1. 購買力平価によるドル換算とは?
前回は、労働生産性の成長度合い(基準年を1.0とした倍率)について、主要先進国の国際比較をしてみました。
日本は名目では停滞傾向ですが、実質では比較的高い成長ということがわかりました。一方で、成長率(倍率)とは、元となる水準によって異なります。
基準年での水準が全く同じであれば、成長率を比較する事でどちらがより豊かになっているのかがわかりますね。
しかし、現実には基準年での水準そのものが異なります。同程度の成長率の場合は、他国ともともと存在していた相対的な差(比率)は縮まりません。
基準年時点で他国の水準よりも低ければ、成長率においては他国以上にならなければその差(比)は縮まらない事になります。
その国が豊かどうかは成長率を見ているだけではわかりませんね。経済水準の低い国ほど成長率が高いのは当然です。成長率と共に水準(絶対値)も合わせて判断する必要がありそうです。
ある経済指標の水準については、共通通貨であるドルに換算して比較するのが一般的です。通常は為替レートによって換算しますが、より生活実感に近い換算方法として購買力平価による換算方法が用いられます。
為替レート換算による労働生産性の比較は、こちらの記事も是非ご一読ください。(参考記事: 生産性が低い日本?)
購買力平価でドル換算するとはどういう意味でしょうか? 購買力平価は、通貨コンバータであるとともに、空間的価格デフレータとも呼ばれます。
どういう事かというと、物価をアメリカ並みに揃えたうえで、数量的な規模をドルという金額で表現して比較するという意味になります。
数量的な規模を比較=実質的という意味において、空間的デフレータと呼ばれるわけです。GDPデフレータ等の物価指数は、1国の経済において時系列的な数量的変化を導き出しますので、時間的デフレータという事です。
購買力平価については、現在詳しく勉強中ですので、いずれ整理してご紹介します。
2. 労働時間あたりGDPの国際比較
実際に、労働時間あたりGDPの購買力平価換算値について国際比較をしてみましょう。
まずは名目の推移です。
図1が主要先進国の労働時間あたりGDP 名目 購買力平価換算の推移です。
日本(青)は、相対的に低い水準が続いていて、特に2014年あたりからの成長が緩やかで他国との差が大きく開いていますね。2000年代からはOECDの平均値を下回るようになっているようです。
韓国との差も随分と縮まっていますね。ドイツとフランスがアメリカと同じくらいの水準というのもとても興味深いところです。また、イタリアもイギリスやカナダと近い水準ですね。
これら主要先進国と比較すると、日本はかなり低い水準であることがわかります。購買力平価換算値では、日本は昔から生産性が低かったという事になります。GDPにおける総合的な経済活動において、数量的な規模が小さいという事ですね。
為替レート換算値では1990年代に高い水準に達します。国際的な金額面での付加価値では非常に高い水準となっていた時期も、数量的には他国を下回る結果という事になります。
図2は2022年の水準を比較したグラフです。
日本は53.2ドルで、OECD36か国中28位、G7最下位でOECD平均値68.7ドルを大きく下回ります。
他のG7各国との差は極めて大きいと言えそうです。
3. 労働時間あたりGDPの実質値
OECDの統計データでは、労働時間あたりGDPの購買力平価換算値について実質値も公表されています。実質成長率ではなく、長期の実質値の比較にはあまり意味はないと思いますが、念のため眺めてみましょう。
図3が労働時間あたりGDPの実質 購買力平価換算の推移です。
これはどういうデータかと言うと、各国の自国通貨ベースの実質値(2015年基準)を、2015年の購買力平価で各年ドル換算したものになります。
2015年の各国の物価を固定し、2015年の購買力平価でドル換算している事になります。2015年で名目の購買力平価換算値と一致します。
日本は実質でもかなり低い水準で推移しています。
図4は実質値の2022年の比較です。
日本は48.0ドルで、OECD36か国中20位、G7中最下位で、OECD平均値54.2ドルを下回ります。
ただし、他の主要先進国との差はかなり縮まっているようにも見えます。
ただし、最新の2022年を基準とした実質値を計算してみる事を想像してみましょう。
2022年の実質値=名目値で、図2の状態となります。
このように、実質値は基準値を変えながら、常に名目値に影響されながら更新されていく事に注意が必要ですね。
4. 労働時間あたりGDPの特徴
今回は各国の労働時間あたりGDPの水準について比較してみました。
各国間の物価を揃えたうえで数量的な規模を金額で表現する購買力平価換算では、日本は他の主要先進国に比べてかなり低い水準が続いていた事になります。
近年ではその差が大きく開いてきていますね。ただし、物価を加味した実質値では同じくらいの成長率で推移しているような状況です。これは前回、名目成長率は低くても、実質成長率では他国と遜色のないレベルである事と符合します。
つまり、実質の生産性の水準としては低いながらも、ある程度相応の成長率は維持していて、比率が開かない程度では成長できているという事が言えそうですね。
逆に言えば、数量的には同じくらいで成長しているが、それを付加価値に結び付けられていない事も窺えます。
今後、様々な面で環境が変化していく事が予想される中、生産性がどのように変化していくのか大変興味深いところですね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年2月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。