今週は1/16~1/19まで上下院とも本会議は開催される予定です。月曜日のみキング牧師の記念日で休会。
現地時間で1月14日(日)夜、ジョンソン下院議長・シューマー上院院内総務・ジェフリーズ下院少数党院内総務・マコネル上院少数党院内総務はつなぎ予算の合意に達したと発表した。
1月19日に期限を迎える予算は3月1日まで、2月2日に期限を迎える予算は3月8日まで延長される見込み。16(火)から上下院で採決してバイデン大統領が署名することになる。
On Tuesday, the Senate will begin the process to pass a clean continuing resolution that will avert a shutdown and give Congress the time it needs to finish our work to fund the government for the rest of the fiscal year.
My statement: pic.twitter.com/Kn8QxQnfEM
— Chuck Schumer (@SenSchumer) January 15, 2024
ジョンソン下院議長は何度か「つなぎ予算を進めるつもりはない」と発言していたものの、今年に入ってから「選択肢として排除していない」と和らげていた。共和党内下院議員からは、つなぎ予算を進めるにしても何らかの譲歩を民主党に迫るべきという声もあった。
しかしながら、交渉に失敗したのか、譲歩したのかは明らかになっていないが、つなぎ予算(Clean CR)だけに上下院は合意したとのことだ。すでにつなぎ予算法案もリリースした注1)。
さらには、共和党内で最も要望が高かった 「Secure the Border Act of 2023」について、ジョンソン下院議長は、
「上院が交渉中の国境・不法移民に関する法案は認めない。あくまで下院がすでに可決した Secure the Border Act of 2023 を支持する」
「トランプ前大統領がホワイトハウスに戻ってくるまで米議会では解決できない」
などと発言してしまった注2)。
ある意味、立法で国境問題を解決することをもはや放棄してしまったといえるので驚きの発言だ。要は行政権限で不法移民の流入をおさえようということだ。
「Secure the Border Act of 2023」 は、国境の壁建設を進めるだけでなく、不法移民の亡命がほぼ不可能になるトランプ政権時代の国境政策を復活させる法案だ。この法案は共和党にとって極めて優先度が高いし、下院議長は国境問題を解決するための予算が先であり、それをウクライナ軍事支援予算と一緒に進める意向を示していた。
ウクライナ軍事支援予算を別で進めない限り、国境法案もウクライナ支援も進まなくなってしまうのだ。
なので、下院共和党から多数の反対が出るだろう。すでに下院共和党フリーダムコーカスは今回の合意に反発している注3)。
では、可決しないのか?というと、民主党ジェフリーズ下院院内総務は民主党下院議員向けのリリースでつなぎ予算を支持する意向をすでに示している注4)。
そのため、下院は民主党議員と共和党から票が入り可決すると思われる。
一方で、ジョンソン下院議長への不満が確実に高まったといえる。
つなぎ予算を進めるにしても、「Secure the Border Act of 2023」を含め何らかの条件を盛り込むことを希望していた共和党議員は多数いた。今回で希望が打ち砕かれたといっていい。
118会期の下院規則では、下院議長は1名の議員からの議長解任動議で投票に持ち込むことができる。たった1名で動議できてしまうので、解任動議をだされる可能性はあるだろう。
ただ、解任動議が可決するかというと、下院民主党次第のところがある。下院共和党が団結するとは考えにくいので、マッカーシー元下院議長と同様に下院民主党議員+数名の共和党下院議員で解任が可能になる。
特に今、マッカーシー下院議長の昨年末引退やスカライズ下院院内総務のがん治療など空席が多い状況なので、3名の下院共和党議員+民主党下院議員全員で下院議長解任が実現してしまう。
それにしても、ジョンソン下院議長の発言には注意が必要だ。
「つなぎ予算を進めるつもりはない」と発言していたのを簡単に覆し、「年度予算を進める以外にコミットしていない」とまで発言した。さらには、超党派交渉経験に乏しいため極めて予測がしづらいタイプだ。
上下院で交渉中の700億ドル規模の税制優遇
ブルームバーグの記事(米経済に想定外のインフレ圧力も、議会が優遇税制措置で合意なら)が話題になっていたので、交渉中の税制内容と進捗をチェックしてみる。
