「国際農業見本市(Salon International de l’Agrilucture)」は、農業大国フランスきっての大規模見本市。パリの見本市会場で、毎年2月末〜3月の9日間にわたって実施される。
農業は、フランスの産業の中核。その技術知識や魅力の披露・伝達・啓蒙を目的に誕生し、フランス人に最も愛される見本市。毎年、パリはもちろんフランス全土からの60万人を超える来場者で賑わう。今年は、六十周年の記念イヤーだ。
7つのホール、総面積217000m2に及ぶ大会場。動物、フランス各地の食品、世界の食品、庭関連、農業技術機器関連などテーマごとにホールが分かれており、最大かつ一番人気は、牛や豚、羊、山羊などの動物ホール。
フランス各地で飼育されるシャロレー種、リムーザン種、オーブラック種、モンベリアール種など、上質な肉や乳を誇る各種の牛たちが勢揃い。豚や羊など他の動物も含め、トータル400種近く4000匹の動物が、この見本市で展示される。
動物ごとに品評会も行われ、品評会会場は常に満員。牛への餌のやり方や毛並みの整え方、羊の毛の刈り方、親豚が仔豚に乳を与える様子、卵からひよこが孵化する様子など、飼育に関するさまざまなシーンも見ることができ、農業への理解が深まる。子供向けの教育的イベントやアトリエも多く、幼少期から、食という国の一大事業に関心を持たせている。
動物ホールに続く人気は、フランス各地のあらゆる美味が揃うフランス特産品ホールだ。各地方、各県、そして個人メーカーが何百ものブースを並べ、ワインやアルコール、ビール、チーズ、ハム類、野菜、シリアル、牡蠣やエビ、水産加工品、果物、菓子、パンなどを試食・販売。牡蠣の殻開け名人の実演、肉屋による塊牛肉の捌き方などのデモンストレーションや料理デモも多種多様。
それぞれの地方の伝統衣装や音楽による演出も盛んで、多くの地方が自慢の郷土料理を振る舞う簡易レストランを設置し、連日長蛇の列。このホールをひと回るするだけでフランス一週旅行気分を味わえる。
動物同様に、ワインやチーズ、ジャム、蜂蜜などの品評会も開催される。フランス本土のみならずカリブ海やアフリカに点在するフランス海外県・領土(グアドループやレユニオンなど)のコーナーも大盛況。さらに、カナダやオーストラリア、日本や中国、タイ、モロッコなど世界各国もブースを構え、特産品の紹介を実施する。
毎年初日の朝に大統領による開会宣言が行われ、大統領が会場を回る政治的なイベントの一面も持つ「国際農業サロン」。今年は、農業の危機的状況に不満を持つ農業従事者たちが大規模抗議デモを行い、開場が数時間遅れる事態に。現場で、マクロン大統領と長時間にわたる直接対談が行われた。
大統領や首相ら国のトップの訪問に続き、各地方の知事や県議、市議らも、連日地元ブースを訪問。政治家による公式訪問は100を超え、農業と国政や地政との深い関係性も見られる。
巨大動物園でありフランスの美食即売会である楽しいイベントである一方、社会や政治的に深い意義も持つ「国際農業見本市」。さまざまな観点から、フランスの”今”を感じられる。
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Salon International de l’Agriculture