25年後に住むところ

少し前ですが、日経が興味深い記事を報じています。「2050年の孫は『家なき子』 住宅、建てるも直すも難しく」というものです。1980年には大工が90万人いたけれど2045年には10万人を切るそうです。となれば、新築住宅は出来ないし、家の修理もままならず、ましてや震災などで住宅の損傷が地域全体に広がった場合、対応のしようがない、というものです。

もちろん、この人数だけを見れば「そうだよな」と思わず納得するのですが、それまでに住宅の工法は大きく変わってくるとみています。我々が普通に見る戸建て住宅は在来工法でつくるので現場で各工種の職人が作業を進めるわけです。建築というのは一種の流れ作業を工場ではなく、現場で行うと考えて頂いてよく、時としてそれがうまく流れないので工期が延びたり、コストがかかったりするわけです。

2045年に大工が10万人しかいないと予想できるなら他業種の人材が住宅を作る流れを生み出すしかありません。個人的にはさほど難しくないと考えています。

ここカナダ。年間移民数が50万人、それに対して住宅供給キャパシティが28万戸程度。どう考えても住宅は不足です。故に価格が確実に上昇していくのですが、カナダ国営のCBCニュースで政府として移民政策と住宅政策の整合性が取れていないのでは、との記事がありました。住むところもないのに移民をそんなに入れてどうするのだ、というわけです。

そこでカナダでもプレハブ(Pre-fabrication)工法が再度注目されてきています。バンクーバー近郊のあるところでは総戸数100戸越えの6階建てのプレハブ住宅が着々と進んでいますが、その工期はなんと6か月。在来工法の1/3から1/4の工期です。

日本ではプレハブといえば大和ハウスのミゼットハウスが有名で「安物」のイメージを植え付けてしまったと思います。ところが今、街中に建つ大和ハウスのプレハブ工法の住宅は決して安くありません。在来より高い感じすらします。私も一度だけ大和ハウスで設計までやったことがあるのですが、住宅のデザインに限界があり、私のレベルでは「貧弱」「上品ではない」という結論に達し、ハウジングマイスターと称する大和のトップクラスの設計士と丁々発止して結局、やめたことがあります。

ただ、カナダのように安い住宅がすぐに欲しいという場合にはプレハブ住宅はアリだと思います。事実、日本の某大手が当地に進出を狙っているはずですが、日本のようには行かないでしょう。なぜならいくらプレハブと言えども現場作業は多く、クオリティのよい作業員、特に配管工と電気工は少ないのです。彼らを抱き込めるかが勝負でしょう。

日本の話に戻します。個人的にはプレハブ、つまり工場制作の作業量を今よりもっと増やし、現場での作業を究極的に減らすことがまず求められます。次に工種が多いのが建築業の特徴ですが、その工種を半分以下にする努力が必要かと思います。例えばペンキ屋と床材/カーペット/天井は同じ会社でできれば作業員がそれらすべての工種を一緒にできる能力を備えることで作業効率は上がります。

東京にいた際、近所でプレハブ3階建ての住宅を作っていました。3つの箱を積み重ねて作るのです。こんなので大丈夫かな、と思ったのですが、出来上がって外装の化粧をしてしまうとパッと見はプレハブの安普請とは見えません。工期は1週間とか10日ぐらいでほぼ完成していました。

今、日本で在来工法で住宅を作れば工期は5-6か月程度だと思います。それを1.5か月に縮めれば職人が仮に10万人しかいなくても実質40万人分の作業ができるということです。こう考えると2050年に住宅が買えないといった問題は避けられるはずです。但し、私の発想は現場作業を工場で究極的に行い、現場では運び込み、取り付け、つなぎ込み、化粧(外装と内装)だけに限定するという発想なのでパタン作業になります。

ところが震災のようにどこで何が起きるかわからない場合にはこの対応が非常に困難になります。今はまだ被災地で「住める、住めない」という議論ができる余地もありますが、今から20数年たつとその議論の余地が無くなるのです。ましてや南海トラフ地震やら首都直下型地震などが起きた場合、住宅事情は崩壊すると考えた方がよいと思います。先日テレビで専門家が南海トラフ地震は2035年前後に確実に起こる、とし、首都直下型地震は明日かもしれないし、しばらく起きないかもしれないし、ということを述べていました。

恐怖をあおるわけではないのですが、地震の備えとはまず、耐震構造の住宅に住むことで命のリスクを最小限にすることが重要です。よく勘違いされる方がいるのですが、耐震構造の家でも地震で壊れます。ただ、能登で多数見られたようなぺしゃこになりにくいので命は助かるというものです。もう一つ、震災の備えとは震災時の備えだけではなく、いざ震災になった時、どうやって速やかに平常な生活に戻すか、これがもっと重要な課題です。このプランが政府にも国民にもありそうでないのです。今までは起きた時に一気に復旧させるという発想ですが、もう少し工夫を凝らす必要はありそうです。

日本の人口が減り、建築関係の職人も減ることは予見できるので企業ベースでは乗り越えるべく対応ができる、だけど、役所ベースでは前例主義なので対応が出来ない、これが大きなネックになる可能性を見て取っています。その点からは皆さんが今お住まいの住宅はしっかりメンテをして多少の地震ぐらいでは大丈夫なような予防措置をするしかないと思います。

では今日はこのぐらいで。

CHUNYIP WONG/iStock


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年2月6日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。