昨年の地球の平均気温は観測史上最高だったが、日本では何の被害もなかった。寒さで死ぬ人は暑さで死ぬ人の9倍なので、温暖化で全世界の死者は減った。これを示したのがZhaoらのLancet論文で、世界の死者は温暖化で0.3%減った。これはIPCCも認めている。
図1
北半球では温暖化で死亡率は減る
この調査に対して、それは先進国の話で、熱帯では暑さで死ぬ人のほうが圧倒的に多いという批判もある。また今後についてはZhaoらのシミュレーションでも不確実性が大きく、増えるか減るかはわからない。
これについて経済学者が計算したのが、CarletonらのQJE論文である。ここでは地域ごとの死亡率を予測し、たとえばガーナでは今世紀末までに死亡率が17%が増えるのに対し、ドイツでは15%減る。
これをワシントンポストが、わかりやすくグラフにしている。図2の緑色の部分が死亡率の減る地域、紫色の部分が増える地域である。温暖化によって日本を含む北半球のほとんどの国で死亡率は減るのだ。
しかし熱帯では死亡率が増えるので、地球全体としては、極端な高温(IPCCのRCP8.5)の場合は死者が増えるが、IPCCの中央値(RCP4.5)ではほぼプラスマイナスゼロである。
地球温暖化はグローバルサウスの問題
地球全体の死亡率(RCP4.5)の分布は、図3のようになる。年間平均気温が30℃近いニジェールでは死者は毎年10万人あたり140人増えるが、平均気温が0℃に近いフィンランドでは280人減る(円の大きさは1人あたりGDP)。
このように地球温暖化は熱帯の問題であり、日本が脱炭素化にコストをかける必要はない。ゆるやかな温暖化なら死亡率は減り、北国では積雪がなくなり、北海道はリゾートになるだろう。
必要なのはグローバルサウスの「気候弱者」を開発援助や技術移転で救済することだ。QJE論文も、熱帯のインフラ整備を支援する適応が、脱炭素化による緩和より効率的だと論じている。