐなんて日本は平和、高島屋が危機管理に失敗したところで当事者以外は関係ない、と考える人は多いかもしれない。しかし実際は大いに関係がある。

東証プライムに上場する高島屋は上場企業として半ば公的な存在であり、株式市場は国内外の年金資産など極めて公的な資金が運用される場所だからだ。

更に、金融緩和の一環で日銀はETFを通じて日本企業の上場株式を約50兆円も保有している。これらの理由から上場企業の言動は日本人にとって決して無関係の話ではないということになる。

筆者が高島屋の株主であれば、なぜ原因の特定をしないのか?それによるマイナスの効果を考えないのか?と確実に苦情を入れると思うが、決して大袈裟でなく上場企業のトラブルは(間接的とはいえ)全ての日本人が株主として関係する。

代表権のある専務が会見で話した以上、企業として正式に原因特定を放棄したことは間違いないが、この決定が企業価値の向上に繋がるとは到底考えられない。百貨店の企業価値はそのブランドにあり、ブランド力がなければどこで買っても同じと顧客に判断されてしまう。

百貨店の「売り物」はブランドである。

筆者の母親は何か贈答品を贈る際には必ず三越で買い物をしていた。

品質への信頼はもちろん、白地に赤い模様の入った三越の包装紙にくるまれたモノをプレゼントすれば絶対に間違いは起きない、受け取った相手も喜んでくれる、安心して受け取ってくれる、と絶大な信頼を寄せていたからだ。これはバラの包装紙の高島屋も全く同じだ。

今回の問題は冷凍ケーキによる1500 万円分の売上げではなく、高島屋のブランド価値が問われる話であり、百貨店の企業価値はブランド力が全てだ。しかもこれだけ大きな話題となり、新聞とテレビでも大きく報じられた事から全世代に冷凍ケーキのトラブルが伝わったことは間違いない。

原因の特定を放棄した高島屋の経営陣は、たかがケーキ、たかが1500 万の売上と勘違いしているのかもしれないが、ブランド力を売り物とする百貨店ビジネスの基礎の基礎を理解していないのではないか。

この決定に納得が出来ない株主は、原因特定の再調査を要求することはもちろん、経営陣がどのような経緯で原因特定を放棄すると判断したのか、意志決定のプロセスが適切だったか調査を要求すべきだろう。これは社会的な責任を負う上場企業のガバナンス(企業統治)に関わる重大な話でもある。

崩れたケーキの評判はSNSで、そしてあらゆるメディアで拡散し、すでに取り返しがつかないほどのダメージを会社に与えており、調査打ちきりで更に追い討ちをかけた経営陣の責任は極めて重い。

人間のやる仕事では必ずミスが起きる。しかしそのリカバリーで失敗したことは言い訳のできないミスである。危機管理の失敗はケーキが解けてグチャグチャになった事より大きな問題であり、経営判断のミスであることは間違いない。

蛇足として、まともな社員と役員がこの決定に反対の声をあげ、早ければ年明け早々にも調査が再開されるであろうことも予想しておく。

中嶋 よしふみ  FP シェアーズカフェ・オンライン編集長
保険を売らず有料相談を提供するFP。共働きの夫婦向けに住宅を中心として保険・投資・家計・年金までトータルでプライベートレッスンを提供中。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。東洋経済・プレジデント・ITmediaビジネスオンライン・日経DUAL等多数のメディアで連載、執筆。新聞/雑誌/テレビ/ラジオ等に出演、取材協力多数。士業・専門家が集うウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインの編集長、ビジネスライティング勉強会の講師を務める。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」
公式サイト https://sharescafe.com
Twitter https://twitter.com/valuefp

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年12月30日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。