同床異夢だった副業解禁:社員の小遣い稼ぎで終わらせないためには

ここカナダで見られる働き方にはいくつかのパターンが見られます。ごく普通にフルタイム雇用でサラリーで給与をもらう人、フルタイムに近い時間を働くも給与計算は時給ベース、パートタイムで不定の時間だけ働き、他の仕事と掛け持ちをする人、掛け持ちをせず一つのパートタイムだけでイージーゴーイングなライフをする方などです。

案外、副業で頑張っているのが建設業界の方で特に大工仕事、配管工、電気工事などは一般住宅や店舗などのちょっとした修理や改修の高い需要があるため、平日は工事会社の雇われ仕事、週末は自分の会社を通じて工事を個人で請け負うといった感じです。中には平日の仕事が終わった後、一般住宅や店舗の工事をやる猛者もいます。これはこちらの慣習で工事業者の労働時間は午前7時から午後3時が主流なので、午後4時には別の現場で仕事ができる、という流れです。

では彼らはなぜ、そんなに仕事をするのか、と言えば私の知る限りほとんどは収入が目的。特に工事関係者は何時かは独立するという野望を持っている人も多く、早く一人前になるために経験値を積み上げるということもあります。但し、傍で見ているとほぼ休みなく仕事をし続けているわけで精神衛生的にどうなのだろうか、という疑問はあります。

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また、そのような「副業工事請負人」は私の関係するところで時折お見掛けするのですが、工事の質は悪いです。工事は電気や配管といった工種でも必ず他業種との「取り合い」があります。例えば壁に穴をあけて作業をする場合、作業終了後、その石膏ボードの穴を埋め、ペンキをする作業がありますが、それらは別業者がやらざるを得ません。そのアレンジが甘いのです。

ひと様からお金をもらうというのは作業だけではなく、複数の要素を考えなくてはいけません。例えば自分がやった仕事が元でなにか大きなトラブルが発生した場合、それをカバーするのがliability 保険(賠償責任保険)ですが、アルバイト程度だとその保険に入っていないケースもあります。そもそも保険に対する認識が非常に甘い方が多いのです。無保険で車を運転するのが怖いと思うなら無保険で仕事をするのはもっと怖いと思わねばならないのです。そして業務の賠償責任保険は日本では存じ上げませんが、北米では簡単に買えません。なぜなら保険屋から経験値を含めたリスク査定をされるからです。

日本で副業が比較的解禁になったのは5年ぐらい前ぐらいからと思います。企業側は異業種の経験を踏ませることで社員の質の向上を図る、という大義名分でした。一方、社員からすれば小遣い稼ぎであったことは初めからわかっていました。それでも企業が副業を許したのは社会的圧力から企業の副業禁止規定が前近代的とされたからであって、規定改正のこじつけ理由でしかなかったわけです。

そもそも企業が社員に経験値を増やそうとするなら少数精鋭部隊に任せる方がよいのです。しかし、企業は見えないリスクだけは絶対に取りたくない姿勢を貫いています。例えば社長が役員会でリスクを取りながらも攻める戦略決定をするのと一般社員にある程度の判断や権限を委譲するリスクとは全く違います。日本企業が社員管理を重層型で管理監視するのはミスを絶対にさせないためです。チームの上にチームリーダー、その上に課長、部長、本部長、役員、社長とあるのです。あるいは営業所、支店、本社、役員会という切り口もあるでしょう。がんじがらめなのです。

先日、ある上場会社から請求書が来たのですが、インボイス制度に全くのっとっていないエクセルで作ったいかにも部内作成の様式でした。驚きです。全く社員教育が出来ていないし、「あぁ、この会社はこのレベルね」と私から見ればその企業の質が推して知るべし、になってしまうのです。しかし、全社員に「インボイス制度にのっとった請求を作れますか?」と聞けば95%の社員は作れないと思います。興味もないし、自分は関係ないので知る必要すらないからです。

企業が社員の知識の範囲を一点深掘りから広い範囲で取り込む姿勢に変えられるかは副業というより責任感ある仕事を任せられ、アメとムチがしっかりあること、そして賞与を含めた報酬の差をもう少しつけることで奮起させる方が良いと思います。「俺と手抜きばかりで仕事が出来ない同期との月給の差は3000円」というのは平等感を重視する日本らしいですが、出来る人にとってやる気は上がらないと思います。才能は引き出すもので、報酬が上がれば副業なんてする必要は全くないと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年1月26日の記事より転載させていただきました。