異流を取り込め、企業運営の新しい形

私のように80年代初頭に大学で経済や経営を学び、社会に出て実践をし、バブル崩壊後には「本業回帰」という言葉がもてはやされた経験を積んだ人間にとってこの5-10年の経営のスタイルの変化ぶりに「学問も経営も流行なり」と言わざるを得ない気がしないでもありません。

これも学んだことが全く役立たなくなったという話ではなく、変化しつつある社会を理解することが重要だということです。哲学における「概念」とは知識と思考の組み合わせだとされますが、知識は学問として取り込むものの思考を通じてそれが絶対不変の正解ではないことを悟るのです。

ローソンをKDDIがTOBすることになりました。その報道は驚きもなく淡々としたものであります。なぜなら出来レースだからです。ローソンは三菱商事が50%強の株を持ち、KDDIも2019年にローソンと業務提携をして以降、2%強の株主として君臨していました。一方、三菱商事は2017年にローソンを子会社化するもののその後の業績は下降一辺倒。21年には17年の利益の1/7ぐらいまで減ってしまい、コンビニ3社では最下位となり、天下の三菱商事としては「出来の悪い子供」であったわけです。昨年KDDIに「ローソンに少しテコ入れしてくれないか?」という話を三菱商事から持ち掛け、今回のTOBに至っています。

https://www.lawson.co.jp/

裏話としては実はもう一つ別の会社が絡んでいたようですが、昨年末に突如「撤退」され、しょうがないのでKDDIと二社連合になるようです。三菱商事がKDDIに期待するのはスマホとのリンクなど、テクノロジーとの掛け合わせであろうことは容易に想像できます。

話は脱線しますが、楽天の三木谷社長が「よせばいいのに」という声を無視して第4の携帯会社に驀進し、少しずつですが、アカウント数を増やし、プラチナ周波数も取得し、最大の山場は乗り越えつつあります。三木谷氏が狙ったのは楽天商圏であり、おもちゃ箱をひっくり返したような楽天のビジネス網をひとくくりにするスマホ技術による連携を進めたいのでしょう。三木谷氏の思想は非日本人的で独特の世界観があります。誰もやっていない世界に向けて爆走しているため、世の批判だらけなのですが、結局今回のローソンの話を見ると三菱商事でさえ行き詰まったコンビニ経営にKDDIを取り込むことで打開を図るのは三木谷思想に似ているともいえないでしょうか?

北米で事業を見ていると事業推進方法が二手に分かれる傾向が見て取れます。1つは従前からある専業の深掘りで同業他社を買収し、マーケットシェアを高める戦略。もう一つが異業種や「業際業種」を買収、出資、提携などを通じて自社に取り込むという方式です。「業際業種」についていうと、かつては垂直展開として川上から川下までを自社で全部取り込む方式でした。かつてのシャープにその傾向がありました。電気自動車業界では電池を自社で内製するなど外注を極力減らす形態で事業を伸ばす方式が注目されます。中国BYDはその典型です。一方、テスラは保険会社を取り込むという「水平の業際」まで手を伸ばしています。

私事で申し訳ないのですが、不動産事業、つまり「箱ものビジネス」を生業としているのですが、箱を作りそれをお客様に売るなり貸すなりした場合、市場価値以上の付加価値はありません。例えばアパートを建ててもこの場所でこの広さなら相場はいくらと決まっているわけです。その相場を乗り越えるには付加価値を創造する必要がありました。そこで10年前からシェアハウスをやり6年前からサービスアパートメントをやり、3年前から通常のアパートにある付加価値を乗せる方式を取っています。これは日本の事業で、カナダの事業ではもっと継続的に既存物件に投資をして付加価値の創造をし、いわゆる近隣相場で最高水準でかつ顧客が絶対に離れないビジネスを生み出しています。

それは不動産事業者の枠組みを超える意気込みなのだと思います。基本は日々のオペレーションにどれだけ自分が入り込むかです。マリーナも駐車場もストーレッジ業も全部自社運営しているところに強みがあり、顧客が求めるものを常に先取りするのです。

同じコンビニのニュースが並ぶ中、セブン傘下のイトーヨーカドーについて日経が「窮地」とし、「再出発の『カギ』にぎる創業家」と題した編集委員記事を掲載しています。セブンについては昨年の西武そごう売却でドタバタぶりを見せ、いよいよ次は本丸イトーヨーカドーの処遇であることは誰にでもわかることです。セブンは明白には言わないですが、売りたいのでしょう。ですが、買い手がつかないほど弱体化させてしまったのです。つまり、セブンはコンビニ事業に力を入れるあまり、異流、業際業種を完全放置プレーにして価値を遺棄させたわけです。私から見れば創業家なんて鍵を握っているようには思えません。伊藤家はそんなタイプの家系ではないのです。買いかぶりもいいところだと思います。よってセブンだけを考えれば早急に切り離すべきで、イトーヨーカドーとすればセブンは愛もないし、人材も金も突っ込まないのが目に見えているので古女房にすがらずにさっさと再婚相手を見つけるべきなのです。

時代の風は日々、変わってきています。学問や経験で安住している時代ではないのです。私もふと思うことがあります。あと100年生きられたらもう少し面白いビジネスが出来たのになぁ、と。生まれ変わったら何になりたいか、って。そりゃ、ビジネスマンに決まっています。リベンジです。もっと面白いビジネスをしてみたいと思います。それぐらい楽しいのです、この仕事。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年2月9日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。