プーチン氏の知られざる“家族構成”

北朝鮮では金正恩総書記の家族の話はタブーだ。労働党幹部も金ファミリーについては緘口令が敷かれている。それを破って外部に漏らすと厳しい刑罰が待っている。ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)で査察官として勤務していた北朝鮮出身査察官と20年前ごろ、久しく会って話す機会があったが、当方が査察関連問題外で金ファミリーについて質問しようとした時、「知らないし、そのような質問をするならば、君とは話はできないよ」と厳しい表情で語ったことを思い出す(「『金ファミリー情報』は最大タブー」2017年2月26日参考)。

プーチン大統領、北朝鮮の崔善姫外相を歓迎(2024年1月16日、クレムリン公式サイトから)

その慣習は今も続いている。金正恩総書記の実妹の金与正労働党副部長や家族構成については外部の米韓情報機関も完全には掌握できないでいる。だから、北朝鮮が2022年11月18日、全米を射程内に置く新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射試験を行った時、金総書記が娘の金主愛(キム・ジュエ)さんを連れて現地視察している写真が公に報じられると、ジュエさんの立場、役割についてなどさまざまな憶測が生まれてきたわけだ。

ちなみに、金総書記は新婚時代、李雪主夫人を連れて頻繁に現地視察をした。金王朝3代目に入って北朝鮮でもファーストレディーの存在が注目されてきた、と西側メディアでは好意的に受け止められたが、暫くした後(長男の誕生後)、ジュエさんが登場するまで、金総書記は家族関連の情報を外部に流すことは少なくなっていった。

そんなことを考えていた時、ロシアのプーチン大統領の元夫人、リュドミラ・アレクサンドロヴナ・オチェレトナヤさん(離婚)との間の娘さんの1人がインタビューに応じたと聞いたので、早速、その記事を探して読んだ。プーチン氏は最初の夫人との間に2人の娘さんがいる。長女はマリア・ボロンツォワさん、次女はカテリーナ・チホノワさんだ。

インタビューに応じたのは長女のマリアさんだ。ニュースサイトAgentstvoreが報じた。38歳のマリアさんはモスクワ市長室傘下の非営利団体メドテック・モチソウとのインタビューで、「ロシアは人間中心の社会です。私にとって、人命の価値は最高の価値です。私は、人々が自分自身を知る機会を得て、お互いをよりよく理解し、より良いコミュニケーションができるようになることを夢見ている」と語っている。父親プーチン大統領が始めたウクライナ戦争によってウクライナ、ロシアの双方で50万人以上が死亡または負傷しているという情報はマリアさんの耳には届いていないのだろうか。

インタビューでは、ウクライナ戦争に関連する質問はない。内分泌学者であるマリアさんは、世界的な医学の進歩と、文学、音楽、スポーツへの興味について語るが、父親プーチン大統領についても何も言及していない。

ちなみに、プーチン大統領は、マリア・ボロンツォワ氏と妹のカテリーナ・チホノワ氏を自分の娘であると公に認めたことはない。ロシアのメディアでも報じられることはほとんどなかった。しかし、2人の娘さんの名前は欧州連合(EU)、英国、米国の制裁リストに載っている。資産は凍結され、入国禁止が実施されている。

マリアさんについては「2019年から遺伝子工学のための国家科学プログラムの連邦評議会のメンバーであり、サンクトペテルブルクの研究クリニックで病原性の脆弱性と治療法の選択肢についてロシアのゲノムを研究する会社Nomekoの共同所有者」という事だけが明らかになっている。プーチン大統領は遺伝子工学を未来の科学だと説明していた(ドイツ民間ニュース専門局ntvの2024年01月12日のウェブサイトから)

次女カテリーナ・チホノワさん(37)は元著名なバレエダンサーのイーゴリ・ゼレンスキー氏とパートナー関係だ。偶然にもその名前はウクライナのゼレンスキー大統領と同名だ。独週刊誌シュピーゲルによれば、カテリーナさんは2019年までドイツのミュンヘンに20回以上訪問していた。目的はミュンヘンに住むゼレンスキー氏と会うためだ。両者の間には1人の子供がいる(カテリーナさんは2013年、ロシアの億万長者キリル・シャマロフ氏と結婚したが、2018年に離婚した)。プーチン氏が2月24日、ウクライナに軍を侵攻させて以来、カテリーナさんはミュンヘンに飛ぶことができなくなった。欧米側の対ロ制裁の結果だ(「プーチン大統領の娘さんの『話』」2022年9月9日参考)。

ところで、独裁者には珍しいことではないが、プーチン氏にも複数の愛人がいるという。西側メディアでもよく知られている愛人としては、元体操選手のアリーナ・カバエワさんだ。プーチン氏との間に双子を含む4人の子供がいる。英紙デイリー・スターによると、プーチン大統領の恋人とされる人物は4人の子供たちとともにスイスの私有山荘に滞在し、毎年850万ユーロを自由に使えるという。そのほか、プーチン大統領は家政婦のスヴェトラーナ・クリボノギフさんとの間に秘密の娘がいる。彼女がモナコに高級アパートと7300万ポンド相当の豪華ヨットを所有していることが明らかになった。投獄されている反体制派活動家のアレクセイ・ナワリヌイ氏は「この国には2000万人の物乞いがいるが、プーチン大統領は恋人のためにヨットを買っている」と批判している。

なお、金正恩総書記はロシアとの関係を強化する狙いもあって、プーチン大統領を平壌に招く計画を進めている。訪問が実現すれば。両者は案外、年齢の差を超えて話が弾むかもしれない。金総書記は年配者のプーチン氏から独裁者としての在り方だけではなく、「愛の外交」についても興味深い話が聞けるかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。