「士業」との戦い、その金額払えますか?:目の玉が飛び出る金額の税務相談

私が32年、カナダで仕事をしていてコスト面で最もむかつくのは弁護士代であります。私の32年間の業務に於いて大半の取引業者は何度も変わっているのですが、変わらなかったところが2つだけあります。1つが弁護士、1つが保険の代理店です。あとは全部変わりました。

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保険の代理店が変わらなかったのは理由があり、アンダーライターと私が実質的に繋がっているからです。日本では〇〇海上保険から保険を直接買うこともできますが、カナダでは法律で禁止されています。その為、代理店をかますのですが私の会社の場合には代理店は形だけで実態はアンダーライターと私の接着剤という役目です。理由は保険が特殊であることと長期間の取引で信頼関係があるからです。よってこちらはどちらかと言えば保険料に優しいので構わないと思っています。

一方の弁護士は切るに切れない関係なのです。会社の過去の問題や書類のアーカイブがあることから「忘れたころにやって来る災難」に備えて関係を維持しているわけです。既に20年近く経常的な弁護士への委託業務はなく、必要に応じて業務をお願いするオンコール的な付き合いですが、それでも先日も1行メールを2,3度やり取りしただけで12万円も請求が来ました。

私はカナダに来て3年ほどは法務の業務が主だったのでこの弁護士と密接に仕事をしてきたのですが、当初から「どうせ弁護士も書類を作るのはひな形に手を加えるだけならば自分でもそれをすればよい」と考え、ひたすら弁護士からくるあらゆる法務書類をフォーム化し、自分流に作り直したのです。なので、この20年間、私が弁護士をほぼ使わないのは自分で契約書類を作っているのです。ごく最近も40ページぐらいの契約書を自分で作っています。

私が関係した「士業」の中でもう一つむかついたのが会計士であります。その昔はデロイト、そしてKPMGと依頼先を渡り歩いたのは国際会計が要求されたからです。親会社が日本、業務はカナダとなると双方の税法を照らし合わせる必要があり、それができるのは各国に提携会計士がいる大手会計事務所がベストだったわけです。ところが税務相談にかかる費用たるや目の玉が飛び出る金額です。

そこで自分が独立した際に当時の監査人だったKPMGを切り、日系の小さな会計事務所に移しました。会計費用は3分の1になります。その頃、カナダ大手銀行から莫大なる借入金があったため、決算ごとに会計監査書が要求されました。日系の会計事務所がそれを作成、銀行に提出したところ、担当者から「ひろ、この監査人は誰だ?もっと名の知れた信用のある会社はいないのか?」と言われたのは今でもよく覚えています。いみじくも日経の「監査法人、膨らむ業務と減る報酬 『保証はコスト』の壁」という記事に「我々(=日本の監査法人)はコストなのだと再認識した。第三者による保証料ととらえる米企業と違う(大手パートナー)」とあるのですが、まさにこれなのです。つまり日系の小さな会計事務所では北米スタンダードでは「保証料にならない」ということです。

先述の保険の話で保険代理店を一度も変えたことがないと申し上げました。理由はもう一つあるのです。いざ、事故が起きた時、代理店の能力次第で保険金の支払いなどは大きく変わることもあるのです。私がお付き合いしているのは大手代理店の建設保険部で当然、そこには情報も集まっているし、保険請求も数多く生じているのです。その為にクライアントとアンダーライターをよりスムーズにする仕組みがあるのです。保険料をケチってネット保険とか、街中の小さな保険屋ですと多額の保険クレームの際に対応できないのです。私は過去、2度ほど保険の巨額請求があったのですが、助けられました。

くだんの日経の記事はクライアントと士業側の意思と期待のずれがポイントです。私もずれまくりでした。会計士の話はもう一つあります。日系のその会計士がカナダの中堅会計事務所に合流しました。毎年の会計コストは2倍以上に急上昇します。顧客の私からすると「何が変わったのだ?」であります。一方会計事務所もより細かい社内プロセスを経る必要があり、驚くほど年度決算に時間がかかるのです。私のように9月決算でも2.5カ月かかり、納税に間に合わないときはとりあえず金額を提示され、これを払っておけ、というわけです。これには怒り心頭。結局そこもおさらばし、今のオタク系カナダ人経営の会計事務所に依頼しています。早い、安い、税務アドバイスがうまいの三拍子そろって費用は以前の半分以下です。

大手上場会社が上場を止めたくなる理由の一つはその上場維持コスト。そしてそれは人に見せる数字故に余計なコストをかけざるを得ないとも言えます。それが吸収できるならよいですが、新興企業にとってそれは莫大で経営の足かせにすらなりえるとも言えると思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年2月21日の記事より転載させていただきました。