まず、交渉はどの段階かというと、上院財政委員会 Ron Wyden委員長(民主党)と下院歳入委員会 Jason Smith委員長(共和党)が中心となって一部メンバーで交渉している。まだ上下院の委員会での採決まで進んでいない。
ただ、上院財政委員会 Ron Wyden委員長(民主党)と下院歳入委員会 Jason Smith委員長(共和党) は1月11日に暫定合意(The tentative agreement )に達したと Roll Callは報道しているので、一気に進む可能性も残されている注5)。
次に、優遇税制措置で交渉されている内容だ。
話し合いに出てきているものは複数あるが、濃厚なのはこの3つだ。誤解をおそれずにいえば、共和党と民主党でそれぞれ最優先で実現したい優遇措置をもちよったといえるだろう。もちろん他の税制改正の話もでているが、今回は最も取り上げられている3つに絞ることにする。
① 子ども税額控除の拡充維持(Child Tax Credit )
現行では16歳以下の子どもの税控除額は1人あたり最大$2,000。ただし、還付上限額が設定されており、 2024年は最大$1,700と設定されている。 納税額の少ない世帯はすべての税額控除を受け取ることができていない。
これを1年ごとに$100追加し、2025年には$2,000まで引き上げ、所得ゼロ世帯にも恩恵をうけられるような案がでている。
→そもそも2017年に可決したトランプ減税(Tax Cuts and Jobs Act)の時に税控除額が$2,000に上昇し、バイデン政権時の2021年にはThe American Rescue Plan Act により2021年度だけ0-5歳は$3,600、6-17歳は$3,000に引き上げられた。
それだけではない。2021年度は所得ゼロの世帯であっても、納税額にかかわらず税額控除が全額還付された。民主党としては恒久的な税控除を実現させたかったが失敗した。何もしないと2026年から$1,000に減少することになるし、所得が少ない世帯は恩恵を受けることができないままとなる注6)。
② 法人への税制優遇措置の復活(1) ボーナス減価償却
2027年には完全に廃止されるボーナス減価償却を継続させる案(2022年末まではボーナス減価償却は100%だったが、2024年には60%に削減。1年で20%ずつ減少していき2027年には消滅)
③ 法人への税制優遇措置の復活(2)研究開発費の損金算入復活
米国内の研究開発費に対して、発生時点での損金算入復活。
2022年度(2022年1月1日以降に開始した課税年度)以降は、原則5年の定額償却が義務付けられている注7)。
2024年の米国における納税申告開始は、1月29日に設定されている。
Wyden委員長(民主党) は、交渉期限は実質、1月29日より前だと考えているようだ注8)。
そもそもの内容が2017年トランプ減税で実施した法人税制の復活や維持なので共和党からは広く支持がでそうだし、子ども税控除増額は民主党から強く望まれているので多くの票が入りそうだ。しかしながら、年度予算もつなぎ予算を通そうとしている状況で議会が速やかに審議して採決できるかというとかなり微妙なところだろう。まずは 下院歳入委員会で可決するかが重要だろう。
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【参考資料】
注1)CR Act 2024
注2)https://x.com/JakeSherman/status/1746710535104524681?s=20
注3)https://x.com/freedomcaucus/status/1746711133644279913?s=20
注4)https://x.com/AndrewSolender/status/1746711904595202087?s=20
注5)Roll Call | Chief tax writers working to broaden appeal of tentative accord
注6)CRS INSIGHT | The Child Tax Credit: What Lies Ahead?
注7)Bipartisan Policy Center | Congress is Running Out of Time to Fix a Critical R&D Tax Issue in 2023
注8)WSJ | Congress Explores Curbing Pandemic Tax Break in Bid for Last-Ditch Deal