2024年は「スーパー選挙イヤー」だ。政治家の動きが活発化している。欧州では6月、欧州議会選挙が実施されることもあって、国を超えた政党間の話し合いも水面下で行われている。その一つ、フランスの右翼ポピュリスト政党「国民連合」(Rassemblement National=RN)のマリーヌ・ルペン女史(国民議会議員会長)とドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のアリス・ワイデル共同党首が2月初め、パリで会合している。
欧州の代表的右翼過激派政党の代表、それも女性同士の会合ということでさぞかし華やかな雰囲気の中で話し合われただろうと想像するが、実際はかなり突っ込んだ話し合いが持たれたという。それだけではない。欧州の政界では先輩格のルペン氏(55)はワイデル党首(45)に宿題を出し、ワイデル党首は近日中にその返答を書簡で送ると約束したというのだ。
ルベン女史が出した宿題は「AfDが考えている移民について説明してほしい」、もう少し具体的にいうと、「Remigration」(再移民、集団国外追放)の概念について」というものだった。ルペン氏はワイデル党首に、「納得できなければ、欧州議会での会派としての連携を停止する」と脅迫したというのだ。ベルリンに戻ったワイデル党首はAfDの移民についての政策を説明した書簡を早速パリに送った。
フランスは欧州最大のイスラム・コミュニティがある。欧州一の移民国家だ。だから、ルペン氏が隣国のAfDが移民政策をどのように捉えているかを理解しておく必要があったわけだ。特に、昨年11月のポツダムでの右派政党関係者の会合内容がメディアに報道されて以来、ルペン氏はAfDに距離を置き出していた矢先だった。
このコラム欄で数回、ポツダム会合については報じてきた。ブランデンブルク州の州都ポツダム市(人口約18万人)で昨年11月25日、AfDの政治家や欧州の極右活動家のほか、「キリスト教民主同盟」(CDU)や保守的な「価値同盟」の関係者が参加し、オーストリアの最大極右組織「イデンティテーレ運動」(IBO)の元代表マーテイン・セルナー氏がその会合で、北アフリカに最大200万人を収容する「モデル国家」を構築し、難民を収容するという考えを提示したという。その際、Remigrationという言葉を使用したというのだ。第2次世界大戦の初めに、ナチスはヨーロッパのユダヤ人400万人をアフリカ東海岸の島に移送するという「マダガスカル計画」を検討したことがあったが、セルナー氏の「モデル国家」はそれを想起させるものがあった。
調査報道プラットフォーム「コレクティブ」の報道によると、AfDの政治家、右翼保守団体「価値観同盟」のメンバー、右翼過激派や起業家らが2023年11月にホテルに集まり、そこで「外国人、移民の背景を持つドイツ人、そして難民を支援する全ての人たちを強制移住するマスター計画」などについて議論していたことが明らかになり、ドイツ国民や政界に大きな衝撃を投じた。その直後、ルペン氏は「AfDとは距離を置く」と述べていた。
ワイデル氏はルペン氏に宛てた書簡の中で、AfDが「移民」という用語を使用したことを正当化し、「この言葉は単にドイツの既存法の適用を意味する」と主張。ポツダムでの会合については「AfDを弱体化させることを目的としたメディアの嘘と操作だ」と反論している。そして「国民の支持を失った不人気なショルツ主導政権は実質的な問題をカムフラージュするためにポツダム会合の内容を捏造してAfD批判をメディアに流している」というのだ。
この説明でルペン氏が納得したか否かは不明だ。ルペン氏は中道派と調和し、右翼過激派の一角から抜け出すために努力してきた。2011年に党指導部に就任したとき、ルペン氏の最初の関心事は、当時まだ国民戦線と呼ばれていた党のイメージ改善だった。彼女は反ユダヤ主義的な発言をした党員を追放している。その中には彼女自身の父親、ジャン=マリー・ルペンも含まれていた。
その後、ルペン氏は選挙で成功してきたが、その政治信条は大きくは変わらない。フランス・ファーストであり、国家、フランスの主権を強調し、大国を誇示、欧州連合(EU)とドイツを批判。外国人嫌悪が強く、イスラム教徒に対しては批判的だ。
一方、AfDで思想的に影響力のある人物の1人、チューリンゲン州議長のビョルン・ヘッケ氏は国家社会主義の言葉を彷彿とさせるレトリックを常用し、国家社会主義に基づく専制政治を公然と主張している。ドイツの基本法は「ドイツ国籍を有する者はすべてドイツ人」と明記しているが、ヘッケ氏はそれを認めていない。単なる外国人排斥政策だけではない。反憲法、反民主主義、反ユダヤ主義的な世界観を標榜している。AfDは思想的にRNより過激であることは間違いないだろう。独連邦憲法擁護庁(BfV)がAfDを監視対象としているのも根拠がある。
いずれにしても、RNは近い将来、中道右派としてその過激な言動を抑えていけば、AfDとの連携は遅かれ早かれ難しくなることが予想される。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。