ほとんど無意味な恒大集団への法的整理命令

中国不動産業界の最大の癌とも言える恒大集団。その規模は中国280都市で手持ちプロジェクト数1300程度、負債総額は48兆円、破綻した時のリーマンブラザーズの負債総額が63兆円規模とされるので戦々恐々となるのも無理もありません。その上、破綻予備軍の不動産開発会社は他にもごろごろあるわけでそれらをひとまとめにすればリーマンブラザーズの2倍、3倍にもなるわけでとてもではないですが、持ちこたえられないだろう、というのが西側諸国の常識観であります。

wonry/iStock

「西側諸国の」とわざわざ断りを入れたのはルールも思想も全く違う中国に於いてそれをどう処理するかはお上のみが知るところであり、西側の経済ルールなど全く通用しないのであります。また、リーマンショックがとてつもなく大きな衝撃になったのは金融システムの根幹をゆるがしたことでありました。特にMBS(不動産担保証券)の仕組み債にAランクばかりと言いながらそこにCランクも混じっていた純度の悪い債権をつかまされた金融機関が世界中にいたことが引き金でした。

では恒大集団は、と言えば確かに一部の西側諸国の投資家は彼らに投資をしていました。が、そもそも会社の格付けは低かったし、中国リスクは長年指摘されてきたことです。それを承知で投資したわけですからどん欲な投資家が「俺のカネ、返せ!」と言っているだけでそれが西側諸国の金融システムや経済に直接的には影響を受けません。よって恒大がどうなろうが、勝手にしてくれ、ということです。

もちろん、中国の不動産業界の惨状に資源が売れないと嘆く資源国や資源会社はありますが、今まで散々売って儲けてきたのだろう、というしかないのです。中国の現在の住宅の完成在庫数は誰も発表していないので様々な数字から類推するしかないのですが、約5000万戸程度というのが一番信ぴょう性のある数字に見えます。一時期、30億人分(≒10億戸)とかいった無謀な数字を朝日新聞から著名な経済誌までさもありなんと報じていましたが、それは「まゆつばのべき乗」ぐらいの話であります。

仮に完成在庫が5000万戸とします。中国の23年度の売れ行きから類推する販売戸数は年間1000万戸です。つまり在庫として5年分、60カ月というのがかなり妥当な数字だと思います。これは例えば全てのデベロッパーが今住宅建築を止めれば5年で問題は解決するということなのですが、実際に完成在庫がゼロということは起こりえないので3-4年分が過剰にあるということかと思います。こう見るとそんなにひどい数字でもないのです。(カナダでは完成在庫6か月分が判断の分岐点)

中国の不動産問題の始まりは2020年ごろで、恒大集団がヤバいと言われてから既に3年以上の月日が経っています。今回、香港高裁で法的整理命令が出ていますが、知る人が見れば「あっ、そう」以上の何物でもありません。既に恒大の上場子会社の株式の取引は再開されているし、恒大の取引再開もさほど遠くないうちに始まると思います。「え、潰れたんだろう、何言ってんの?」と言われると思います。潰れて上場廃止になるのは西側ルール、香港市場は営業していれば上場を維持し売買することは継続されます。つまり投資家は保護されています。

では香港高裁が出した命令は何か、といえば西側の訴状に「そうですね、法的整理ですね」と裁判所が認めた、それだけです。但し、恒大の90%の資産は中国本土にあるのです。中国共産党が西側ルールに基づいて恒大の持つ資産を清算し、なにがしかのお金を西側投資家に返すという発想はばかげています。習近平氏にとって中国国内の資産をなぜ、西側に売り渡すようなことをすると思いますか?ありえないのです。

では中国共産党はどうするつもりでしょうか?私は以前、不動産事業はバラバラにできるので、それを個別管理して再生させるのがベストと申し上げました。同様の再生プログラムは既にあの海航集団で行っています。同グループは中国がバブルに浮かれていた頃、もっとも華やかな海外投資をしていてた企業の一つでピークにはヒルトンホテルの25%とかドイツ銀行の10%の所有権を持ち、海外不動産も次々買い漁っていました。が、資金繰りが悪化したところで創業者がフランスで「事故死」、一気に実質国有化となり、今でもちゃんと事業をしているのです。

では恒大再生プランですが、個別の不動産を査定したうえで妥当な市場価格で地方政府、たぶん融資平台が物件を買い取り、それを一般向けに分譲ではなくリースないし賃貸します。できれば「rent to own」 という長年賃料を払った人は一定期間後、所有できるようにするのです。これにより分譲住宅を買えない層の中国人マーケットにリーチし、市場の活性化をさせるのです。

こういった工夫あるスキームを直ちに組めば5年程度で手持ち物件は全部処理できるでしょう。他の不動産会社でもそうすればよいはずです。要は知恵なのです。不動産は分譲と賃貸しかいないと思ってしまうのですが、手法はいろいろあるのです。私が「Lease to own」という手法の物件をやっているのもその実験プログラムなのです。中国は人口が減っていると言ってもまだ14億人いるし、ほとんどの人はボロ屋に住んでいるのです。共産主義、共同富裕なのですから、生活レベルをアップさせるという意味からも余っている住宅の活用で中国の不動産事業に光を与えることは可能なはずです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年1月31日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。